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6.4%停滞の『刑事ゆがみ』に漂い出した“コレジャナイ”感……「本格」路線化の功罪とは

 

■スケール感が増した反面、“バディ”羽生の存在感が消えた

 

 今回、前回までと比べて、だいぶスケール感のある事件が語られました。情報量も格段に多いし、テレビのワイドショーまで巻き込んだ、いわゆる“劇場型”犯罪。本格的な刑事ドラマっぽさをビシビシ感じます。犯人からの脅迫電話を開口部の大きなリビングで受けたり、ヘンテコな変装をした刑事が「どっちにしろ刑事に見えねえ」と言われたり、小児誘拐映画の金字塔である黒澤明『天国と地獄』(1963)へのオマージュも抜かりありません。

 その反面、弓神の“バディ”である新人刑事・羽生くん(神木隆之介)の存在感が非常に希薄なものとなりました。

 私は、第2話(https://www.cyzo.com/2017/10/post_34983.html)、第3話(https://www.cyzo.com/2017/10/post_141162.html)のレビューにも書いた通り、このドラマは神木隆之介を愛でるために見ていると言っても過言ではないくらい羽生くんのキャラ付けが重要な要素だと思っていて、だからこそ今回は、とりわけ「感触が違う」と感じたのです。

 これまで、どの事件も羽生くんは「単に所轄で起こったから」以上のモチベーションで捜査に当たってきました。事件発生の段階で羽生くんの心が揺さぶられていたからこそ、右往左往しながら捜査を通して成長していく彼に共感を抱いてきたのです。

 今回は、「ロイコ事件」にしろ「狂言誘拐」にしろ、羽生くんに全然関係がない。「羽生くんこそ主人公」という見方をしてきた私からすると、すごく出来はいいけど、主人公のいない話だなぁ、という印象だったのです。無論、これまで通りゲスト犯人(今回は板谷由夏)に対しても主人公並みの掘り下げが行われていることは変わりないのですが、これまではゲストへの掘り下げに加えて羽生くんの成長があったので、分厚い作品として感じられてきたということです。

 

■初めてとなる男性脚本家の起用

 

 もうひとつ、このドラマの魅力として感じていたのが、女性犯罪者に対する描き込みの個性です。『刑事ゆがみ』はこれまで、すべての脚本を女性脚本家が手掛けてきました。

 第2話では「作家の当事者性が投影された作品」に見えると書きましたし、第4話(https://www.cyzo.com/2017/11/post_141861.html)では「彼女たちを、決して“被害者”や“弱者”として一面的に扱うことをしない」「『私たちは同情されるために登場したわけではない』という、悲劇を抱えた女性キャラクターたちの強い主張が感じられます」と書いています。

 しかし、今回の犯人である母親も、夫の不倫相手である秘書の女性も、わりと一面的に自分勝手で、欲望に忠実で、「女って怖いな」みたいなステレオタイプに見えました。結果、すべてを自白した時に犯人の女は「許しを乞う側」になり、夫は「妻を許す側」になっている。こうした結末のニュアンスは、これまでの『刑事ゆがみ』には見られなかった、おそらくは注意深く取り除かれてきた視点ではなかったかと思うんです。

 第5話で脚本を担当したのは池上純哉さん。男性です。1時間弱の中に、この華やかな誘拐劇と次回以降への伏線を手際よく詰め込んだ手腕は経験豊富なベテラン脚本家ならではだと思いますし、そもそも作品に対して「作り手が男だから」「女だから」みたいな物言いを付けるのもフェアじゃないんですが、「なんか今回、女性心理の描き込みが浅いなー」と思いながら見ていて、最後のクレジットで池上さんの名前が出てきて少し腑に落ちたので、正直にそれは記しておきます。

 具体的なことを言うと、第4話で私は「彼女たちが守るべきものをドラマの中でしっかりと定め、それを彼女たちが能動的に守ろうとしたがために、事件が起こる」とも書いているんですが、今回の母親にとって「守るべきもの」ってなんだったんだろうという話なんです。家族だ、夫婦生活だ、子どものためだ、みたいな話になっていましたが、その考え方が自分勝手すぎやしないかと。

 先に「狂言誘拐」と書きましたが、今回の事件、母親の狂言ではあっても、娘への誘拐は実際に行われている。娘が電話口で「パパー! パパー!」と悲痛な叫び声を上げているシーンもある。

 弓神に自白を迫られた母親は「そんなことするわけない、そんなことしたら、娘との関係が……」とか言って否認するんですが、関係とかそういう問題じゃないだろと。後に解放されるとしても、娘の中に「誘拐された」という体験は傷となって残るだろと。絶望的な恐怖を伴って残るだろと。そこに想像力が及ばないなら、「あなたは何を守ろうとしてたの?」と思ってしまうんです。無事に帰ってきて元気だったからいいようなものの。

 というか、うーん、女性心理の描き方とか、そういうことでもないかな。なんというか、ヒズミは犯罪被害によるPTSDによって記憶障害と失語症になっているわけで、ひとつのドラマの中で、犯罪被害に遭った小児に対して「こっちは深刻なPTSD被害」「こっちは大丈夫」というダブルスタンダードが発生していることが気持ち悪かったのかもしれません。

 と、いろいろ書いてきましたが、あのー、面白いのでみんな見たほうがいいです、という感じは変わらないです。はい。また次回。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

最終更新:2017/11/10 20:00
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