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ワイドショーには映らない──渦中の水道橋博士が語った竹中英太郎と「労」、そしてルポライターへの狂疾

 竹中労がルポライターを名乗るよりも、ずっと以前。その父・英太郎は挿絵画家として、あちこちにひっぱりだことなり、現在の貨幣価値にして2億円、3億円もの稼ぎを得た。でも、英太郎は、大家としての地位を服を着替えるように脱ぎ捨てて、満州へと渡り、再び挿絵を描くことはなかった。戦後、竹中労の著作の表紙のために、再び絵筆をとるまでは。

 今回の催しを司会した英太郎の娘婿の金子から、こんなことを聞いた。

「挿絵画家のことも、水平社のことも、こちらが尋ねても話すことはなかった……それが、英太郎のダンディズムだったのだろうと思ってる……」

 それを聞いて、改めて気づいた。ルポライターという生き方は、竹中労だけでなく、英太郎と共に築かれたものであること。ぼくらは、その血脈を受け継いでいることを。

 催しの翌日、甲府に一泊したぼくは、改めて竹中英太郎記念館を訪ねた。

 初めて訪問してから、もう5年あまり。英太郎の娘であり、労の妹である館長の竹中紫は、いつも嬉しそうに歓迎してくれる。

「明日で、いよいよ開館15周年なんですよ」

 紫にとっては、ただただ優しい肉親だった、父と兄。その生き様に感銘を受けて、記念館を訪れる人は絶えることがない。だから、ずっと記念館は続いている。そして、ぼくは、ここに来るたびに、自分の日々の取材と執筆と、生き様のことを振り返り、またルポルタージュを書きたい気持ちになるのだ。

 今度の帰り道、腰に下げたコンパクトデジタルカメラを取り出して、記録した写真を眺めた。その中に、催しの後に山梨県立文学館の玄関で、記者から取材を受けている水道橋の一葉があった。ルポライターの生き様そのものの、猟犬のような目をした水道橋に対峙するテレビ記者は、どこか怯えた小動物のような目をしていた。

マスコミに対応する水道橋博士氏

 後日、水道橋を追いかけてきたワイドショーやスポーツ紙が報じたものを見た。どこも、水道橋のわずかなコメントを紹介するだけで、催しの中で語ったルポライターへの情熱を紹介したものはなかった。

 当然、催しの詳細など語られることもなく「甲府市内で行われたトークイベント」とだけ。事情を知らない人が読めば「お笑いのイベントでもあったのだろうか」と誤解するような書きざまだった。

 東京から水道橋を追ってきた記者たちが、壇上での水道橋の言葉を聞いていたかどうかは知らない。竹中労や英太郎のことに、なんらかの知識や興味があるのかも、わからない。

 ただ、もし彼らが竹中労と英太郎のことを知っていたとしたら。そして、水道橋の言葉を聞いていたとしたら……あの、テレビ記者の小動物のようなまなざしの意味は、よく理解できる。

 彼らは、確かに怯えていたのだ。たとえ<バクロ屋>と非難され、蔑みの意味で<ルポライター>と嘲笑されても、最下層から芸能界の不条理を、容赦なく追求し続けた情熱に。
そして、水道橋がその生き様に覚悟を決めたことを、どこか感じていたのだ。それは、お仕着せの
 コメントを集めて、記事に仕立てるルーティーンを繰り返す、自分たちの存在理由を揺るがすものに、ほかならない。

 いま、まさに時代は、書き手本人が、現場に足を運び取材して書くことに回帰しようとしている。そこで求められるのは、ルポライターの情念。そこに、魅せられることに、怯えている人も、まだ多いのだ。

 いま、自分が手を付けているテーマのことを頭に思い浮かべて、一刻も早く、書き始めたくなった。ぼくは、思わずネクタイを締め直した。
(文=昼間たかし)

最終更新:2018/04/12 14:00
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