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「もやし生産者の窮状にご理解を!」40年前より安い販売価格が生産者を苦しめる……もやし工場を訪ねた

 都内から1時間あまり。茨城空港を擁する小美玉市は、普段、東京にはない関東平野の広さを、肌で感じることができる土地である。最寄りの常磐線・羽鳥駅からタクシーに乗って十数分。見えてきた工場は、予想とは違って、真新しくて大きかった。

「うちの工場は、業界の中では大きいほうではありません。1日の生産量は約40トン。100トンを超える工場が国内には4カ所ありますけど、逆に1トン2トンという工場もあるんですよ」

 食品を扱うためか、玄関で靴を脱いで上がるスタイルになっている工場の事務棟。その会議室で、あらかじめ私のために用意されていたパンフレット、そして、工場紹介やニュースの録画を見た後に、林は話を始めた。

 ニュースの中に登場した工場は、話に出た1トン2トンの小規模工場。当然、いま自分がいる工場とは、同じものを生産しているとは思えないほどに、疲弊している雰囲気があった。業界団体の理事長という役職にあるためか、メディアの取材を受けることは多いというが、工場設備が「立派すぎる」と、ボツになったことがあると林は笑う。

 そんな立派な工場であっても、苦境にあることは間違いない。

「工場の減価償却費が乗っかっていることもあるとはいえ、もやし単体では昨年も今年も赤字ですね」

 もやしのほかに、カット野菜などさまざまな製品を生産していることで、なんとか耐えてはいる。それが実情。でも、ともすれば「恥」の部分も、林は隠そうとはしなかった。

 作ってもまったくもうからない、もやし。それでも、生産量だけを見れば、09年以降は右肩上がりが続いている。

「リーマンショックの後、もやしが注目を集めるようになったのです」

 一時、日本経済を新たなる混迷に陥らせた、リーマンショック。高価なものが売れない中で、もやしは安価な食材としてブームとなった。でも、それは誰も恩恵を受けることのないブームだった。もし、恩恵を受けた者があったとすれば、もやしのレシピ本を企画した出版社くらい。「もやしが安い」というイメージは「安くて当たり前」へとシフトしていった。

 

 それまでも、1970年代と変わらない、安さ爆発の食材だった。注目を集める中で、客を呼び込む戦略から、スーパーなど小売店では、さらに安く、安くと値を下げた。その安さを維持するための努力は、仕入れ元の生産者へと波及していく。自分たちも泣いているのだから、あなたたちにも泣いてほしい。そんな具合に、卸値はどんどん下がっていった。買い物カゴをぶら下げた客は、笑顔になるだろう。けれども、スーパーも生産者にも、苦しみしかない。負のスパイラルが固定化した。

「目先の部分では消費者はうれしいが、長い目で見るとどうか。行きすぎた安値というのは、いつか破綻します」

 多くの農作物と違って、もやしは小売りとの直接取引が主体である。その顧客を相手に、値上げを要求するのも難しい。生産者同士でも「うちは、ほかより安い」というセールストークで取引先の獲得を狙うところもある。中には、シェアを確保するために赤字覚悟で卸値を設定した生産者もいた。だが、それらの生産者も昨年の原材料費の高騰によって維持が困難となり、生産を中止した。

 業界団体の代表として、そうした生産者のさまざまな思惑を見てきたからだろう。林は決して安値を求めるスーパーだけを問題にはしない。

「自由競争とはいえ、企業の経営者とかモラルとかが度を外してしまうと、採算を度外視した金額になってしまう。価格協定はいけませんが、ちゃんと連携をしないと、サバイバル合戦になってしまうと思うんです」

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