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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.404

“理想の夫婦”を演じたエリートカップルの惨劇!! 共依存による殺人事件『ひかりをあててしぼる』

hikariwoatete02浩平(忍成修吾)と智美(派谷恵美)は周囲に対し“理想の夫婦”を演じるが、浩平の年収が倍増したことで妻へのDVが始まる。

 理想の夫になろうと努力して転職するも、ストレスから妻への暴力が止まらなくなる浩平に『リリィ・シュシュのすべて』(01)や『ヘヴンズ ストーリー』(10)といったシリアスドラマに出演してきた二枚目俳優の忍成修吾。DVに遭いながらも高級マンションで暮らすセレブ妻という立場を手放そうとしない智美に、『非・バランス』(00)で主演デビューし、中島哲也監督の『渇き。』(14)でオダギリジョーの妻役を好演した派谷恵美。この2人をキャスティングし、実在の事件をモチーフにした本作を撮った坂牧良太監督に製作の発端について聞いた。

坂牧「2011年に舞台版『ひかりをあててしぼる』を上演したんです。そのときは飯田橋にあるビルの6階でのアトリエ公演だったんですが、高速道路などの夜景が見渡せるロケーションだったことから、この景観を活かせる舞台ができないかと考えたんです。それで思いついたのがデザイナーズマンションの一室で起きたあの事件でした。2010年には判決が出ていたこともあり、事件に関する資料はかなり調べたんですが、そこで気になったのは加害者だった妻が『暗くしか見えなかった代々木公園の景色が、(事件直後の)その朝はとても美しく見えた』と証言していたことでした。事件を起こしていながら、なぜ窓からの景色が美しく感じられたのか? いくら頭で考えても分からない。それで舞台、そして映画にすることで、自分なりに突き止めてみたくなったんです」

 世界各国で大ヒットしたデヴィッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』(14)も本作と同じように、世間からは“理想の夫婦”と思われていたセレブカップルのそれぞれの仮面が次々と剥がされていく家庭内サスペンスだった。一緒に暮らしている夫婦の間には深い溝が横たわっている。実際のバラバラ殺人事件では、加害者の歌織は新潟の実家から毎月30万円の仕送りをもらいながら白百合女子大学に通う一方、性風俗店でアルバイトし、ブランド品で着飾っていた。大学卒業後は丸紅のOLと周囲に吹聴していたが、丸紅には短期間派遣されただけだった。歌織に出会うまでは友人宅を転々としていた夫は学生時代からギャンブルにハマり、借金があることを隠して歌織と交際を始めた。お互いに美しい部分だけを相手にプレゼンしての結婚は、実生活を共にすれば破綻するのは当然だった。だが、意中の相手に自分のプロフィールを盛って見せ、付き合い始めてからも自分の理想像を相手に押し付けてしまう行為は誰もが犯すことだろう。秘密を抱え、理想の生活に固執した歌織が引き起こしたこの事件は、他人事としては済ませられない恐ろしさがある。

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