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ワイドショーには映らない──渦中の水道橋博士が語った竹中英太郎と「労」、そしてルポライターへの狂疾

竹中労・英太郎父子

 それから1年半余りが過ぎ、そんな表情の名残は欠片もなくなっていた。そのまなざしは、文字通り「芸能界に潜入しているルポライター」になっているように見えた。

 そのきっかけが、一連の事務所の騒動なのか。あるいは、そうでないのかはわからない。

 そもそも、いま、スポーツ紙やワイドショーを賑わしている騒動が、どれほど重大なものなのか。ぼくには、よくわからない。

 でも、これだけはわかる。

 竹中労が作品に刻んだ情熱は、世間の濁流に呑み込まれずに、何者かになろうと抗う人を心酔させ、追いつき、越したくなる目標として、永遠に色あせないということ、である。

 そして、すでに作品を読んだことのある人は、竹中労の情熱は、父・英太郎から受け継がれたものであることを知る。竹中労の作品にしばしば登場する父子の情熱。その中でも、ぼくが何度も読み返す一節がある。

 * * *

 ひばりと「部落」の関係を書いたことで、私はさまざまな誤解をうけなければならなかった。まるで私自身が美空ひばりをダシにして、差別を強調したように、いろいろ言われた。私事にわたるが、私の父親は、その青春期に「水平社」の宣言を読んで感動し、熊本県のある「未解放部落」にとびこんだ経歴をもつ。そのとき、私の父親は十七歳であった。

 その熱い血は、いま、私の体内に流れている。一昨年、父親は私の羽織の裏に、「せめて自らに恥じなく眠れ」と書いてくれて、穢多と署名してくれた。私はエタという二字を、差別とたたかい、人間に真に人間として解放する運動に一生をかける義務を、羽織の裏地に文字どおり背に負うている。
(初出:「週刊明星」1969年3月9日号 集英社『芸能界をあばく』1970年日新報道所収)

 * * *

 いま、水道橋は、羽織に刻まれた文字と同じものを、背に負うている。ぼくが「今の状況を受けて、これからどういうものを書いていくのか」と、問うた時に水道橋は、よどむことなく、こう話したのだ。

「芸能を愛でて、まつりごとをからかうこと。そこに、恥じることありません……なぜなら、自分は権力に従うことなどできないから……」

 それから、一呼吸。

「そういったことが、読者に伝わるものを書きたい。自分は55歳になったけど、もう伸びるとは思えないなんて、あり得ないと信じているから……」

 竹中労の絶筆となった「ダカーポ」1991年6月19日号(マガジンハウス)に掲載された連載「実戦ルポライター入門」。

 死の直前まで、竹中労は取材し、書くことをやめなかった。

 * * *

 余命おそらく三~四ヶ月。

 そして六日沖縄へ。ぼくにはもう、残された時間がない。
(「決定版ルポライター事始」1999年ちくま文庫所収)

 * * *

 ぼくも、いつの間にかそう思うようになっていたのだが「ルポライター」とは、単なる書くことで、いくばくかの金銭を得る職業ではない。インターネットで、手軽に知識を得る手段として用いられるウィキペディアには、ルポライターという項目はない。

 一方ルポルタージュの項目を見ると「取材記者、ジャーナリスト等が、自ら現地に赴いて取材した内容を放送・新聞・雑誌などの各種メディアでニュースとして報告すること」
だとか「事件や社会問題などを題材に、綿密な取材を通して事実を客観的に叙述する文学の一ジャンル」という簡潔明瞭なことが書かれている。そして、ルポライターとは、そうしたものを書く人のことだという。

 でも、竹中労の情熱を継ぎ、いつかは追い越したいと思っているぼくたちに、この説明は、まったくといってよいほどそぐわない。ルポライターというのは、何か自分でも説明がつかないようなものに突き動かされて、現場に足を運んでしまう、どうしようもない生き方のことをいうのだと思う。

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