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テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第133回

いよいよ一挙再放送! NHK『大アマゾン 最後の秘境』の「わからない」という恐怖

 別の夜には、酔っ払ったガリンペイロ同士がケンカ。そのうちのひとりが興奮して、銃を持ち出した。

「やばい、やばい!」

 カメラマンが慌てて逃げ出す。酔っ払って理性を失った男たち。銃口がスタッフに向けられない保証はどこにもない。「死」の恐怖がリアルに迫ってくる。

 第4集の「最後のイゾラド 森の果て 未知の人々」は、文明社会と一切の関わりを持たない先住民「イゾラド」と近隣の村人たちとの衝突を描いたものだ。

 イゾラドは洋服を着ない上、武器も木製の弓矢や槍。

 彼らが、かつて自分たちが住んでいた集落に、自分たちと同じ人間が住んでいるらしいことを知り、まずは男たちだけで川を渡り、近づいてくる。攻撃するつもりだろうか? 険しい表情で、何やら話し合っている。

 村人たちは、彼らをむやみに攻撃するつもりはない。なんとかコミュニケーションを取ろうと、大きな声で話しかけていく。

 お互いが警戒し合って、なかなか距離が縮まらない。村人たちはバナナなどを与え、友好関係を築こうとしたが、結局後日、その集落は彼らに襲撃されてしまう。

 ペルー政府は、文明社会にイゾラドをなじませるために交渉役を立て、接触を謀る。11回目の接触に、カメラマンが同行。

「この人、誰?」

 見知らぬ顔を見つけたイゾラドの一家は、不信な表情で詰め寄ってくる。

「ノモレ、ノモレ、ノモレ」

 カメラマンは、「友達」を意味する言葉を必死で繰り返す。すると、カメラマンの着ている服に興味を持ったのか、それを脱がそうとする。

「私の子どもに危害を加えるなよ」

とすごんだと思ったら、「妊娠してるの」とおなかを触らせようとしたり、動物にかまれた傷痕を親しげに見せてきたりもする。

 にこやかになったと思ったら、その数秒後には、急に攻撃的な表情に変貌する。

 お互いがお互いを「わからない」という感情が、攻撃性を刺激したり、不安を煽ったりする。

 ある程度危険な被写体であっても、テレビカメラがあればめったなことはしないだろう。そんな希望的観測は、まったく通用しない。21分間というこの接触は、おそらくカメラマンにとって永遠のように長く感じられただろう。

 本当の恐怖とは「わからない」ということだ。だが、その「わからない」が映像になると、極上の刺激的作品に変わっていく。もはや、テレビで「わからない」ような未知の世界は残っていないなどといわれる。だから今、テレビはよりわかりやすい方向にばかり進んでいる。

 だが、テレビだからこそできるスケールと時間をかけて、国分たちNHK取材班はアマゾンの奥地で未知の「わからない」という金脈を掘り出したのだ。
(文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/

「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

最終更新:2019/11/29 17:38
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