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大森靖子が語る、新作をメジャーで出した意味 「人がぐちゃぐちゃに表現できる場所を増やしたい」

「みんなが思っているけど、ここは言えてないよね、みたいなところをずっと探してる」

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--歌詞でいうと「今日はきみのダメダメなとこみせてほしい」(「デートはやめよう」)などが特に印象に残っているんですけど、そういう感覚ってあまり口しないだけで、多くの人が経験している恋愛の大切な部分ですよね。大森さんはそういうところを言葉で表現している。

大森:そうだといいですね。私の持論に「メンヘラじゃない彼女はセフレ」というのがあって、これは声を大にして提唱したいんですけど、メンヘラにもなれない関係ってクソじゃないですか? 私は感情的な人が好きなんですけど、自分がそうなんじゃなくて、そうなっている人が好きなんですよ。だからそういう曲をいっぱい書くのかな。喧嘩している人とか見るの好きだし、健全な同級生とかと歩いていると「見ちゃダメだよ」とか言われるんですけど、そんなの見たいに決まってるじゃないですか? そういう世の中が好き。多くの人は、感情を思いっきり出すのが下手だからダメなわけで、美しく器用に出せたら、それほどダメなことではないと思うんですよね。感情をうまく美しく見せたいな、見本になりたいなと思います。

--ライブでは、女の人たちが食い入るように大森さんを見てますよね。あれは普段表現されない何かが、大森さんの歌の中にあると直感して見入ってるんだと思うんですね。そのあたり、ポップミュージックではあまり取り上げない言葉やムードを歌っていこうという意識はありますか。

大森:みんな、あらゆる表現はやりつくされた論を展開しがちですけど、だったらなんで自分が共感できる音楽がなかったんだろうって不思議に思ってたんですよね。あってもすごいマイノリティだったり、ぜんぜん売れてなかったりする。だから、本当は穴だらけで、新しい表現なんていっぱいあるんです。そういうのを作るときは楽しい気持ちですね。これ、早くみんなに言いたい!みたいな。大学の授業はそれとは逆の感じで、「美術の技法はこんなにあって、これを勉強するだけでいいぞ」って4年間ずっと言われていた感じだったんですけど、全くそんなことないんですよ。

--大森さんは、加地等さんや豊田道倫さんといったシンガーソングライターを敬愛していると公言していますが、彼らから受け継いだものとは?

大森:ふたりとも大好きなんですけど、彼らがやっているのは太宰治的なロマンで、加地さんは死までいっちゃったので、そのロマンが完結しちゃった感じがします。太宰だって本当は死のうと思ってなかったのが、ちょっと間違って死んじゃったというか、女の感情に引きずられて死んじゃったんじゃないかと思うんですよ。加地さんだってわざと三畳の部屋に住んで、わざとそういう歌を書いていたでしょう。アル中になったのも、絶対にわざとなんですよ。そういう人の本質って、たぶん“気持ちいい”だと思うんです。だから、彼らは自分ひとりで気持ちいいものを作って、そこから出てこない。でも、私はそういう人こそ本当に面白いし、みんなに知って欲しい。彼らみたいな人がちゃんと世に出るようになれば、もっと世の中は面白くなるって考えています。そして、そのためには一回、わかりやすくメジャーでそういう表現を提示しないと道ができないとも思っています。だから、私がやらなきゃいけないんだ、と。

−−高円寺や新宿のライブハウスにあるような純度の高い空間というか、そういうライブの空気感を多くの人に伝えるために、いろいろと方法は考えましたか。

大森:めちゃくちゃ考えましたね。そして、大切なのは遠慮して過激さを抑えるんじゃなくて、余白を増やせばいいだけだということに気付いたんです。しかも、それは弾き語りでは絶対にできないことなんですね。直枝さんとバンドをやると、彼は気持ちよくなっちゃって、長い間奏を続けるんです(笑)。最初は止めてくれって言ってたんですけど、「ここの余白がないと意外と聴けなかったりするよ」って言われて、「あ、そうなんだ!」って気付いてびっくりしました。今はそのバランスっていうか、余白を面白がることをできているから、制作はめちゃくちゃ楽しい。

−−アルバムの中では、余白的なポジションはどのあたりに?

大森:曲単位でもあるし、一曲の中にもあります。『きゅるきゅる』とかのサビは全部そうですね。最初にそれをやってみたかった。

−−いい意味でのナンセンスというか、空っぽの言葉をいれてみたり。

大森:空っぽなんだけど、きゅるきゅるで全部言えちゃう感はすごく楽しかった。これで意味分かるんだから、愛しているなんて言わないでよって。そういう遊びはいっぱいやっています。……それとアルバム通してやりたかったのは、(聴き手の)ミラーになりたかったというか、その人がその人と向き合ってくれるものが作りたかったんですよ。自分にはそれが一番大きいですね。意外にこっちの手の内を見せたら、相手もそれに応えてくれるじゃないですか? 自分の秘密を教えたら、相手も教えてくれるというか。そういう感覚と、あとはとにかく言語化されてないこと。新しいことや、怖いことを言ってるつもりはまったくなくて、みんなが思っているけど、ここは言えてないよね、みたいなところをずっと探してるんです。その作業は楽しい。

−−“ここは言えてないよね”という情景が歌われている点では、「焼き肉デート」から「デートはやめよう」の流れは最高ですね。

大森:家でダラダラしていたい女の人も多いはずなのに、女の人はいつもデートをしたがってることになっていて、それはなんでだろうってすごく思ってた。男の人の方がそういう(ダラダラしようという)歌って多いじゃないですか? でも、私の周りだけかも知れないけど「なんでディズニーランド行かなきゃなんないんだろう?」とか思っている子もいっぱいいるわけだし。私も、そっちの方がいいなって思います。

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−−歌詞には具体的な描写も多くて、情報量が多いですね。

大森:抽象的な表現で幅を持たせているミュージシャンは多くて、それは聴き手が想像して補うものとして成立していて良いんですけど、でも私はもっと絶対的なことを言いたいし、もっと輪郭を持たせたいし、でも間口は狭めたくないって考えたら、情報量を増やすしかなかった。結果、歌詞が毎回多くなる。自分で見ても多くて、「覚えるの、めんどくせぇ」みたいな(笑)。

−−抽象的な内容にして、自由に想像してくださいというのはJ-POPのひとつの手法ですよね。

大森:それはみんなやってるし、それだと私のやりたいことができないんですよ。一曲の中でずっと同じこと言わなきゃいけないのがきつくて。一日中、同じ気分でいることなんてないのに、曲は矛盾しちゃいけないのは何でなんだろうってずっと疑問でした。今日嫌いなやつが明日好きかもしれないし、気分なんかどんどん変わるのにって。だから、機嫌が悪かったのに急によくなったりとか、そういうのを秒単位で表現したいんです。

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