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構成作家・相沢直の“スナオなドラマ考”

テレビ史に残る名ドラマになるという確信――“偶然”を“奇跡”に変える方法『いつ恋』第1話

itsukoi.jpg『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』フジテレビ

 まず断言してしまうが、ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』は、フジテレビ月9の歴史に名前を刻む名作になるだろう。月9というか、テレビ史に残る作品だ。たとえば『東京ラブストーリー』(同)や『101回目のプロポーズ』(同)をリアルタイムで見ていたら、あるいは北海道が舞台というつながりで『北の国から』(同)をリアルタイムで見ていたとしたら、こんな気持ちになっていたのかもしれない。あらゆる場面が美しく、そして尊い。これがテレビで無料で見られる(かつ、公式サイトでは第1話の放送終了後7日間、無料配信までされている)というのがほとんど奇跡に近い、珠玉のテレビドラマだ。

 脚本は坂元裕二。1991年に『東京ラブストーリー』の脚本を手掛け、社会現象を起こした張本人が、月9での恋愛ドラマに帰ってきた。近年は『それでも、生きてゆく』(2011年/同)、『最高の離婚』(13年/同)、『問題のあるレストラン』(15年/同)など、社会性の強い人間ドラマで視聴者をうならせてきた坂元が、満を持してのストレートな恋愛ドラマ。視聴者からの事前の期待も高かったわけだが、第1話において、すでにそのハードルをやすやすと飛び越えている。

 恋愛を物語るということ。それは坂元にとって、脚本を書くという行為とおそらく本質として似ているのだろう。ゼロから何か出来事を起こすということではなく、登場人物に実際に起こった出来事を取捨選択して描くというのが坂元の手法だ。だから、そのリアリティが私たちの心を打つ。それは恋愛を物語るという行為も同じであり、人はしばしばただの“偶然”を、自分たちに起きた“奇跡”だと捉え、そうして特別な恋に落ちる。そこには語り手の意図が実は確かに存在しているのだが、恋をしている者はそれに気付かない。だからこそ、その恋は特別なのだ。

 実際、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』でも、かなりの“偶然”が起こっている。ヒロインである音(有村架純)に手紙を渡すため北海道へ出かけた練(高良健吾)は、クリーニング店で初対面を果たしてから、3度も北海道で出会っている。そんなことがあるだろうか? 結構広いぞ、北海道。だが、あるのだ。あるから描かれている。それは“偶然”ではなく、ただの“奇跡”だ。

 この“偶然”を、作劇上のご都合主義だと切り捨ててしまうのも理屈としては可能だが、そうさせないのが坂元の脚本、特にセリフだろう。実際に登場人物が生きている、今もどこかで暮らしていると思わせるリアリティがある。そのリアリティがあるからこそ、“偶然”は“奇跡”として私たちに届く。たとえば音と練の、こんなやりとりだ。

音「(トラックの荷台に積まれた大量のダンボール箱を見て)何が入ってんの?」
練「桃の缶詰です」
音「わたし、こんなに桃の缶詰持ってる人、初めて見た。これだけで、あなたのこと好きになる人いると思うよ」
練「(戸惑い)」
音「ねえ、東京ってさ、ひと駅ぶんぐらい歩けるって本当?」
練「本当です」
音「(すぐさま)ウソだ」
練「3駅ぐらい歩けますよ」
音「(練の胸を叩いて)ウソ言うな! 3駅って、選手やん」
練「選手じゃないです」
音「競技やん」
練「競技じゃないです。3駅歩く競技、ないです」
音「(笑ってアメを渡して)アメ食べ」

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