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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.469

これは金城哲夫が見た夢の世界の続きなのか? 人口問題を解決する理想郷綺譚『ダウンサイズ』

マット・デイモン主演の『ダウンサイズ』。人間を13cmサイズに縮小すれば、食料問題や環境問題はすべて解決するはずだったが……。

 円谷プロが製作した往年の人気特撮ドラマ『ウルトラQ』(TBS系)の中でも、強烈に印象に残っているエピソードがある。伝説のシナリオライター・金城哲夫が脚本を書いた第17話「1/8計画」がそれだ。人類の人口があまりにも増え過ぎたため、人間を1/8サイズに縮めようという国家プロジェクトを題材にした内容だった。ナメゴンやケムール人といった怪獣や宇宙人は登場しないが、小さくなった人間の目には通常サイズの人間が巨大モンスターに映るという不気味さがあった。子どもたちに悪夢的恐怖を与えた「1/8計画」だが、マット・デイモン主演映画『ダウンサイズ』では、よりスケールアップした形で、より詳しくミニチュア化された世界が描かれる。果たしてミニチュア化された新世界は、人類にとってユートピアだろうか、それともディストピアなのだろうか。

 マット・デイモンは『プロミスト・ランド』(12)などごく普通の米国市民役がよく似合う俳優だ。ハンサムすぎず、身長も178cmと高過ぎない。『ボーン・アイデンティティー』(02)から始まるアクション映画「ボーン」シリーズは地味で平凡そうな男が、実は凄腕の工作員だったという設定がドラマを盛り上げた。そんなマット・デイモンが『ダウンサイズ』で演じる主人公ポールは、作業療法士という非常に地味な役柄だ。

 ネブラスカ州オハマで暮らすポール(マット・デイモン)は作業療法士として、様々な職場を回っては、体を酷使する労働者にストレッチ方法を教えたり、1日中パソコンを使うデスクワーカーに正しい姿勢をアドバイスしたりしている。若い頃のポールは医者になるつもりで医大に進んだが、母親の介護のため大学中退を余儀なくされた。以来、毎日マジメに働いているが、収入は限られていた。妻オードリー(クリステン・ウィグ)との仲は悪くないものの、狭い実家を出て、広い新居に移り住もうという夫婦の夢は到底叶えられそうにはなかった。

資産が82倍に増えると知り、ポール(マット・デイモン)と妻オードリー(クリステン・ウィグ)は夫婦でダウンサイズ化することに。

 そんなとき、高校時代の同窓会に夫婦で参加したポールとオードリーは、意外な姿になった旧友と再会する。同窓生のデイヴ(ジェイソン・サダイキス)は奥さんと共に13cmのミニサイズになって現われたのだ。これは人類を縮小化することで、食料問題、資源問題、さらには廃棄物問題を一挙に解決しようという国際的な大プロジェクトだった。志願者は今なら格安料金でダウンサイズ手術を受けることができ、その上わずかな資産で大豪邸が手に入り、税金の支払いも今後は免除されるという。どう転んでもこれから上流階級の仲間入りすることはできない人間たちにとっては魅力的なプランだった。デイヴはダウンサイズ化された世界がいかに素晴しいかを熱心にポールに語った。意を決したポールとオードリーは、夫婦で13cmサイズになる手続きを進める。

 これまでの人生は挫折感でいっぱいだったポールだが、ダウンサイズ化された新世界なら人生をリセットでき、今ある心細い資産を倍増させることができる。一方、ダウンサイズ計画を快く思わない人間もいる。「税金を払わない人間に、選挙権や人権は認められるのか」という中傷がポールの耳にも入ってくる。ダウンサイズ化してしまうと、二度と元のサイズには戻れないことに躊躇する人間も当然いる。誰かにとってのユートピアは、別の誰かにとってのディストピアとなってしまう。ポールのダウンサイズ化手術は無事に済んだ。戸惑いながらも、ポールは新世界に順応していくことになる。

 本作を撮ったのは、米国ネブラスカ州出身のアレクサンダー・ペイン監督。定年退職した仕事人間がそれまで生きてきた人生を見つめ直す『アバウト・シュミット』(02)やインチキめいた懸賞金の知らせに応じる父子のロードムービー『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)など、米国中流階級の人々の生活をペーソスたっぷりに描いてきた。今回のようなSF設定はちょっと珍しい。小津安二郎や黒澤明などの日本映画を敬愛するペイン監督が『ウルトラQ』を観たかどうかは明言されてないが、本作の最初のコンセプトを考え出した脚本家ジム・テイラーとその弟でアソシエイト・プロデューサーのダグラス・テイラーあたりが『ウルトラQ』を観ていた可能性はありそうだ。でも『ウルトラQ』が元ネタかどうかということよりも、1960年代に金城哲夫が思い浮かべたユートピア計画が、ペイン監督ら現代のハリウッドのクリエイターたちによって、どれだけリアリティーのある世界として構築されたかということに興味が湧いてしまう。


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