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【messy】

15歳の少年に“クリイキ”を教えることの是非ーー映画『20センチュリー・ウーマン』

 先週の当コラムでは、雑誌「with」の“結婚できるセックス”特集で飛び交っていた前時代的な言説を「あれ、いまってまだ20世紀でしたっけ? 的なアドバイス」と書きましたが、これは乱暴なくくりだったかもしれません。性に対する価値観が歴史上最も劇的に変化したはずの20世紀、いまのほうがむしろ退行している面も多いでしょう。

 現在、映画『20センチュリー・ウーマン』が公開されています。舞台は1979年の米国カリフォルニア州サンタバーバラ。主人公のドロシアは働きながら15歳の息子を育てるシングルマザーです。社交的で、自身の車が故障して炎上したときなどは消火に駆けつけた消防士をホームパーティに招くほど。自宅の空き室を貸し出し、共同生活を営んでもいます。

 目下の悩みといえば、息子の成長。二次性徴の真っ只中にある息子ジェイミーの心と体が揺れ動いていることを感じ、世代も違えば価値観も違う自分よりも、年齢の近い女性のほうが彼に影響を与えられるのではないかと考え、息子のガールフレンドであるジュリーと、ルームシェアしているパンクな女性フォトグラファー・アビーに「息子を助けてやってほしい」とお願いするのでした。だって自分は息子の聴くパンク音楽も、好きだというものもまったく理解できないから。

 ドロシアを演じるのは、大女優アネット・ベニングですが、一見して思わず「老けたな!」と感じてしまいました。私が彼女の出演作を最後に見たのは、『キッズ・オールライト』(2010年公開、映画通じゃないものでスミマセン)です。同じ男性から精子提供を受けてそれぞれに設けた子どもを育てるレズビアンカップル(相手役はジュリアン・ムーア)の役でした。

息子の教育を、若い女性に託す

 ベッドシーンもあリパートナーの浮気に嫉妬するシーンもあり、この作品では恋愛現役感バリバリでした。ちなみに私がなぜこの作品を鮮明に覚えているかというと、彼女らのベッドシーンで、当時の私が愛用していた日本製バイブレーターが登場したからです!

 しかし本作でのアネット・ベニングは息子や同居人らをまじえた食事に男性を招きはしても、ふたりきりで会うことには及び腰。会社でレズビアンだと噂されていることを知り、ちょっと傷ついた顔はしても、基本的には「母である」ことのアイデンティティが第一。生活感あふれ年齢以上に見せるよう役作りがされています。

 息子は息子でそんな母に苛立ちを感じながらも、この年齢なら当然のごとく女の子とセックスに興味津々。そんな彼にアビーはフェミニズムや女性のオーガズムについて書かれた本を与えます。15歳男子(童貞)が「女性はクリトリスでオーガズムに達する」なんて読んだら衝撃なわけですよ。同世代の男子が「昨夜はオレのもので彼女を3回もイカせたぜ」とうそぶいたら、思わず「わかってないな、そうじゃなくてクリトリスを指とかバイブとかで刺激するんだよ」と言いたいわけですよ。

 でも男性にホントのことをいうと逆上されるのはいつの世も同じことらしく、ジェイミーは彼にボコボコにされるのです。痛い思いをしたジェイミーに、その本を渡したアビー自身が「男友だちのセックストークには合わせておいたほうがいいわ」という、矛盾を孕んだ助言をしました。フェミニズムやオーガズムについて男性も学ぶことが悪いわけではありませんが、彼に関してはまだその“時期”ではなかったようです。それは彼がそれを知りたかったからではなく(好奇心はあったにしても)、それを教えたい人たちによってもたらされたものだからです。

改ページ

 女性たちはみな性やセックスにおいて苦い思いをしています。アビーは子宮頸部に機能不全が見つかり、将来的に子どもを持つのは難しいと診断されます。ルームシェアする男性と性的関係にありますが、惰性のつき合いのようです。17歳のジュリーはボーイフレンドたちとのセックスについて「オーガズムなんて経験したことがない」「2回に1回は後悔する」とジェイミーに心情を吐露します。母親のドロシアも年をとった女性に向けられる視線に戸惑い、それと同時に自分に性的なコンタクトを仕掛ける男性の存在にも混乱を覚えます。

 特に若い2人が露悪的に性の話をするシーンは、食事中に生々しい性の話をするのが下品だからでなく、癒えていない傷口を開示しているような痛々しさがあり観ていてつらいものがありました。

 そんな彼女たちだからこそ、まだ性の扉を開いたばかりのジェイミーに「こういう男性になってほしい」「女性のこういう本音を知っておいてほしい」と期待してしまうのでしょう。しかし彼は彼でひとりの人間ですから、それぞれの女性に対して期待があります。セックスをしたい、一人前だと認めてほしい、ほかの人を介さずに自分と直接向き合ってほしい……。でも彼はまだ未熟なので、それをうまく伝えることもできません。

性には他者との葛藤がつきまとう

 性にまつわるアレコレは、自分以外の人との間で起きる葛藤が必ず伴います。そこには、期待や失望も含まれます。一方的に押し付けてしまうこともまた、人間的な行為。ですが自分自身の“性”が確立されていれば、それによって不必要なほど人を傷つけたり、そのことによって自分も傷つかずに済むのではないか、と思えてなりません。

 サンタバーバラといえば、「サンフランシスコ発! 性の活動家女性が教えてくれる『セックスポジティブ』」でご紹介したMIDORIさんのホームと同じカリフォルニア州です。同じ州でも違いはあるのかもしれませんが、1960年代にはピルが販売され女性がバースコントロールをはじめ、1970年代はフリーセックスな空気がこの地を覆ったといいます。本作の舞台は1979年。人々がオープンなセックスライフを楽しむ時代は、そろそろ終焉を迎えようとしています。なぜなら1980年代に入るとAIDSが蔓延し、セックスは忌避されるものとなるからです。

 国も違うし時代背景も違う、この時代の人たちがこうして傷つき行動してくれたからこそ今を生きる私たちがラクになったこともあるし、彼女たちが生きた時代のほうがよほど先進的だった面もある、そして前世紀からの宿題としていまの時代に託されているものもあるーー私たちの性に関する悩みや課題は“点”のようでいて、“線”でつながっているんだと思いました。10代のジュリー、20代のアビー、50代のドロシア……ひとりの女性のなかでも年齢とともに変わっていきます。「20センチュリー・ウーマン」の性は、「21センチュリー・ウーマン」の性でもあると感じました。

最終更新:2017/06/09 07:10
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