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【wezzy】

ブームから10年、今こそ「ケータイ小説」の話をしよう。

 「ケータイ小説は生きているぞ」と言いたいがためだけにこの記事を書いたら、連載のはこびとなった。というわけで引き続き、ケータイ小説をめぐるあれこれについて書いていきたい。まったくもって大衆向けでなさそうなこんなテーマの連載を、快くひきうけてくれたWEZZYは奇特なメディアである。

 それにしても、2017年の今更ケータイ小説。ブームのころならいざ知らず、ミリオンヒットの出なくなった今になってそんな話をしてどうするの、何があるのそんなところに、と疑問に思う方もいるかもしれない。うむ、いったい何があるんでしょうね。この連載は、それを考える連載でもある。すでにわかっていることを書いてもつまらないですし。

 さっき「今更」と書いたけど、実のところ、私自身はまったくもって「今更」だなんて思っていない。「ケータイ小説はオワコンだ」と思われているらしい今。今こそがむしろ機の熟しどき、語りどきなんじゃないかとひねくれものの私は考える。

読めますか?たった10年で消滅寸前の「ギャル文字」「ケータイ小説」を改めて味わう

 これは本年7月にアップされた記事(ネット番組の書き起こし)だ。この中でケータイ小説は、「消滅寸前」「風前の灯」という扱い。しかも「かつてのケータイ小説」を語っているのは、ブームの頃にケータイ小説の評論本を書いた、ベテランの文筆家。私が「そろそろケータイ小説について何か書くか」と本気で思ったのは、この記事を見たときであった。

 ブームが遠い昔の出来事とされ、「ケータイ小説なんてものもあったね昔」と「大人たち」が言い合っている今、まさに地方の書店では、コンスタントにケータイ小説文庫が売れ続けている。ケータイ小説投稿サイトにも、新作が生まれ続けている。この辺のことは、前の記事に書いた。

 たしかにもうミリオンヒットは出ない。映画化だの、TVドラマ化だのといった派手な展開もない。「ダ・ヴィンチ」で新作が紹介されることもない。ライトノベルのように、新刊紹介ブログが盛況になるジャンルでもない。でも確実に大勢の女性が、今も日常の中で、ケータイ小説を楽しんでいる。そのことを、10年以上ケータイ小説を眺め続けてきた私はよく知っているのだ。

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 NAVERまとめやスマートニュースでは追えない世界だからこそ、私はケータイ小説が気になってしょうがない。だってケータイ小説は、その向こうにいる大勢の女性たちのニーズを、確実に満たし続けてきた存在なのだ。最大手ケータイ小説投稿サイト「魔法のiらんど」の会員数は250万人。そのうちどれくらいが小説に対してアクティブなユーザーかはわからないが、半分以下だったとしても、100万人くらいがケータイ小説市場に参加していることになる。スマホを持たない小・中学生などが書店で直接書籍を手に取ることも多いだろうから、サイト会員だけがケータイ小説読者というわけでもないだろう。さて、これをとるにたらない小さな世界と見るか、大きな世界と見るか。

 結論から言えば、私はこれを「大きい。少なくとも小さいとは言えない。10代の若年層が読者に多いことをふまえても、その影響を過小評価はできない」と見ている。が、これを人に言って、共感してもらえることはほとんどなかった。というよりも、前の記事にも書いた通り、そもそもケータイ小説がまだ存在していること自体、あまり知られていないのだ。

 この数年、いろんなメディアの編集者にケータイ小説の話をしてきたが、「え、まだあるんですかアレ」と言われなかったことがない。情報産業のメインストリームに関わる人たちでさえケータイ小説の存在に気づかないということは、その向こうにいる、大勢の女性たちのニーズもまた気づかれにくいものである、ということになりはしないだろうか。そしてそれは、あまりいいことではない気が個人的にしている。

 振り返れば、ブーム真っ只中の頃だって、「彼女たちのニーズ」というものが、本当に読み解かれたようには思えなかった。ものを語る立場の大人たちは、多くがケータイ小説の「浅はか」な内容に顔をしかめたし、自分自身の「理解できなさ」をもてあましていた……ように、少なくとも私には見えた。

 もちろん、当時出版されたケータイ小説の分析本・評論の多くは、「まっとう」な内容だった。単にケータイ小説を罵倒して終わるような、そんな志の低い本は私の記憶にはない。それぞれの書き手が、それぞれの誠意と知性をもって、ケータイ小説という現象を理解しようとした。それは確かである。しかしそこにしかない異様な力、あるいは切実さといったものに本当に迫るような、そういう分析に私は巡り合えなかった。物足りない、といつも思っていたのだ。それは多分多くの分析が、「自分には理解しがたいが……」という前置きを、つまり「あちら側」に対しての絶対的な線引きを必要としていたからだったと思う。「他人事として語られているケータイ小説」に、私個人はあまり興味がなかったのだ。

 そして当時、ケータイ小説に対して悪感情が発生することは、いわば「まっとうな大人にとっては当然のこと」として受け止められていた。評論家の中にも「内容に我慢できなくて本を壁に投げつけた」と著書に書く人がいたし、『恋空』(2006)のAmazonレビュー欄なんてすさまじいことになっていた。

 そう、覚えている方もいるだろうか。かつて『恋空』のAmazonレビュー欄が、2ちゃんねらーたちの遊び場になっていたことがあるのだ。単純にボロクソな批判を書き込むユーザーだけでなく、「縦読み」と呼ばれる、文章を縦に読むと別の言葉が現れるようにする手法を用いて、遊び半分で罵詈雑言を書き込むユーザーもあとを絶たなかった。

 これらは全て、「ケータイ小説(そしてその書き手・読み手)なんて、所詮まともに扱う必要のない存在だ」という意識に基づいてはいなかっただろうか?

 ネット上で10年前に起きたことなんて、太古の昔の物語に近い。しかし、かつて大人たちから(大人といえない年齢の人々もいただろうが)そこまでの過剰反応を引き出したコンテンツ群が、「ケータイ小説は、地方のヤンキー女子だけが読む、極めて特殊な読み物だ」というくくられ方ひとつで忘却の彼方に追いやられてしまったことに、執念深い私はいまだ納得がいっていなかったりする。

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 実をいえば私も最初は、『DeepLove』(2002)を「浅はか」だと思い、嫌悪感をむき出しにした一人だったのである。はっきり気色悪いと思ったし、「これに熱狂する人々」のことが理解できなかった。しかしだからこそ、気になって類似コンテンツを読み続けた。そして数年も読むうちに——ちょうど『恋空』ブームが起きる頃には、「これを理解したくない自分、理解できないものであってほしいと思っている自分」に向き合わざるを得なくなった。

 そうだ。理解したくなかったのだ。これについてよく考えたくないのだ、私は。

 それに気づいてからだ。ケータイ小説のことを、「自分ごと」として考えられるようになったのは。

 ケータイ小説を、私は浅はかだと感じる。その理由はたとえば、「セックスや病気や死が軽々しく扱われている」からだ。でも、じゃあどこからが「軽い扱い」で、どこからが「重い扱い」なのだろう? 何より、なぜ他ならぬ「私」は、「セックスや病気や死が軽々しく扱われている物語」が許せないんだろう? 許せない「私」と、それを愛する「彼女たち」の間には何が横たわっているんだろう?

 あまりにもたくさんの疑問があった。それをひとつひとつ考えるのに忙しくて、気づけば『恋空』ブームから10年も経ってしまっていたではないか。基本的に、長々とものを考える方なのである。

 しかしそのおかげで、「ケータイ小説と自分の関係」については、ひととおり考えをめぐらせ終わっている。私は何の専門家でもないライターだけれども、どんな評論家よりも、ケータイ小説との個人的な付き合いは長い(たぶん)。「線引き」をせずに何年もかけて作り上げた、この「ケータイ小説を見る自分」という土台の上に立ち、私は改めてケータイ小説の世界を見ていこうと思う。

 けっこう広いのだ。そして、けっこういろんなものがあるのだ。キュレーションメディアが拾ってくれない情報、Amazonレビューには上がってこない声、Instagramではアップされない光景を見に、ちょっくらあっちの方まで一緒に行きましょう。

※スマホが普及した2017年現在、ケータイ小説は、厳密には「ケータイ」小説ではなく、単に「WEB小説」の一端である。以前取材で話したケータイ小説編集者も、「あえて『ケータイ小説』という呼称を使うことはほとんどない」と話していた。しかし「魔法のiらんど」や「野いちご」といった大手サイトがあきらかにケータイ小説時代の独特なフォーマットを踏襲し続けていること、読者の間ではSNS上などを中心に、まだ根強く「ケータイ小説」という呼称が使われていることなどから、本連載でも基本的に「ケータイ小説」の語を用い続けていく。

最終更新:2017/10/21 07:15
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