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今、ボカロやアイドルをどう語るべきか 音楽ジャーナリスト3人が2013年のシーンを振り返る

柴:そうですよね。で、宇野さんが仰る「ラノベみたいなもんでしょ」というイメージもまったくその通りで。要はボカロが出てきたときって、主に『東方(東方project)・アイマス(アイドルマスター)・初音ミク』っていう括りで語られていたんですよね。要は、キャラクター文化と二次創作の現象として初音ミクが語られていた。でも、僕はクリプトン・フューチャー・メディアの伊藤社長に何度も取材してきたんですけど、クリプトンってもともとサンプル音源を売っていた会社だし、ボーカロイドの技術を開発したのもYAMAHAなんですよね。だから、作っている側は完全に新しいシンセとして作っている。ってことは、シンセの存在がテクノを生み、ターンテーブルの存在がヒップホップを生み、エレキギターの登場がロックを生んだように、ボカロは新しい楽器が生まれたことによって作られた、新しいジャンルなんだと思います。

さやわか:それはその通りですね。ただ僕は宇野さんが言っていることが、別の側面からわかるような気がする。というのは、クリプトンはギーク的な技術屋とかハッカー文化にすごく近しいメンタリティの会社なんですよ。だから、あんまり著作権のこととかをとやかく言わないで、新しい音楽シーンを築くことにも積極的なんだけど、そのぶん従来的な、つまり商業的な音楽シーンとは距離が生まれやすいきらいはある。ここ2年くらいでそれが微妙に変わってきたようにも思いますけど、いずれにしても今シーンとして成り立っているボカロを、宇野さんの言うような従来的な音楽文化と地続きのものとして見るべきかって言ったら、そうではないということになるんじゃないかな。

宇野:あとは、単純に快楽の話なんですけどね。やっぱり音楽っていうのは快楽と密接に関わっているものだと思っているので、そこの部分でも琴線にまったく触れないんですよね。シンセの進化がボカロを生んだのも、ギターがエレクトリックになったことでロックが生まれたのも同じ構造だっていうのは理屈ではわかるんですけど、音楽の快楽性の部分でやはり違和感がある。今日はそれをぬぐい去るきっかけになればと思います。

柴:そもそも音楽ジャンルってなんだろうって思うんです。要はロック、ヒップホップ、テクノ、そういう音楽ジャンルってあります。でも日本って、JPOPとその下の○○系しかないんじゃないかと思っていて。渋谷系とか、ロキノン系とか。

さやわか:それ、さっき宇野さんが仰った「芸能」のお話とかなり近いと思います。90年代にあれだけ「豊かな」というか、ハイセンスな音楽シーンが盛況だったのは、「芸能」みたいな人たちがちゃんと音楽産業全体を潤わせていたし、音楽ファンの裾野も広げていたせいでもあると思います。「宇野さんが何と言おうと今の音楽シーンは芸能じゃなくて文化なんだ」とは言わないですけれど、今の状況が広がっていくと、最終的には裾野が広がって宇野さんの不満も自然と解消されるのではないかと思います。

柴:さきほど、音楽と芸能を一緒に語ることに違和感があると宇野さんは仰ってましたけど、僕は宇野さんと全然違って『これは芸能』『これは音楽』という区別をしていなくて。音が鳴っていて、歌が歌われているんだったら、それは全部音楽っていう風に僕は捉えています。その上で、着うたとかカラオケとかで『コミュニケーションツールとして利用される音楽』と『リスニング対象として利用される音楽』の違いは、歴然とあると思っていて。ゴールデンボンバーの『女々しくて』をみんなでカラオケで歌うと盛り上がるし、一方で一昔前だったらレコードの前に正座したり、今だったらヘッドホンで一人でMP3で聴くような、リスニング対象としての音楽もある。そういう区別をしていて。

さやわか:結局は捉え方の違いというか、音楽体験に対して、どのようなアプローチを取るかの違いなんだと思います。たとえば僕は今年AKB48を産業として捉えた本を書きました。その点では僕と宇野さんの立場って全然違うと思う。しかし僕の本も、よく読むと音楽的な側面からJPOPの歴史を俯瞰したものとしても読むことができるように書いたんです。

柴:産業的なJ-POPというものは如実にありますよね。その象徴が、いわゆる「桜ソング」だと思うんです。実は90年代時点では桜ソングはスピッツの「チェリー」しかなかった。それが、福山雅治さんの「桜坂」をきっかけにして、2000年代になって急激に桜ソングが増えた。それだけじゃなくて、春は桜ソング、夏になるとアゲアゲなお祭りソングで、冬にはバラード。そんな風にして、聴き手の生活とか季節感に過剰に寄り添う形で音楽が消費されていて。でも、その結果、すごく貧困な想像力しか稼働しなくなっていった。たとえば『会えない』とか、『会いたくて震える』とかね(笑)。

宇野:いわゆる着うたソングだよね。一時期レコード会社がばかばか作っていたフィーチャリングものとか。完全に下火になったよね、今。

柴:完全に行き詰まったと思います。で、それが行き詰まった末に何が生まれたかって言うと、アーティストの側で勝手に物語を作っちゃうという手法。

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