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西尾維新原作『傷物語〈Ⅰ鉄血篇〉』はいかにして”映画らしいアニメ映画”を超えたか

【リアルサウンドより】

 昨年10月から日本テレビ系で放送されていたテレビドラマ『掟上今日子の備忘録』で、異様なほどの文字情報の氾濫に違和感を感じてしまったものの、原作クレジットに西尾維新の名前が記されていては、納得しないわけにはいかない。彼の作品ではおなじみの、言葉遊びで組み立てられた台詞回しやキャラクター名のインパクトは、実写では妙に浮いて見えてしまうが、これがアニメーションという舞台に立てば、作品の世界観として不思議とすんなり受け入れてしまえるものだ。

 2009年にアニメ化された『化物語』に始まる「<物語>シリーズ」は、現在では19巻まで刊行されており、1月15日には最新刊である『業物語』が発売となる人気シリーズなのだ。『傷物語』はその3巻目であり、2つ目の物語に当たるが、最初にアニメ化の話が出たのは、もう5年以上前に遡る。それから一度、2012年に劇場公開されると決定したものの延期が決まり、それ以後に発売した作品も含め、シリーズ作のほとんどすべてがアニメ化される中で、気が付いたらもう2016年になっているではないか。主人公が怪異なものと遭遇する、シリーズを通して見ても極めて重要な部分を描いているこの『傷物語』は、追いかけてきたファンにとっては待望のアニメ化である。もっとも、エピソードゼロとも呼べる位置付けにあるから、これまでこのシリーズに触れたことがない人が、本作から入ることもまったく問題がない。

 まさにようやく、という感じで昨年の秋に映画版公開の情報が出ると、それが3部作として公開されるという喜びもさることながら、第1弾予告編のあまりのスタイリッシュさに心を奪われたものである。この予告編の段階から、ちょっとした違和感に気付いた人も少なくないだろう。他の多くのアニメーション映画がテレビ向けの画郭で作られている中で、この作品だけシネスコの画郭で制作されているのだ。日本のアニメ映画で全編シネスコを採用した作品というと、古くは『少年猿飛佐助』が思い浮かぶが、それ以降では2012年公開された『エヴァンゲリヲン新劇場版:Q』ぐらいで、ほとんどが4:3のスタンダードかビスタ(もしくは16:9のHD画郭)で制作されているのだ。

 本作の制作会社であるシャフトはこれまでテレビアニメでもこのシネスコの画郭を何度も採用してきた。同社の前作『劇場版魔法少女まどかマギカ〔新編〕叛逆の物語』ではオープニングシーンに上下黒みを帯びたレターボックスのシネスコ画面にしていたはずだ。元々4:3の画面で作られていたアニメーションでは、横のレイアウトがかなり狭まってしまい、キャラクターを動かすためには必然的にカメラを振らなければならなかった。それが16:9の画面になったことで、カメラを振る必要が減り、その分フレーム内でのキャラクターの動きの自由度が増したのである。それがさらに横長のレイアウトが取れるシネスコになれば、自由度を活かすために、そのモーションの正確さがより重要となり、その労力は計り知れないものがある。単に上下に黒みを加えた擬似的なシネスコでは、映画としての画面に耐えうるものが完成しないのだ。

 そういった点で、『傷物語 Ⅰ鉄血篇』の公開がここまで遅れたことを受け入れないわけにはいかない。しかも、これほどの期間を要して作り上げられた、わずか1時間ほどの第1章が、あまりにも見事に「映画」としてのスケールを保っているのだから、驚愕である。セリフを排して映像だけで見せつける数分間の冒頭シーンに始まり、蝋燭の火を消すかのように一瞬で切られる章末まで、映画館の巨大なシネスコ画面いっぱいに映し出される西尾維新ワールドに、ただただ身を任すことしかできないだろう。突然実写を加工した背景が登場したり、画のタッチが激しくなったりすることも、恒例の文字の羅列も、この画面のスケールで味わえるのだから面白みが増す。

 主人公・阿良々木暦と羽川翼が出会う序盤のシーンから、画面の奥行きに加えて、その大きな横幅を存分に活かし、キャラクター同士の距離感を描き出すと、中盤の見せ場であるキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと遭遇する場面で、シネスコ画面の真価を発揮する。地下の駅のホーム中央に横たわるキスショットを見る阿良々木の背後に映るエスカレーター、そのショットのカットバックで画面のどこまでも奥に続くプラットフォームによってもたらされる虚無感を描き出すだけでなく、横幅に対する縦の狭さによって、ひどく閉鎖的な空間を演出するのである。

 それだけではない。この駅のホームで繰り広げられる一連のシーンは、極めて映画的な一場面であると思える。そもそも駅という舞台設定が物語の始まりの場所として描き出されるということは、リュミエール兄弟のラ・シオタ駅に始まる映画史そのものである。さらに、手足を失ったキスショットの周囲を囲う血液の赤色には光の当たり具合や、その赤が乗る場所によって微妙に色のタッチが異なり、まるでフィルムによって色のバリエーションが豊かになることを想起してしまうほど、想像力を掻き立てられてしまうのである。そもそも『化物語』の時点で、ジャン=リュック・ゴダール作品へのオマージュを捧げているという話は聞いたことがあったが、顕著にそれが窺えることがあまりなかったので、本作で僅かばかりでも映画的なオマージュを感じることができたのはとても嬉しく思える。


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