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男の娘の妊娠は、始まりにすぎなかったのか……?

新作『女装千年王国』も大好評! 西田一が語る、ただひとつの“愛の物語”

「でも……」

 西田には聞こえないような小さな声で、私は呟いた。自分の心に刺さるような性的な情景を描いた作品との出会い。世間では、なかなか大っぴらにしにくい性的な志向を隠さなくてもよい仲間たちとの出会い。それだけで、西田が描く魅力的な男の娘が生まれるだろうかと、思った。性別を超えて孕む。それだけにはとどまらない聖母のようであり、ファムファタールのような、あの男の娘たちを描くことが……と。

「女性とも経験しているのでしょう?」

「ええ。でも、それが高校生の時だったら、もっと感動があったかもしれない……」

 なぜ、高校生の時なのだろう。それを聞こうとした時、どやどやと新しい客が入ってきた。賑やかな雰囲気の中では、とてもそれを聞くことはできないような気がして、また、とりとめもない話が始まった。

 そうした会話の後だったからだろう。酒の上でのとりとめのない話とはいえ、なんら隠したり飾ることなどない会話は楽しかった。何しろ、アルコールを口にしているのは西田だけ。下戸の私が口にしているのは、ずっとウーロン茶であった。つまり、ずっと素面なのだけど、何か気持ちは高揚していた。だから、普段はあまり人にはいわない秘密を、西田に教えた。

「私も、次の輪廻で女のコになれるのなら、こんな女のコになりたいと思って、気に入った画像はDropboxにフォルダをつくって保存しているのです」

「どんな画像があるのか、ぜひ見せてください」

 iPhoneの画面に表示されるさまざまな画像を、西田は笑うでもなく、褒めるでもなく、ただ興味深そうに眺めていた。何かが、溶けて混ざり合っていくような感覚があった。

 賑やかな時間が過ぎて、時計が午前1時を回った頃。急に客が引けて、再び店は私たち2人だけになった。また、ザ・フーのCDが回り始めた。

「ボク、コーラをください」

 西田は酔って熱く昂ぶった身体を少し冷やそうとした。私も続いてコーラを注文した。西田はカバンの中から、眼鏡ケースを取り出し、ふうっと息を吸ってから眼鏡をかけた。

 それから煙草を2本。高い天井に吸い込まれていく音楽に身を委ねて、いくばくかの時が流れた。

 店と同じだけの時間を過ごしてきたとおぼしき灰皿で、煙草の火を消してから、西田は私に語りかけた。

「高校3年生の時。あれから、ボクは人間に興味を持ててはいないのです……」

 * * *

 その頃の西田は、まごうことなき中二病だった。

 サイケデリックミュージックの話をして盛り上がれるヤツなんて、クラスにはほとんどいなかった。まだ、小室サウンドのムーブメントは続いていて、クラスメイトが話している音楽の話題といえばTRFとか安室奈美恵。そうでなければ、JUDY AND MARYの話ばかりだった。オタク趣味の友達とは、マンガやアニメの話で盛り上がることができた。でも、どこか物足りない気がしていた。

 そんなクラスに、その少女はいた。

 決して美人ではないけれども、肌から青春の輝きが滲み出ている少女。その輝きが、どこか昏さを持っていた、あの時の西田には眩しすぎた。遠足や文化祭。さまざまな行事の中で、何かと中心になっている少女。裏表のない愛嬌のある姿が、いつも心の片隅に残るようになっていた。でも、彼女の輝きに近づけば、陰のような自分は消滅してしまうような気がしていた。

 高校3年生の一学期。席替えで、偶然にも少女が西田の後ろの席になった。太陽のような輝きに、何か落ち着かない気持ちで授業を受ける毎日が続いていた。でも、ある日、落ち着かない気持ちは終わりを迎えた。

「ねえ、なんの音楽を聴いているの?」

 どうして、そんな会話になったのかは忘れてしまった。どうせ、お前にはわからないだろう。そんな捨て鉢な気持ちで、西田は自分の聴いている音楽の話をした。しばらく話を聞いていた少女は、うれしそうにこういった。

「わたしジャニスが大好きなの」

 今となっては平凡な音楽の話かもしれない。でも、その時の西田には、ようやく訪れた幸運以外の何ものでもなかった。少女の持つ、うっとうしい輝きは、心地よい陽の光へと変わっていた。

 気がつけば、毎日のように少女と話をしていた。クラスメイトたちは、大学受験への不安と未来への希望の中で、落ち着かない日々を過ごしていた。でも、自分にとって、これほど登校することが楽しい経験はなかった。

 家に帰ってからも、ふっと少女と話をしたい想いが何度もめぐって抑えられなかった。そんな時は、リビングの電話機のところに行って、記憶している彼女の自宅の電話番号をダイヤルした。呼び出し音が鳴っている時、すぐに少女が電話に出てくれることを、心の中で願っていた。愛嬌のある、あの声が受話器の向こうから聞こえてくると、そのたびに、今までの人生では感じたことのなかった感覚が湧き出して止まらなかった。

「デヴィッド・ボウイ好きだな」

「わたしも好き」

「ボウイの『スターマン』は聴いてるよね?」

「大好き」

 季節は夏。もう夏休みが始まろうとしていた。告白は西田のほうからした。告白も、電話だった。電話の向こうで、少女のうれしそうな声がしていた。それが、何か気恥ずかしかった。

「結局、2週間で別れたんです……」

 私が「なぜ」と問いかけるよりも先に、西田は言葉を続けた。

「ボクには、恋愛……人を愛するためには、どういうことをすればよいのか、わかっていなかったんです。デートした時にも、キスどころか、手もつなげなくて、キスもできなくて、自分から行動することができなかったんです。すでに恋愛経験のあった彼女は、そんなボクを歯がゆそうに見ていたんです。それが、とても苦しくて……やつの高3の夏を、俺でふいにしてしまったんです」

 最後に、西田が自らの抱える「原罪」を吐露したように見えた。

 * * *


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