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『はじめまして、愛しています。』とことん善人な江口洋介が“アレ”じゃなきゃいいけど……

 そこで「運命」を扱うドラマには「サイン」というものが登場することになります。登場人物の認識や感覚、記憶といったものが偶然共通し、そこに意味らしきものが宿ったときにだけ、「運命」は形をもって画面に現れることになるのです。

 今回、この「サイン」の表現が素晴らしかった。

 もともと夫婦を結びつけたのは、美奈ちゃんのピアノでした。コンテストではまったく評価されない美奈ちゃんのピアノですが、信ちゃんにとっては世界一でした。若いころの信ちゃんは、自分が紹介した部屋で美奈ちゃんが弾くピアノの音色に救われたのでした。

 そして、孤児がこの家を訪れた理由も、まさに美奈ちゃんのピアノなのでした。美奈ちゃんがピアノの練習をしているときにだけ、孤児は施設を飛び出してこの家に現れるのです。

 ここまででもじゅうぶんに「サイン」ですが、一言も口をきかない孤児は、美奈ちゃんがピアノを弾いて聞かせると、鍵盤ににじり寄って「ド」の音を鳴らします。

 それに合わせて、美奈ちゃんが「ドレミの歌」を歌うシーンがあります。

「ド」は、ドーナツの「ド」。孤児が初めて庭に姿を現したとき、美奈ちゃんが差しだしたのがドーナツでした。

「レ」は、レモンの「レ」。美奈ちゃんの作るレモネードは親族一同に大評判で、梅田家にはいつもレモンが常備されています。

「ミ」は、みんなの「ミ」、「ファ」はファイトの「ファ」。子のいない夫婦と見知らぬ孤児が、声を重ねて歌います。

「ソ」は青い空。ホームで暮らす信ちゃんのお母さんによると、美奈ちゃんがお見舞いに来る日は「いっつもバカみたいに青空」なんだそうです。

「ラ」は、ラッパの「ラ」。信ちゃんはいつも、ラッキーアイテムとしてラッパの玩具を持ち歩いていました。マンションの内見に来たお客さんの連れていた赤ちゃんは、そのラッパを吹くと途端に泣き止みました。

「シ」は幸せよ。身元のわからない子どもは、最終的に自治体の首長が名前を付けることになります。最近では、「幸」の字を入れた名前を付けるケースが多いんだそうです。

「さぁ、歌いましょう」

 美奈ちゃんと孤児が、ともに歌うのです。

「さぁ、歌いましょう」

 劇中、まったく無関係に思えた小さなアイテムや心象描写が、意味を持ってクライマックスの「サイン」として作用し、明確に「運命」を演出したのでした。さすがベテラン脚本家。圧巻のストーリーテリングです。


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