問題視される“スマホ育児”と親の罪悪感。スマホ活用は「手抜き」「楽してる」「子供に悪影響」なのか?
子供向けのスマホアプリやアニメーションなど、ここぞという時に子供を大人しくさせておきたい親たちにとって非常にありがたいものがかなり多く存在する昨今。
先日、子連れのお母さんたちと総勢12名くらいで食事会をした時のこと。場所は完全個室のキッズルームだったのだが、1歳~6歳まで年齢がバラバラな子供たちは落ち着きなく、親同士の情報交換はすぐに中断される。しかし、誰かが持参したタブレットPCでアニメーションを流し始めると、その周りに子供たちが集まり、静かに楽しみだした。その様子を見て「なんて便利なんだ! 絶対iPad買おう」と心に決めた。
我が家の息子は1歳2カ月。まだまだ大人側の理屈など通用しないし、月齢的にも興味の対象が広がる時期のようで、何でも開ける・散らかす・登る……。それだけならまだしも後追いも激しく、息子と二人でいるときの私には一瞬たりとも自由な時間など存在しない。
そんな中でも食事の用意などしなければならないし……ほんの30分いや15分で良いから一人遊びしててくれないか……と願わずにはいられない。
そういう時、我が家では息子の興味を引くテレビの子供向け番組が救世主的存在だ。息子は喜んで手を叩いたりリズムに合わせて踊り出したり、機嫌も上々になるのでまさに一石二鳥。
外に行けば、これまた所構わずあちこち歩きたがるし、静かな空間でもふざけて大声を出したりする息子。そんな時もやっぱりスマホの動画が一番、子供の気を引くことができる。
こういう時テレビやスマホが子供にとって悪影響かどうか、なんて、正直、考えていない。一日中そうした画面を見せ続けているわけではないし、“今”を乗り越えるためのツールとして活用している。そして、そうした場面は、日常的にあるものだ。
幼い子を持つ親にとっては非常に有難いグッズなわけだが、世間的には、育児でのスマホ活用はヨシとされていない。
『スマホに子守をさせないで』
スマホやタブレットを子供に渡したり見させたりすることの健康面・発達面への悪影響について、日本小児科医会をはじめあちこちで警鐘が鳴らされている。
私が住む東京某区の役所でからもらったリーフレットには、こんな注意喚起の記載がある。
・愚図る子どもに、子育てアプリの動画で応えることは、子どもの発育をゆがめる可能性があります。
・親子の会話や体験を共有する時間が奪われてしまいます。
これに加えて、「赤ちゃんとは目と目を合わせ語りかけましょう」「なぜぐずっているのかわからないときに“子育てアプリ”を見せるのではなく『どうしたの』などの声掛けや抱っこなどを繰り返すことで親子の絆ができていきます」とも書かれている。
そんなことは百も承知だ。
生身の人間である親の自分が常に子供に向き合ってあげられる、のびのびと思いきり遊ばせてあげる、それがベストであろうことは散々刷り込まれているし、きっとどの親だって「そうするのが良い親なんだろう」とうっすら思っている。
それでも機械じゃないのだから、常に実践できるものじゃない。どうしてもどうしても「今だけは大人しくして!」「数分で良いから時間をちょうだい!」のタイミングは、育児をしている親ならきっと誰にだってあるはず。そのタイミングごとに、親は罪悪感を覚えるべきなんだろうか。
リーフレットには、スマホなどを幼い子供に見せることで懸念される健康被害についてももちろん記載がある。
「テレビやスマホ、タブレットなどの小さな平面画面を見る時間が長いと視力の発達を妨げます」
「子供の体力や運動能力の低下に繋がります。その結果生活習慣病やロコモティブ・シンドローム(運動器症候群)が問題になっています」
こういった“負の側面”を示されると何だか黙るしかないが、だからといって一切スマホやテレビに頼らず子育てしよう! なんて強固なバイタリティは私の中にはない。
要は、程度問題だから。ゼロか100か、でやらなきゃならないわけじゃないのだ。
このリーフレットの最後には『3つの提言★』として以下のような箇条書きで締めくくられている。
・2歳までは、テレビ・DVD・スマホなどの視聴を控えましょう
・授乳中・食事中のテレビ・DVD視聴は止めましょう
・こども部屋にはテレビ・DVDプレイヤーなどを置かないようにしましょう
……ムリムリムリ!!
まず「2歳までは駄目」って、赤ちゃんとかならともかく、1歳から“魔の2歳児”とも言われているイヤイヤ期に及ぶまでテレビもスマホも駄目と言われてたらとてもやっていけない!!
四六時中、子供にテレビやDVDやスマホを見させて他の遊びをさせないとか、そうしたものを与えて放置し大人は外出してしまうとかだったら問題視されるのもわかるけれど、今のところ私がこういったものを活用したい時というのは大抵「今だけはおとなしくしてて」な時だ。
1歳児や2歳児なんてまだ親の伝えようとすることも全ては理解できないし、しつけなんてほぼ通じないことがほとんど。
理屈で伝えても理解できないからこそ、「今だけ注意をそちらに向ける」ことが出来るアイテム群は、むしろこの時期の育児にはもってこいの発明だ。
改ページ
そもそも、スマホ中心の子育てをしているわけじゃない
それでも親たちは苦悩する。今時、スマホを日常的に利用しない大人など滅多にいないからだろう、母親向けの育児サイトでもこのテーマの記事はよく見かける。
そこでは「スマホに子守をさせる」ことは賛否両論などなく、否定一辺倒、言語道断な行為のようだ。
とある育児サイトで、幼い子供を持つ母親対象に「どんな場面でテレビやスマホなどを活用する?」というアンケートが実施されていた。
そこには
・「朝など忙しいときの着替えの時間に使ってます。その間だけは大人しくしてくれるのでその間に着替えさせちゃう」
・「静かにしないといけない店や電車の中でぐずった時は使いますね」
・「食事の支度の時など。火を使うのでキッチンには入れたくないし、その間だけでも他のことに集中しててくれると……」
などの回答があった。
どの回答も「手が離せないとき、やむを得ないときに短時間」となっており、テレビやスマホを育児の中心にしているという回答はないのだが(たとえもっと利用していても、空気を読んで“短時間”と回答する可能性もあることは承知)、それなのに、<スマホを見せる=手抜き育児・健康に悪影響!>と断罪してしまう傾向は一体なんなのか。
また、つい最近見たNHK生活情報ブログでも、この“スマホ育児”についてネット上で議論になっているとあった。
発端は以前に放送したNHKの特集で、こんな内容の映像だったようだ。
『1歳半の子どもがいるお母さん。夕方保育園から帰って夕食の支度をしているころ。夫はまだ帰宅せず、お母さんと子どもの二人きり。しばらくすると構ってもらえない女の子はキッチンに居るお母さんの足にしがみつき、やがて大声で泣き出す。必死でなだめてもおやつを食べさせても泣き止まず、料理が進まない。するとお母さんはスマホを取り出し、家族を撮影した動画を見せ始めた。ぴたりと泣き止む女の子。お母さんは女の子の様子を気にしながらも、料理を作り上げることができた』
……わかる。わかるわぁぁぁ……。
映像説明を写真つきの文で見ただけで、我が家でもよくある緊迫した状況を思い出して泣きそう。
しかし、この映像についてネット上では「スマホに限らず自分の力で子どもをあやすべき」などと言った批判的な意見が見られ、議論になったようだ。
どうしても!の時はこうしてスマホなどに頼らざるをえない母親としては「使わざるをえない状況をわかってほしい」といった声があがっていたようだが、それに賛同したり「時代の流れだから仕方ないのでは」といった意見はごく少数派で、<多くは否定的な意見で、スマホ育児はあまりいい目で見られていない印象を受けました>とのこと。
幼い子供にスマホを渡して使わせる行為は、「スマホ育児」とも「スマ放置」とも呼ばれているらしい。
この言葉に、大きな抵抗や反発心を抱いているのはきっと私だけじゃないはずだ。
NHKの街頭調査によるとこの「スマホ育児」、子育てを終えた世代の人たちから多くの非難があり、否定的な意見の人の多くは「幼い子どもにスマホを見せっぱなしにしている」というイメージを持っているようだ。
何度も繰り返すように、実際そんなことは決してない。
改ページ
「親は楽しててどうかと思う」
「スマホ育児」をその言葉の通り捉えれば、「スマホを使って育児をする行為」であり、またそんなフレーズをメディア等で取り上げるから、いざと言う時にだけ利用していても
手抜きだとか子どもと向き合っていないとか“イメージ”のみが先行してしまうのではないだろうか。
つい最近も、子どもにスマホ、のこの行為を巡って実母と議論めいたことになった。
「最近電車とかで、子どもにスマホ見せてる親ホント多いけど……親はそれで楽しててどうなのかと思う」
そういう母親に対し、「いやいや! 子どもが電車で騒いだりしたら迷惑だし、それはそれで“しつけがなってない”とか言われるでしょう!?」と噛みついてしまった。
現に私もこの1年、公共の場で子どもが大声を出したり、間が持たず体を大きく動かしたりした時に、居合わせた周囲の人たちからあからさまに迷惑そうな顔を向けられたことは一度や二度じゃなかった。
親の責任だ、とみなされているのだろう。しかしイチ親としてみれば、子どもが当たり前に抱く「登ってみたい」「くぐってみたい」「投げてみたい」といった好奇心を「しつけがなってない」の一括りにされて押さえ込まれるのも納得がいかない。
子供が泣いたり騒いだりすれば「迷惑」、それでいて周囲に迷惑をかけないようにスマホを活用すると実母のように「親が楽してる。子どもと向き合ってない」と言われるのでは、八方ふさがりだ。
先述の役所からもらったリーフレットや日本小児科医会のお偉い先生方の忠告をそのまま受け取れば「どんな時も子どもと向き合いなさい」「愚図ってもスマホに頼らずコミュニケーションを図りなさい」となるが、現実問題として、たとえば電車に乗っているとき、それが許される環境にないだろう。ハッキリ言って現場を無視した理想論としか思えない。それに、自宅であっても火や包丁を使っているとき、自分が体調を崩して寝ていたいとき、「今は向き合えませんので」と言っていいはずだ。もっと言えば、親だからっていつでも元気溌剌だと思うなよ、である。親だって疲れる。
発信力のある団体が、上記のような(精神論にも近いような)御高説を大々的に垂れ流すことで、ますます「スマホ=悪」のイメージは強まり、非育児中の人はそうした親子を白い目で見て、親は罪悪感を背負わされる。となり、やりにくい。
生活に必要なたくさんの項目をこなしながら、まだしつけも通じない子供ともどんな時も常に向き合う……
真面目にやろうとしてしまう人ほど、よほどの精神力がなければ、日々少しずつ心身疲弊し、余裕も削られていくことだろう。
余裕を失い精神的に追い詰められることで、子どもを頻繁に怒鳴ったり、手を上げてしまうことだってあるかもしれない。
スーパーなどでやたら子どもに怒鳴っているお母さんを見かけると、以前は「威圧的だな、嫌だな」と思っていたが、今では怒鳴らざるをえないお母さんほど普段色んなものに縛られ、頑張っている人なんじゃないか、という見方もするようになった。
もし、余裕のなさから子どもとの心の距離感ができてしまうのであれば、少しの時間スマホやタブレットに頼ることでかえって親子共に健康的な時間が過ごせるのではないだろうか。
健康な発達への影響という観点では私も不安を煽られるが、そもそも、スマホやタブレットの類が世の中に普及してからたかだか数年。この数年という短い時間でスマホやタブレットが子どもに与える影響というものを判別しようとするのは時期尚早ではないだろうか。
どの時代にもあったように“新しい物”が普及すれば、ひと昔前の時代を「昔は良かった」と美化して「今の若いやつは。ああヤダヤダ……!」と言いたがる日本人の風潮にも問題があるような気もしている。テレビは、マンガは、ビデオは、ゲームは、子供たちにとって毒だっただろうか。日常的にテレビを見てマンガを読みゲームをしてきた世代ももういい大人たちだ。私たちは、健康な発達を妨げられたのだろうか?
ともあれ、スマホやタブレットを幼児期の子供が使用することが、子供の発達にどういう影響を及ぼすのか、今はまだ研究を進めてもらうしかないのだろう。
同時に、子育て世代の親たちにただ罪悪感を与えまくるだけでは「良い子育て」につながりようがないことも、広く認知されてほしい。
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