『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』出版──現場にいたアイドルヲタクの雑感
そして、それらの淘汰と洗練を繰り返し、モーニング娘。のヒットが生まれ、その後に続くアイドル繁栄時代へとつながっていくのだ。
つまり、冬の時代だからこそ、人々は苦しみ、考え抜き、アイデアを出し、それを実行した。
その多くは、大きく花開くことなく消えていったかもしれない。しかし、わずかではあっても、その思いや作戦は脈々と受け継がれ、やがて大きな花を咲かせる。
アイドルという象徴的な事象で語られてはいるが、これは、何においても同じことだろう。「今が辛い」と嘆いている人は、必死でいろいろなことを想像するといい。それは、不自由なく安穏と暮らしている人にはできないことだろうから。
辛かったり、苦しかったり、逆境であったりする時の方が人は様々なことを考えうる。そしてそれがやがて実を結ぶための「種」となるのだ。この本からは、そんなことが学び取れるような気がする。
検証記事の後には、独断と偏見によるアイドル名曲の紹介がなされている。当時、アイドルソングを聴きまくっていた身としては、ここは楽しい。「麻田華子で『さよなら、DANCE』(ビクター)を持ってくるあたりは通だな」とか「姫乃樹リカなら『ときめいて』よりも『もっとHurry Up!』(ともにビクター)だろ!」とか、いくらでも突っ込みを入れながら読んでいられる。
昔からのアイドルファンで集まったら、このページを肴に一晩飲み明かせそうなほどだ。
そして、最後に載っているのが、あの時代のアイドルソングをカバーしている、現役アイドル、「さんみゅ~」と「ハコイリムスメ」メンバーのインタビューだ。
私は両方ともライブを見たことがあるが、いずれも原曲を歌っているアイドルに対し、リスペクトを持って歌っているのが感じられた。今回のインタビューでは、その裏づけがとれた形だ。
この本の執筆者の多くは、アイドル冬の時代を越えてきたライターや編集者たちだ。つまり、この本は、アイドル側の声を聞き、編集者たちが分析を行い、アイドルファンがそれを読むという構図で完成するのである。
この先、またいつ冬の時代がくるかもしれない。
しかし、恐れることはない。
この本にあるように、思いと志があれば、いつか道は開けてくる。
その時のために、今のアイドルをたくさん見ておこう、そして、学んで楽しんで、自分の中にたくさんの思い出を溜め込んでおこう。それはきっと、未来へつながる、心の糧となるはずだから。
(文=プレヤード)
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