女ひとり家を買うために活動してきた女性たちを、同じくシングルの女性専門家はどう見ているか?
2017年から”家を買い隊”による家探しリポートをお伝えしてきた当連載。先月までの数回にわたりメンバーの現状をお伝えしました。それぞれがみずからの「家を買いたい」気持ちに向き合い、決断を下し、具体的な行動を始めたところで、この連載は一旦おしまいとします。
“家を買い隊”メンバーは、家を売りに出して購入の資金を調達すると決めた人、新たなパートナーと出会いふたりで家の購入を考え始めた人と、さまざまな状況にあります。具体的な家の売却や購入を決断した人には納得いくまで時間をかけていただき、また大きな変化がありましたら「wezzy」でお知らせします。
さて、ラスト2回は連載を結ぶにあたり、アドバイザーのさくら事務所代表取締役社長、大西倫加さんにお話をうかがいます。ずっと本連載の経過を見てきた大西さん。彼女の目には”家を買い隊“のメンバーが下した決断はどう映ったのでしょうか?
【プロフィール】
大西倫加 株式会社さくら事務所、代表取締役社長。広告・マーケティング会社などを経て、2004年さくら事務所参画。同社で 広報室を立ち上げ、マーケティングPR全般を行う。2011年取締役に就任し、 経営企画を担当。2013年1月に代表取締役就任。2008年にはNPO法人 日本ホームインスペクターズ協会の設立から携わり、同協会理事に就任。マーケティングPR全般を担当する。不動産・建築業界を専門とするPRコンサルティング、書籍企画・ライティングなども行っており、執筆協力・出版や講演多数。
不動産市場の時間軸と、人生の時間軸
ーー最初のレクチャーで、2017年は都心の住宅価格が天井と知らされたので、正直「いまは買い時ではない」と感じてメンバーのモチベーションが落ちてしまうかもしれないと心配しましたが、意外とみなさん市場は市場と割り切って活動されていました。
▼“家を買い隊”キックオフのレクチャーはこちら!
住宅価格はいまが天井!? 2017年、シングル女性がマンション購入を本気で考えたほうがいい理由
大西倫加さん(以下、大西):この連載で感銘を受けたのが、みなさん自分のなかにしっかりとした判断基準を持っていらっしゃることです。普段から仕事や人生に自分の責任で向き合っていらっしゃる方々だからでしょうね。いまはまだ住宅が高騰傾向にあり、今後、数年で下落するという予測をレクチャーで知ったとしても、それを踏まえたうえで「それでも家を買う」のか、「経済的な合理性を考えて、いまは買わない」のか……みなさんしっかり判断されていますよね。実はそれは、とてもむずかしいことなんです。特に家族がいると「自分がどうしたいか」をはっきりとさせずに家を購入してしまうことも、よくありますから。
ーー家族それぞれの思惑がかけ離れていると、やっかいですよね。その点“女ひとり”だと、自分にとってのタイミングを自分で判断できますね。たとえば不動産市場にとっての3、4年は近い未来ですが、30代の女性にとっての3、4年は非常に貴重で大きな意味を持つ期間。ですからかえって、自分の仕事の状況やタイミングを見て「いましかない」という決断がしやすいのかもしれません。
大西:そうですね。ローンのことをいえば、年齢が上がるほど審査が通りにくくなる傾向もあります。マクロ環境で見れば2017年は不動産価格が天井傾向で、買い時というよりは売り時といえるかもしれませんが、個別のケースを考えればすべてのエリアが高騰しているとはいえません。またローンを組んで家を買う方には、金利が低いという追い風もあります。先々を考えると、価格が下がってきたときにはライバルが増える可能性もある。
ーー将来、不動産価格が下がるとして、どれだけ下がるかは未知数ですよね。たとえば購入を3年待って賃貸で過ごすとしたら、その期間の賃貸料を支払うわけですし、待っているあいだトータルでかかる出費以上に不動産の購入価格が下がる保証はない……。
大西:経済的合理性のみを考えていると、なかなか家を買えなくなってしまいますよね。家が欲しい人は、快適な環境や精神的安定を求めていることが多いものです。いつか絶対に買いたいと決めているのなら、市場がどうであろうと自分のタイミングで買ってしまえばいいのだと思います。もちろん、後々売りやすい家であったり、また長く住める家であったりといった長期的な視点は必要ですが。
ーー今後日本の人口が減り、不動産価格が上がりにくい世の中になっていくといわれていますが、だからといって一生賃貸という暮らし方にはなじまないタイプの人もいますよね。住環境にこだわる方だったり、歳をとったら住み慣れた街や家から動きたくないという方だったり。
地域のコミュニティという財産
大西:賃貸住宅と分譲住宅のスペックに大きな違いがあることは、分譲を選ぶ大きな理由になるでしょう。賃貸では空間を細切れにしてたくさん住戸数をつくったほうがオーナーの利回りが高くなるので、狭く設備投資も小さい家になりがちです。ですから同じ月々の支払額でも、分譲のほうがよい住環境に住めることがほとんど。また、私は家を購入する一番のメリットは、コミュニティの構築かもしれないと思うのです。ご近所さんであったり、同じマンションの住人であったりが、協力してよりよい住環境をつくり、お互いを見守りあう関係ができれば、高齢化が進む社会のなかで大きな財産になるのではないでしょうか。
ーー家を持つことのメリットはいろいろありますね。そこで立ち入ったことをおうかがいするのですが、大西さんご自身の住まいはどんな選択をされたのでしょうか。ちょうど大西さんも“女ひとり、家を買う”の読者と同じようにシングルでいらっしゃいますね。
大西:実は私自身は、家を持っていません。その時々の状況にあった家に住みたい、頻繁に環境を変えたいタイプなので、身軽さを重視しています。いまは仕事が忙しいので職住近接の環境にしていますね。
ーー賃貸だとライフスタイルの変化にフレキシブルに対応できるところがよいですよね。ただ、ずっと賃貸だと生涯の住宅出費をトータルで考えた場合、分譲よりも高くなるのが心配です。
改ページ
大西:確かに賃貸の方が割高かもしれませんが、一方で管理費も修繕費もかからないメリットがあります。これが分譲物件だと、築年数が古くなってくるごとに修繕費が嵩んできますから。ローン以外の出費もあらかじめ把握しておきたいところです。
ーーこれから日本の人口が減り、空き家が増えてくると賃貸価格が下がってくる可能性もありそうです。
大西:賃料は分譲価格に比べると市場の影響をダイレクトには受けにくく、短期間で大きく変動しない傾向はありますが、需要の少ない地方などでは、徐々に下がってくるでしょうね。
ーー人口が激減したり、また政策によって都市の範囲を小さくしようといわれていたり、近い将来、日本の不動産市場は大きく変わりそうです。そういった将来を身軽に渡っていくために「いまは賃貸」という選択肢もありますね。
大西:はい。最初の話に戻りますが、ご自身のライフスタイルと照らし合わせて決めることが大切です。
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「女ひとり、家を買う。」に登場する女性たちの決断力に感銘を受けたという大西さん。しかし、リポートを読みながら、今後家を購入するうえで、もっと意識してほしい点も見えてきたといいます。それが「ストックとしての住宅の価値」だそう。ストック(在庫、たくわえ)としての住宅とは? 後編で詳しくうかがっていきます。
協力:onnnaiekau_20e
(蜂谷智子)
backno.
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