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吉野屋15億円の大赤字、外食チェーンで一体何が起きているのか

 有名外食チェーン「吉野家」や「はなまるうどん」を運営する吉野家ホールディングス(以下、吉野家)が今年1月、2018年3~11月期の連結決算を発表し、約15億円という純損失を計上していたことが明らかとなった。

 この時期に吉野家が赤字に転落したのは、実に9年ぶりのこと。売上高そのものは前年同期比2.4%増の1500億円であるが、同社は減益の理由に「牛肉・米を中心とした原材料価格の高騰」や「人手不足やアルバイト・パート時給の上昇による人件費の増加等」を挙げている。

 苦境に立たされている有名外食チェーンは吉野家だけではない。たとえば「ケンタッキーフライドチキン」(以下、ケンタッキー)では、2017年10月~2018年6月の9カ月間、売上高と客数が前年比を下回り続けていた。

 テコ入れを図ったケンタッキーは昨夏、単品で注文すれば合計920円(以下、注釈がない限り税込)になる4商品を500円のセットにした「Sランチ」を期間限定で販売するなどし、業績を盛り返すことに成功した。ケンタッキーの復調は良いニュースだが、しかしこれは「920円は高いが500円なら…」と感じていた消費者のデフレマインドを如実に表しているようではないか。

 原材料価格や人件費の高騰に加え、消費者のデフレマインドも止まらない。外食産業を取り巻く厳しい現状について、フードアナリスト協会所属のフードアナリスト・重盛高雄氏に分析してもらった。

今どきの消費者が外食チェーンに求めるのは、安さや量よりも“質”!
「吉野家やケンタッキーの残念な特徴としては、主力商品以外の中価格帯商品を掲げながらも、その価値を客に承認されていないことが挙げられます。つまり、主力商品より多少値が張っても消費者が食べたくなるような商品ラインナップを揃えられていないことが、客単価が上がらない原因のひとつではないでしょうか。

 たとえば、“うまい、やすい、はやい”がキーフレーズの吉野家は、冬の鍋シーズンには単価が上がるとはいえ、やはり客にとっては『牛丼(並盛)』の380円という安さが基準であり、商品戦略や店舗展開において多くの課題を抱えています。最近では、500円の『牛皿定食(並盛)』の販促が店頭で展開されていましたが、わざわざプラス120円を出して『牛皿定食(並盛)』を食べる客は、決して多くないでしょう。

 ケンタッキーも同様です。今年はさっそく『辛口ハニーチキン』(270円)のような新商品が登場していますが、多くの客に選ばれるのは結局、定番の『オリジナルチキン』(250円)でしょう。昨年は、曜日限定ながらオリジナルチキン9ピースが1500円という破格のキャンペーンを展開するなど、商品価値と価格を破壊するほどの過激販売戦略を行っていましたが、これでは安売りでしか消費者の目を惹きつけられなくなり、劇薬と言えます」(重盛氏)

 

重盛 高雄 フードアナリスト
ファストフード、外食産業に精通したフードアナリスト。ニュース番組、雑誌などに多数出演。2017年には「The Economist」誌(英国)から、日本のファストフード業界についてのインタビューを受けるなど、活躍の場を世界に広げている。
HP http://foodanalyst-pro.com/profile/profile.php?name=shigemoritakao00017

 どの店も苦境に立たされて試行錯誤しているようだが、客単価を上げられない以上は薄利多売を続けるしかない。しかし重盛氏は、この戦略も今後は難しくなっていくだろうと指摘する。

 

「薄利多売のビジネス自体は否定されるものではありませんが、そもそも客数が確保されなければ利益を上げることはできません。しかし、今の消費者は安かろう悪かろうではなく、おトク感や満足感がなければ振り向いてくれないのです。

 総務省統計局が昨年2月に発表した『家計調査報告(家庭収支編)』(2017年)によると、消費支出の費目別対前年増減率で、外食の実質増減率は-0.6%でした。日本では外食への消費性向が下がっているだけでなく、デフレ期のようにただ“安ければ売れる”という時代ではなくなりつつあるのです。

 というのも、昨今は多品種・大量販売のスタイルが淘汰され、ポテトサラダや唐揚げというニッチな専門店の成功に見るような、少品種・少量販売がトレンドになっています。これは商品数を絞り込むことで適正な利益を確保しつつ、それなりに売れれば商売が成り立つという販売戦略です。単身家族や高齢世帯が増えてきた現在の日本では、量よりも、むしろある程度の質が求められており、ニーズにマッチしているわけです。

 逆に、原価率の高さを売り物にして肉ブームに乗っかった『いきなり!ステーキ』は勢いを落としています。客単価を上げるために、『リブロースステーキ』であれば最低300グラム(1グラム当たり6.9円、税抜)から注文を受け付けていますが、外食に手頃な価格とおいしさを求める客にとっては、このような中途半端な販売戦略は不合格だったということでしょう」(重盛氏)

これからの外食チェーンには“店舗体験”の創出と“エコ”の強化が必須
 戦略ミスに陥るチェーン店が多いなかで、さらに社会的な逆風も吹いている。人件費問題は、年々深刻になっているそうだ。

「2016年から2017年にわたって外食産業に追い風が吹き始めると、人材の確保は再び困難な問題となりました。外国人アルバイトの姿が各店舗で当たり前に見られるようになったのも、ちょうどこの時期と重なります。昨年2月に内閣府より発表された『外国人労働力について』の資料では、2017年の外国人労働者数は127万8670人と、実に対前年比18%増でした。

もともと外食チェーンやファストフードは、大学生のアルバイト先としてよく選ばれていました。ところが就職活動の長期化やインターンシップなどにより、アルバイトをする大学生の絶対数が、昔に比べて減少しているのです。

 たとえばファストフードの代名詞である『マクドナルド』は大学生アルバイトを大きな戦力として活用しており、昨年では『LINE』で顔写真を送るだけで応募が可能という採用方法を取り入れました。履歴書すら不要です。外食産業では現在、“大学生アルバイト”という少ないパイの奪い合いが起きており、採用経費の増大、ひいては時給の高騰に直結しているのです。

 つまり人手不足は、もはや日本人だけでは解消できないということ。より多くの人材を集めようと、各店舗のアルバイト時給が最低賃金を上回るほど高騰していったのも自然な流れです。また、労働者がよりよい時給で仕事を選択する傾向になるもの当然でしょう」(重盛氏)

 

 では今後、復活を目指す外食チェーンは、何をすべきなのか。重盛氏は、「本当に取り組まなくてはいけないことはふたつあります」と提言する。

「ひとつは、置き換えや再現が困難な自店舗ならではの味わいやシーンを創出し、消費者に提供することです。今年10月には、消費税が8%から10%に上がる予定ですが、テイクアウトであれば軽減税率(8%)が適用されるため、テイクアウト客が増えることを見越して、テイクアウトの促進に重点を置いている外食チェーンは多いでしょう。

 ただ、家に持ち帰って時間が経ったものをレンジで温めれば、商品の風味はどうしても落ちてしまいますよね。しかしこれは逆にチャンス。イートインにこそ力を入れ、価格以上の味わいを店内で提供できるようにすれば、テイクアウトよりもイートインの存在価値を高めることができ、必ず生き残っていけるはずです。

 そしてもうひとつ、外食チェーンには、地球環境への負荷を軽減するエコへの取り組みも欠かせません。大手コーヒーチェーンでは、環境保全としてプラスチック製ストローの廃止を決定したところもあります。たかがストローと思うかもしれませんが、海洋に捨てられたプラスチックはそのあと姿形を変え、マイクロプラスチックとなって魚に蓄積されます。そのマイクロプラスチックは、やがて人間の体内に取り込まれることになるのです。

 エコ対策にはまだコストがかかるので、商品の価格設定は多少高めになってしまいますが、消費者はエコに配慮している店舗の商品を購入することで、その活動を支援するという満足感を得られます。これからの外食チェーンのあり方を考えるならば、各店舗にとっても消費者にとっても、豊かな自然や環境を維持するというエコの観点が必要なのではないでしょうか」(重盛氏)

 どうやら現代の消費者は、たとえデフレマインドと言われていても、ただ安いだけの商品や店舗には飛びつかないようだ。これからの外食チェーンが消費者からの支持を獲得していくためには、柔軟な販売戦略が必要であることは間違いない。

(文=森井隆二郎/A4studio)

最終更新:2019/03/10 07:15
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