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「もやし生産者の窮状にご理解を!」40年前より安い販売価格が生産者を苦しめる……もやし工場を訪ねた

 2日に一度は訪れる近所のスーパー。1袋は29円。以前は30円だった記憶があるが、たった1円の違いでも、数字のマジックで随分と安くなった気分になる。だが「ずいぶんと安いな」といっても、賛同しない人もいる。「それは、標準的な値段でしょう」と言う人もいる。

 ならば、いったいいくらで売られていれば、安いと思うのだろうか? 人の口から飛び出す値段は、さまざま異なる。だが、25円、20円、10円と、先日スーパーで見かけた29円よりは安いのは、みな同じである。そんなスーパーで、忙しそうに野菜を補充している店長の名札を下げた男性に声をかける。もやしが安くて助かりますよ。ふっと、男性の顔が曇る。

「ありがとうございます……でもね」

 そう言いかけて、言葉を止める。しかし、顔からにじみ出る言葉の続きは隠せない。どれだけ売れても、もうけなどまったく出ない。客寄せのため。さまざまな商品が安い店というイメージを維持するために、もやしは、泣く泣くこの値段で売らなくてはいけないんだ……。

 もやし生産者によって組織される工業組合「もやし生産者協会」は、その窮状を隠すことをしない。公式サイトのトップに大きく表示されるのは、「もやし生産者の窮状にご理解を!」の文字。それをクリックすれば、豊富なデータで、その窮状を訴えかける。もやしの販売価格は、1977年から40年余りにわたって、ほぼ上がっていない。それどころか、安くなっている。

 ファストフードやファストファッション。なんでも安いのが当たり前の現代だけれど、40年前と同じというのは、明らかにおかしい。1977年の物価を見ると、大卒公務員の初任給は9万1,900円。かけそば230円。ラーメン260円。銭湯は120円で、新聞の購読料は1カ月1,700円。そんな時代と、もやしの価格は変わらないのだ。

 もちろん、こんな状況で生産者がやっていけるわけがない。販売価格は40年間ほぼ同じなのに、生産コストは3倍増。2009年に全国で230社あったもやし生産者は、130社前後まで減少した。また、昨年は原料となる豆の生産地が集中する中国で凶作が発生。生産者の悲鳴は、さらに激しいものになっている。

 もやしの原料となる豆は幾つかあるが、多く使われるのは3種類。緑豆・ブラックマッペ・大豆である。現在、日本で最も多く用いられている原料は、緑豆。これが用いられるようになったのは、平成の初め頃からだ。味の面ではブラックマッペの方が優れてはいるが、緑豆の方が伸びたのは、見た目の美しさだという。細く根の長いブラックマッペに対して、緑豆を用いたもやしは太く、根が短く美しい。いわば、もやしの理想的な形。それが消費者に受け、主流となった。

 その日本人の口に合う緑豆が生産されるのは、中国だけ。それも、吉林省や内蒙古などの限られた地域である。毎年9月頃に収穫され、選別されたものが12月頃から日本へと運ばれる。その豆を原料に、もやし工場で発芽させて育てたものが、食卓に並ぶもやしとなる。

 中国でも限られた産地でしか収穫されない緑豆。それを入手するのも、次第に困難になっている。著しい経済発展は内陸部にも及び、農民は、より収入の多い商品作物へと転換を始めている。中国では、緑豆そのものも食材として使われている。それも、中国国内で生産される量では間に合わず、ミャンマーからの輸入が増加している。ならばと、もやし生産者も中国に比べて半額程度のミャンマー産の緑豆を試してみたが、もやしには適した質ではなかった。原材料コストが増大していく漠然とした不安。そこに、昨年の凶作は大きな打撃を与えたというわけだ。

 原材料費が高騰すれば、押し出されるように販売価格に転嫁されるもの。けれども、もやしの価格は相変わらず。それどころか、どんどん「激安」で固定される食材となっている。1袋1円の投げ売りセールは見かけなくなったが、さまざまな地域のスーパーを回っていると、1袋10円の特売を目にすることは、まだあるものだ。

 そのカラクリを尋ねようと連絡をしたのは、前述した工業組合「もやし生産者協会」。工場も見てみたいという依頼は快諾され、協会の林正二理事長が代表取締役を務める、茨城県は小美玉市にある株式会社旭物産の工場を訪ねた。

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