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我ら、頼りになる、強い嫁に仕えて <育児する男>樋口毅宏×劔樹人【1】

 「イクメン」という言葉が流行して久しく、「夫も早く帰宅して家庭にコミットしてほしい」という妻の声はいたるところから聞こえるようになった。「共稼ぎなら、家事育児も分担を」が一般的になりつつあるが、「私が稼ぐので完全主夫業をお願いしたい」という女性もいれば、一方で「夫には妻より稼いでほしい」と望む女性もまだ相当数いるだろう。

 そもそも何をもって「イクメン」とするかも人それぞれ全然違うし、「イクメン」を自認する男性のライフスタイルも十人十色だ。

 実際に家庭にコミットし家事と育児を担う男性として、『さらば雑司ヶ谷』『タモリ論』などで知られる作家の樋口毅宏さんが、新潮社から『おっぱいがほしい!:男の子育て日記』を上梓したのが今年6月末。時を同じくして、音楽畑で活躍してきた漫画家の劔樹人さんは、『今日も妻のくつ下は、片方ない。妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました』(双葉社)を刊行。ふたりとも一児の父親として、育児に奮闘している。

 男として、親として、どのように妻と接し、子供を育てているのか。お二人のライフスタイルをそのまま明かしてもらった。

■樋口毅宏さん:作家。1971年生まれ。奥様は弁護士の三輪記子さん。1才9カ月の息子さんを子育て中。
■劔樹人さん:ミュージシャン、漫画家。1979年生まれ。奥様はエッセイストの犬山紙子さん。7カ月の娘さんを子育て中。

赤ん坊と二人きりの夜にも慣れた

――今日は新潮社さんの会議室をお借りしての対談収録ですが、お二人ともお子さんは保育園に預けてここにいらしてくださったんですか?

樋口 そうですね、平日は毎日、決まった時間を保育園で過ごしているので。僕は朝、息子を保育園に預けて、京都から東京まで新幹線で来ました。終わったらまた新幹線で帰って、保育園にお迎えです。劔さんのところは今、生後何カ月ですか?

劔 7カ月です。保育園になんとか入れたので、今日は預けて来ています。よろしくお願いします。

樋口 入園おめでとうございます!

劔 ありがとうございます。でも居住地が保育園激戦区なので、認可保育園に入るのは最初から無理だと思ってました。1月生まれで、第一次の入園申し込みに間に合わないから不利だろうと。ただ、「日本死ね」騒動があったおかげか、区の保育課に動きがあって。ちょうど去年から、子供が生まれる前の時点でも入園申し込みができるようになったんですね。でもそれを区に聞きに行った時、できるようになると決まっていたのにも関わらず「無理ですね」と言われてそれを鵜呑みにし諦めてしまっていたんです……で、うちの妻が怒りましてね。

樋口 (笑)。

劔 僕が悪かったなと思いますけどね、きちんと区のホームページをチェックしておけばよかったので。それでも何とか認証保育園に入れたので、良かったです。

樋口 うちは第三希望の認可保育園に入れたんですが、自宅から徒歩20分の距離で、今は自転車送迎ですが、最初の数カ月は雨の日も風の日も抱っこヒモで抱えて登園降園をしていました。

劔 第三希望なら入れたというのは、京都はそれだけ、東京の激戦区と比べれば待機児童が少ない?

樋口 東京の、たとえば世田谷区と比較したらマシでしょうね。京都区役所に夫婦で申請、面談した際、「作家なので家で仕事をしています。子供が生まれてから、コラムといった短い原稿なら書けても、小説は1本も執筆出来ていません」と正直に話しました。保育園に入れなかったら今頃は育児ノイローゼになっていたと思います。

――劔さんは区の申請では第三希望まで全滅でしたか?

劔 うちは第十希望まで全部ダメだったんです。

樋口 ひどすぎる(涙目)!

劔 認証保育園もかなり諦めムードでしたが、なんとか入れて。それがなかったら今日、この対談には来られなかったですね。今は平日、12時から16時まで子供を預けています。慣らし保育ではないんですが、まだ小さいので、妻もあまり長い時間預けたがらないですし、一日4時間だけにしています。

樋口 お昼から預けられる保育園ってあるんですか?

劔 はい、うちは開所時間内なら何時から何時でもよくて、一カ月ごとに保護者がこの時間でお願いしますと提出しておけば。

樋口 うちは朝の登園時間を過ぎたら預かってもらえないです。おやつや給食の用意などがありますからね。

劔 時間がきっちりしてるんですね。

樋口 でも4時間なんてあっという間ですよね。僕だったら、集中力を要する長い作品は書けない。

劔 洗濯と風呂掃除などしていたらあっという間に過ぎますね。自分の仕事をしようと思ったらもうお迎えの時間で。僕なんか、他の人が10分でできることに30分かかってしまうようなタイプの人間なので、本当にダメで……ひとつやっているときに他のことが気にかかると、わけわかんなくなっちゃうんですよ。

樋口 わかりますよ。僕も人のこと言えないんで。生後7カ月ってとにかくまだ、嵐の中だろうなって感じがします。僕は今、京都という見ず知らずの土地に、妻の仕事でついていくかたちになって、初めての子育てをやっていて、そんな中で親近感がわくのはやっぱり、同じように保育園の送迎をしているお父さん、家事育児をいっぱいやっているお父さんなんですよね。そういう方と積極的に知り合いたい、仲良くなりたいと。だから今日、劔さんとお会いできるのは本当に楽しみにしていました。しかも奥さんが似たニオイがするというか! 美人で、コメンテーターのお仕事もしていて。

劔 そこは似ていますよね(笑)。特に、樋口さんの奥様の三輪記子さんはテレビの仕事(TBS系『白熱ライブ!ビビット』隔週水曜レギュラーなど)をされていて、東京に出張で来られる。番組が朝早いですから前日の夜に前乗りですよね? うちの妻も、名古屋や大阪の番組に出演するのに出張しますから、同じだなあと。

樋口 必然的に、赤ん坊と二人きりの夜が週に1~2回は発生しますよね。最初のうちは不安もあって、子供がずっと泣き止まなかったり病気になったりしたらどうしようとか心配でしたが、今ではすっかり慣れまして、週に1~2回ぐらい妻と別々の夜を過ごしてもいいなと思うようになりました。

劔 僕も当たり前のように「今日はいない日」というのがあるので、普通ですね。でもね、どういうわけか、僕よりも妻のほうが子供の異変に気づくんですよ。たとえばみんなで寝ているときに、子供がうつぶせになっているとか。ハッと。僕がどうしてもぼんやりしていて……。

樋口 奥様から叱責される?

劔 叱責というか、「うつぶせになってる」と言ってるのを聞いて気づいて慌てるとか。なので一人のときは、そういう意味で「ちゃんと、ぼんやりしないようにしなきゃ」という緊張感はあります。

成長と共にパターンはどんどん変更する

樋口 どうやって寝てます? うちは最初はベビーベッドをレンタルしていたんですが、そっちで寝かしても赤ん坊が泣くばかりなので、ほとんど使うこともなく返却しました。今では夫婦で寝ていたダブルに、シングルのベッドを繋ぎ合わせて、親子三人川の字で寝ています。

劔 ベッドの横にマットレスだけ敷いて、子供と親1人がそっちで、もう1人は上のベッドで寝るようにしてます。寝かしつけのときは妻が添い乳で、寝付いたらポジションを代わったりします。でもパターンが定まってきたくらいで子供が一段階成長して、また組み直し、みたいになるじゃないですか(笑)。

樋口 なりますなります。うちも寝返りをするようになってから、ベッドの土台を外してマットレスのみにして、まわりにクッションなどを敷き詰めて、赤ん坊が落ちても大丈夫なようにしました。寝室はもう完全にベッド部屋って感じです。

劔 うちは最初「こういうタイミングで交代ね」とか決めたりしたんですが、成長に伴って夜中の目覚める時間も変わってきたし、今は妻の仕事がとにかく忙しいのでなるべく妻にはまとめて寝てもらって、僕が子供と一緒に寝るようにしてます。でも、寝かしつけるときだけ、おっぱいがあると……。

樋口 そう、そうなんですよ。まさに「おっぱいがほしい!」なんですよ。あんなに可愛がって、赤ん坊が懐くようになっても、何度となく思わされましたね、「おっぱいがある母親には敵わない」って。奥様もお忙しいですし、7カ月だとそろそろ、卒乳も考えている?

劔 今はまだ、添い乳の便利さから出来るだけ長くおっぱいをあげたいようなんですが。

樋口 うちは6カ月でだいぶ歯が生えてきて、妻も「乳首を噛まれて痛い」ということで、きっぱり卒乳して、粉ミルクと離乳食に切り替えました。思ったよりすんなり乳離れしてくれて良かったです。

劔 歯が生えてくると若干、あげる本人としては考えるかもしれないでしょうけど。

樋口 うちは男児ですが、劔さんのところは女の子ですよね。デリケートな問題なのでこんなことを訊いていいかわからないけど、オムツを替えるときに、女の子の場合、拭くのが難しいのではないかなと……。複雑すぎる因数分解という感じじゃないですか、男にとってみれば。いかがですか。

劔 当たり前のようにやってきたから、慣れかなあ……。妻からは「大腸菌が入るといけないから、お尻から前に向かって拭くな」と教えられました。今は夏場というのもあって、うんちをしたらシャワーで洗っています。自分はお風呂にあまり入らないんですけど……。

樋口 お風呂が嫌い?

劔 いえ、時間がなくて……自分のお風呂って一番、後回しにしちゃうんですよね。僕、頭がまわらなくてですね。「今お風呂に入ったら?」とか、だいぶ妻に助けられてやってると思うんですけども。

夜型仕事から朝型に…

劔 我が家は基本的に家事担当はすべて自分だったんですけど、子供が生まれてからは少し変わりました。妻は僕のコンディションにもわりと気を配ってくれるというか、例えば僕の負担を減らすために家事代行サービスを週2で頼んだり、優しいと思います。

樋口 はあ、いいなあ~。

劔 僕が無理してやろうとしてしまうところを、「いいよちょっと無理しすぎないで、遊びに行っていいんだよ」と言われることがあります。あの、樋口さんの『おっぱいがほしい!』の中に、世のお母さんには少しの間でも子供を離すなとかいう母性信仰が根強くて酷いことだ、とか書いてあったじゃないですか。僕もそう思うんですよ、ナンセンスですよねえ。

樋口 でしょう? 女性が自分の夫や彼氏をどんなに好きだとしても一日に数時間は別々の時間が欲しいのは当たり前だし、それを口に出して行動していいのに、対象が「夫」や「彼氏」から「赤ん坊」に変わると怒る人がいるんですよ、「母親のくせに」とか言っちゃってね。母性を過信するのは大間違いですよ。僕だって赤ん坊が可愛いけど、一日に一時 間でも妻に預けて近所のコンビニにひとりで行けたら、はぁスッキリって頭をクリアに出来ますよ。誰しもそうした必要な時間なんです、絶対に。

劔 そうですよね。だから僕のところは今は一日に4時間、保育園に預けてますけど……でも先ほども言ったように家事やら何やらで4時間終わってしまうので、なかなかそれ以外のことが出来なくて。

樋口 文章やマンガを書いたりのお仕事は、いつやるんですか? 1本書くのにどれくらいお時間かかったりします?

劔 どれくらい……う~ん、何とも言えないんですよね。今、書くのにすごく時間のかかる連載をやっておりましてですね……もともと、つげ義春先生に憧れがあって、非常に細かい一枚絵なんかを描きたくて。そういうのを一回やり始めちゃうと、どんどん線が減ったら手抜きになっちゃう。

樋口 つげさんのような精密な画風は、時間がかかるでしょう?

劔 そうなんですよね、すごく。あれくらい絵が上手になりたいなって気持ちなんですけど到底無理なので、まあそれでも丁寧に時間をかけて……大体、作業するのは夜中です。

樋口 夜中に作業って、つらくないですか? 僕なんか学校出てからここ20年、完全に夜型の人間で、夜仕事して朝寝る生活だったんですよ。ところが子供が生まれてそれじゃどうにもやっていけないから、20年ぶりに朝型に変わりました。そうじゃないと頭が回らない。劔さんもミュージシャンだし、夜型かなと思うんですが……。

劔 夜型でしたねえ。今も、夜3~4時まで仕事して、午前中はわりと寝かしてもらってるんですよね。午前中は妻が子供を見ててくれて、昼に僕が保育園に送って行ってから家事やって16時にお迎えしてお世話して、というタイムスケジュールです。……でもね、最近またちょっと事情が変わってきてるんですよね。

樋口 変わらざるを得ないですよね。

劔 妻がやっぱり忙しいので、そこをフォローしようとすると、僕も朝ちゃんと起きて子供の相手をしなきゃなと思うんですよ。

――お子さんの保育時間を、昼からじゃなく朝からにするとまた変わってくるのでは?

樋口 僕も朝方まで起きて原稿を書いて、寝落ちしてから1時間だとしても無理やり起きて、子供を保育園に送らなきゃいけない。それがつらすぎて。だったら夜早くに寝たほうがいいなってなりました。

劔 毎朝決まった時間に起きて午前中に登園すると、子供も生活リズムが安定するから良さそうですよね。

現在進行形でエキセントリックな妻と、かつてジャックナイフのようだった妻

樋口 劔さんの著書やインタビューなどを読ませていただいてすごく思うのが、本当に人柄の良い方なんだなと。

劔 気が弱いだけじゃないのかなあ(笑)。

樋口 気が弱いだけだったら、あんなにいいバンドのベーシストは務まらないですよ!

劔 いやいやいや。でも、僕のこういう性質は、うちの妻との相性はすごい良かったんじゃないかなというのは思います。彼女がああいう感じで……男気がある感じっていうか、引っ張ってくれるので。

樋口 うちもそうで、妻が主導権というかマウントを取るタイプで(笑)。僕は劔さんみたいに穏やかな性格ではなく、ほんとはマウント取りたがる人間なんです。ただいかんせん、妻のほうが頭も良いし理詰めで諭されると敵わないんですよね。

劔 やっぱり弁護士さんってすごいんですね。

樋口 鬼なんてもんじゃないです。劔さんは奥様から怒られたりしますか? というか、夫婦喧嘩ってします?

劔 基本的にうちはすごい仲が良い夫婦なんですよ。

樋口 いいなあ~。

――『今日も妻のくつ下は~』でも、「妻に叱られちゃった★」というような描写はあっても、喧嘩の描写はないですよね。

劔 喧嘩はないんですが、彼女も弁が立つ女性ではあるので、理詰めでテンポよく、ポンポンポンと言葉を投げてくるんですね。だから別に向こうはそのつもりはなくても、僕が勝手に怒られてる気持ちになっちゃうというだけなのかなって……。本当にそんなにね、さほど怒らないんですよ、それに「今日は余裕がなくて口調がきつくなってるわ、ごめん」と前もって言ってくれるし。

樋口 へえ~……。

劔 そう言われたところで、ってのはありますけどね(苦笑)。

樋口 うちは恐ろしいですよ。「このハゲー!」「違うだろー!」どころじゃない。あの女性議員の罵声で世間が騒いだときは、「この程度で大騒ぎしてんの?」と思ったぐらい。今度妻が怒ったら録音してネットにアップします。

――大袈裟に言ってません?

樋口 違う違う! こっちは「バカ」とか具体的な悪口はひとことも言ってないんですよ? それにもかかわらず、すぐにキレて、「死ぬ」とか「飛び降りてやる」とか「手首を切り落としてやる」とかエキセントリックに叫び続ける。あまりの怒声に寝た子も起きちゃうほどで。

――それって産後うつだった時期だけじゃなくですか?

樋口 こないだも一週間に4回、ヒステリックに怒り出しました。親子三人でフジロックに行ってるときに。

劔 ええ、雨で大変じゃなかったですか?

樋口 散々でしたねえ。でも二日目は妻がめずらしく優しくて、宿泊先から出ずに息子を一日見ててくれたんですね。自分も見たかっただろうに、僕に「オザケン行ってきなよ」と言ってくれて。ありがたかったですね。こんな優しい面もあるんだ、と思いました。次の日は、宿泊部屋が同じ人が、そばにいようがかまわず、大声でがなり立ててきましたが。

劔 責め立てられるとき、樋口さんも言い返して喧嘩状態になるんですか?

樋口 もちろん言い返すんですが、まっっったく勝てない。論理で詰められても勝てないし、感情でも勝てない。しかも隣近所から通報されかねない声のボリューム。これまで交際してきた全彼女から怒られた時間を合計しても、妻からの怒号・叱責・説教の総時間が圧倒的に上回ってますね。桁が1つ、いや2つ以上多いな。

劔 逆にうちは、怖い妻と気弱な夫に見えるようですが、実はそこまで恐妻家ではなく、仲良くやっていると思います。妻も若い頃は、男をコキおろしたりとか、結構していたとは思うんですけども、今はそんなに……。

樋口 実は僕、犬山紙子さんにお会いしたことがあるんですよ。

劔 えっ、そうだったんですか!

樋口 4年ぐらい前かな? 下北沢B&Bで、僕がもっとも育児の影響を受けた『ママだって、人間』の著者、田房永子さんのトークショーがあったときに。犬山さんはゲストだったかな。劔さんも客席にいました。

劔 えっ、いたかもしれない。

樋口 そのとき一緒に行った彼女が、「あの人が劔さんていう、犬山さんの彼氏だよー」って教えてくれました。

劔 えー!!!

樋口 でね、そのとき犬山さんにご挨拶したら……僕、ボロボロの帽子をかぶってたんですね。そしたら犬山さんが開口一番、「あんた、なんだよその帽子~w」って言われて。

劔 !!!!!!

樋口 え、初対面ですよね? 当たりキツっ! と思って(笑)。

劔 うわあ、ヤバ、ヤバいですね……妻は尖ってましたね、本当に(苦笑)。いや、今は当時よりは丸くはなっているかなと……。

――だから樋口さん、犬山さんのことをものすごい恐妻だと思ってたんですね。

樋口 きょうは互いに「恐すぎる妻を持つ被害者の会」みたいなトークで盛り上がると思っていたのに、その辺は違ったみたいでガッカリ(笑)。

出産で妻の体は大ダメージを受けたから

――劔さんの『今日も妻のくつ下は~』で裏表紙にも使われている、泥酔した犬山紙子さんが靴下をタンスの上に脱ぎ捨てていて、それを劔さんが拾い集めて洗濯するというエピソードがありますよね。一般的に、こういうことを頻繁にされると、パートナーへの怒りゲージがたまってしまうものだと思うのですが、劔さんは怒りゲージにポイントが蓄積されることはないのでしょうか?

劔 う~ん、特には……。

樋口 うちも鼻をかんだティッシュとか空になったペットボトルとか、テーブルに置き去りのままなので、捨てる係は僕です。脱ぎっぱなしの靴下、パンツ、ブラジャーなどを拾い集めて洗濯機に入れるのも僕の役目です。

劔 鼻かんだティッシュは床に落ちてますよね。僕もよく拾って捨ててます。

――お二人とも、奥様が大のお酒好きですよね。

樋口 それが、もとは酒豪でいくらでも飲めた人なのに、産後は体質が変わって酒に弱くなってしまって。この間も、ビールを1缶飲んだだけで全身がありえないぐらい真っ赤っかになって、「心臓が痛い」とうんうん唸りだした。「救急車を呼ぼう!」って言っても拒否して。1時間以上ガマンしていた。こちらも生きた気がしなかった。だから最近は飲まないですね。妻の体は出産ですごく変化しました。口癖が「つらい、しんどい」になりましたから。

――もとは「つらい、しんどい」なんて口癖はなかった?

樋口 ものすごくタフな人だったんです。まったく寝ないで仕事ができた。妊娠前のことですが、テレビ番組のロケで、豪雨の中、小豆島の急峻な山をチェーンでよじ登る姿に、スタッフが「強豪校の甲子園球児のようだ」と感嘆の声をあげていました。大学時代は陸上部でしたしね。
それが出産以降、免疫力が低下して風邪を引きやすくなったり、この間も子供の保育園で手足口病が流行っていて、赤ん坊から移された妻が39度の熱を出しました。それなのに休めず、本業で遠方まで行かなきゃいけなくて可哀想でした。

劔 つらいですよね……うち、この前の週末がそれだったんですよ。子供がまず先週、急に熱を出して発疹も出て、手足口病だと。僕はうつらなかったんですが、妻だけ感染して40度出ました。

樋口 やっぱり。周りの話を聞いても、夫は大丈夫なのに妻だけ罹るケースが本当に多いです。出産がどれだけ女性の肉体に影響を及ぼすか、ということですよね。産後の体調の回復には相当な時間がかかるんだなと思います。労わらないといけません。

劔 個人差はあると思いますが、本当にそうですよね。

樋口 妻は高齢出産ですし、「出産してから体力が衰えた」と言ってます。性欲がなくなったことも、ものすごくショックだそうで。

劔 なくなっちゃったんですか。

樋口 とんでもない性豪女だったのが、パタッとなくなった。よそでヤッてるんだろうと思うんですが。びっくりですよ、本にも書きましたが年間300日以上、妊娠中も毎日求めてくるぐらい、ケタ外れの性欲の持ち主だったのに。

劔 そうすると、セックスレスという……。

樋口 ガクッと減りましたし、ここ2カ月くらいはしてないです。僕から誘うんですけど、もうね、妻は疲れすぎちゃってそれどころじゃない。あと、横に息子が寝ているのにしたくない、とも言いますね。

――そのことに対して、樋口さんが不満に思ったりはありますか。

樋口 うーん、こればっかりはしょうがないですよねえ。体の変化ですからねえ。産むのは女性にしか出来なくて、僕は代われませんから。産んでくれたのは妻ですからね。

劔 そうですよね。出産の肉体へのダメージって、交通事故で大怪我をしたのに匹敵すると言うじゃないですか。産後はもう、妻が満身創痍の状態になっているんだという認識で、僕は接するようにしていました。まあ妊娠中から「決して妻の地雷を踏まない」ことに気をつける、って挑戦してましたけどね……

樋口 ……(絶句/やっぱり怖いんじゃん、という表情)

劔 あ、ほんと、うちの妻はそんなに怖くないんですよ! 怖くないです!

樋口 普段はおとなしい女性でも、妊娠中は別人格になります。

劔 そうなんですよ、どうしてもホルモンの関係で通常時より感情の起伏が激しくなってしまうときもあるんですよね。それは彼女もわかっていたので、妊娠が発覚した段階で、「こういうときは、こうして」という情報を共有して、僕も彼女を怒らせないように色々気をつけてました。

樋口 いやでもね、劔さん偉いなあ~と思うのは、劔さんにも仕事があるし、自分だけの時間も欲しいし、だけど子供の面倒を見る時間が長かったりすると、どうしても押し付けられているような気持ちになってしまうのは、男女に関係なくあると思うんですよ。妻に言ったことがあります。「このままじゃ俺は自分の仕事をできない」と。キレられましたけどね。劔さんはそういう気持ちになってしまうことって、ありませんか?

劔 僕は全然言えないんですよ。「締め切りが今日だからやらなきゃいけないんだけど」と思ってもなかなか「今から仕事をするから子供見てて」って言えなくて。言えないのに焦ってるから言葉尻にトゲは出ちゃってるかもしれない。でも妻は僕が言えなくてもなんとなく察知するみたいで、気を遣ってくれています。

樋口 えっ、ということはですよ。犬山さんは、その語尾に出ているトゲトゲしたニュアンスを、見逃してくれるんですね? トゲをわざわざ拾いに行って、焚きつけて炎上させたりはしないんですね?

劔 まあ、それはしない……(笑)

樋口 エライっ! いいなあ~~~~。わざわざそんなボール拾いに行かなくていいのに、こっちのボソッと言った一言を拾って針小棒大に拡大したりってことは、ないんですね!

劔 大変ですね、樋口さん(同情)。

<後編に続く>

■樋口毅宏(ひぐち・たけひろ)
1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ヶ谷』でデビュー。2013年に出版したベストセラー『タモリ論』をきっかけにタレント弁護士の三輪記子さんと知り合い、2015年に結婚。同年11月に長男・一文君が誕生した。

■劔樹人(つるぎ・みきと)
1979年、新潟県出身。大阪での大学時代からベーシストとして音楽活動を開始。2008年よりダブ・エレクトロユニット「あらかじめ決められた恋人たちへ」に参加。2009年、「神聖かまってちゃん」のマネージャーとしての活動を開始。杉作J太郎率いる「男の墓場プロダクション」所属。2014年、エッセイストの犬山紙子と結婚。
ブログ 劔樹人の「男のうさちゃんピース」

構成/wezzy編集部
撮影/天田輔

最終更新:2017/08/31 07:15
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