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きらめく未来予想図に立ちはだかる壁【1】

インテルが逃げ出した次世代半導体が鍵 使用電力火力発電所数億個分! 電力格差を生むエネルギー問題

文=河鐘基

『エネルギー問題入門―カリフォルニア大学バークレー校特別講義』(楽工社)

――5Gの導入でますます期待が高まるIoT社会の到来。多くの企業が日夜技術を発展させまた、それをメディアが喧伝しており、一般人でもなんとなく新しい社会の到来に期待を寄せるようになってきた。ところが、社会の技術的な発展のそばには常に、それを阻む“重大な問題”が横たわっているのだ。

 今やAI(人工知能)というキーワードは、子どもからお年寄りまで広く知られる「常用語」として定着した感がある。技術そのものに対する認識の幅はあるだろう。それでも、「人間のように判断し、仕事や生活をサポートしてくれる便利なプログラム」という理解は、共有され始めて久しい。

 AIに対する人々の期待は、2019年以降もさらに高まる気配だ。世界的に影響力を持った調査会社Gartnerは19年のITトレンド予測を発表しているが、その中で「一般企業および家庭においてAIの導入が本格化。その進化が加速していくことは確実」としている。このような指摘は、世の中がAIに強い期待を寄せている証拠のひとつとなるはずだ。

 ところで、AIが今後どのように発展するのか、またどのような能力を持ち、どのように社会を変えていくのかについて、ここで長々と言及するのは避けたい。というのも、「世界を変えるAI!」的な話題やニュースは巷に溢れている。それよりもここで問題としたいのは、「高度なAIは、本当に世の中に普及するのか」というある意味、流行ムードに水を差す“タブー論”だ。実はあまり深く言及されないが、AIには多くの課題が山積している。たとえば、その代表的なもののひとつに「消費電力」の問題がある。

■関係者は知っていたアルファ碁の消費電力

 AIの消費電力の問題を考える上で最もわかりやすい例としては、囲碁AI「アルファ碁」がある。アルファ碁は韓国のイ・セドル棋士、中国の柯潔棋士など、世界の名だたる名人を撃破し続けてきた、グーグル・ディープマインド社が誇る「世界最強の囲碁AI」だ。技術的な面での称賛ばかりが目につくが、勝敗という結果の裏側にまで注意して目を向けてみると、意外な事実が浮き上がってくる。日本で言えば将棋の羽生善治九段に相当する有名人であったイ・セドル棋士の敗北を受けて、韓国では「アルファ碁ショック」が起きた。多くのメディアが人間とAIの未来について議論し始めたのだが、その中に文化日報による次のような指摘があった。

「アルファ碁は約1202個の中央処理装置(CPU)、176個のグラフィックス処理装置(GPU)を使用する。このようなシステムを稼働するためには、単純計算で約170kW(17万W)の電力(1202×100W+176×300W)が必要となる。人間の脳が約20Wで稼働するのと比較すると膨大な非効率性がある」(著者翻訳)

 このアルファ碁の消費電力について日本経済新聞は「25万ワット」としており、やや計算結果に違いがある。それでも、数千~数万人分の人間の脳のエネルギーを消費するとする結論で共通している。果たして、この数字を考慮した際にAIが人間に勝ったといえるだろうか。アルファ碁は、棋士たちとの対戦の日々を経ながら電力消費の効率を上げるべく研究が進められている。しかし、ごはん一杯、もしくはチョコレートを摂取すれば活動可能な人間の脳のレベルには到底至っていない。今後、アルファ碁レベルのAI(それでも囲碁しかできない)が一般社会に普及すると仮定するならば、世界は深刻な電力不足に陥ること必至だ。

 ソウル大学エネルギーシステム工学部教授で、国際エネルギー経済学会の副会長を務めるホ・ウニョン氏も、メディアへの寄稿文で次のように書いている。

「2040年にはコンピューターが処理しなければならない演算量が、現在の量の約1万倍に達すると予測されている。処理するために半導体が使用するエネルギーは1027ジュール。これは火力発電所があと(世界に)数億個ないと供給できないエネルギー量だ」

 また、ITに詳しいビジネスコンサルタント、クロサカタツヤ氏は「個人的見解」と前置きした上で次のように話す。

「ディープラーニングが取り扱う対象は画像、音声と推移してきている。これらはいわゆる非定型データと呼ばれており、それまでデジタル化されてきたデータより取り扱いや処理する際の効率性が悪い。次に利用が広がると予想されるのは動画ですが、これは1秒間であっても画像の何十倍もデータ量があります。それら画像、音声、動画の処理だけ考えたとして、AIが使われるシチュエーションが社会的に増えていけば、コンピューティングパワーのニーズが減ることはない。むしろ将来的に桁が上がっていくと予測されています。いずれ、世界的にコンピューティングパワーもそれを稼働させる電力も足りなくなるというシナリオは、十分にあり得る話でしょう」

 クロサカ氏によれば、コンピューターの演算量増大によるコンピューティングパワーの不足、消費電力問題というのは、かねて業界内では課題として議論されてきたという。

「膨大な演算を行う施設としてはデータセンターがありますが、電力が満たせたとしても、ものすごい熱が発生してコンピューターの処理能力が低下してしまうという問題があった。冷却のためにエアコン入れたとしても結局電力を消費するので、“寒いところにつくる”という、冗談のような本当の話になった」

 データセンターが置かれている状況は、将来的に多くのAIが稼働する社会の様相を先取りしているともいえそうだ。いずれにせよ、「データセンターのような状況は序の口」(クロサカ氏)であって、これからさまざまな技術が登場するにつれ、計算パワーやエネルギーの限界がますます近づくはずである。

 補足までに、「コンピューターによる膨大な演算」を必要とするAI以外、もしくはAIと併用されるテクノロジーは枚挙に暇がない。IoTやVR技術を駆使して製造プロセスや産業用ロボットの動きをデジタル上に再現する「デジタルツイン」、3D制作など「高度なグラフィック処理」、「量子コンピューティング」「ゲーム開発」「各種シミュレーション」と、今後期待されている技術のほとんどが、大規模な演算、すなわち強力なコンピューティングパワーと、それに付随する膨大なエネルギーや電力を必要とするのだ。

 しかも、高度なAIが必要とされる分野はさらに増えていく。典型例は「自動運転」だ。自動運転は車載カメラから取得されたデータだけでなく、道路状況や天気、またユーザーの個性や趣味嗜好などあらゆるデータを収集・演算・処理することが念頭に置かれている。世界的に自動運転が普及した際、一体どれほどのコンピューティングパワーおよび電力が消費されるのか。おそらく、誰も想像ができていないはず。加えて、日本のAI研究関係者からは次のような指摘もある。

「正直、現在のAIはまだAIと呼べる代物ではありません。高度なIT技術と表現したほうが正しい。世界的に今後、自律的な思考・判断を行う本来の意味でのAIの研究が進んでいくでしょう」

 この自律的なAIとは、ドラえもんを思い浮かべればイメージしやすいかもしれない。自らの判断で人間をサポートするAIというテーマは「技術的に可能なのか」という議論もあるが、仮に実現したとしたらその演算量は相当なものであり、電力消費量は想像もできないほど膨大なものになる可能性がある。

「AI×電力」という問題は、格差と直結するという識者もいる。韓国・仁荷大学校新素材工学科のチェ・リノ教授だ。その主張は、高度なAIが各家庭に普及するとしたら電気使用量も膨らむはずで、貧富の差がそのまま情報取得の格差につながるというものだ。電気代を払える人、そうでない人の間に「デジタルデバイド」が生まれるかもしれないというわけだ。

■ エネルギー問題を解決する次世代半導体開発の行く末

 AIによる膨大な電力消費を回避する道としては、次世代半導体(コラム詳細)など電力消費を最小化する新しいハードウェアおよび技術の登場が待たれている。とはいえ、ソフトウェアが進歩するスピードに比べると、それらの発展スピードには限界がある。

「コンピューター技術の歴史は、ハードウェアの限界に挑戦する歴史。ソフトウェアとして本当に先端的な技術は、常にハードウェアの性能の限界に触れてきた。代表的なものとして『ムーアの法則』と呼ばれる技術発展の法則があり、これまで指数関数的に半導体の性能が上がっていくことで、なんとかソフトウェアの発展スピードに振り落とされずに済んだ。ですが今後はどうなるかわかりません。というのも、ムーアの法則も落ち着いてきた。この“ムーア”とは、インテルの設立者のひとりゴードン・ムーア氏を指しますが、そのインテル自体が『さあどうする』という段階にまできてしまっている」(クロサカ氏)

 19年4月、インテルが5G用のモデムチップ事業から撤退するという報道があった。これは、アップルとクアルコムの間に起こっていた知的財産に関する紛争が終結したことを受け、インテルのモデムチップ採用の拡大が見込めなくなったことが理由だとされている。確かにそのような一面もあるのだろうが、クロサカ氏は「5Gのデータ量を処理しながらユーザーに満足してもらえるようなモデムチップを開発することが、採算などを考慮すると不可能だったのではないか」と異なる視点から解釈する。つまり、世界の半導体開発を牽引してきたインテルでさえ、“ハードウェア技術の壁”にぶち当たっているという分析である。

 この状況は、モノづくり大国・日本の価値が改めてフィーチャーされる機会になるのではないかとも考えられるが、日本の状況はさらに深刻なようだ。あるIoTの技術研究者は次のように話す。

「日本には頭が良い研究者が多く、理論的なアプローチは得意です。しかしながら膨大なデータを持っているわけではないので、理論を実際に検証しながら新しい技術を製品レベルにまで落とし込むことができていない。特に半導体に関しては設計ができる人がほぼいなくなってしまった状況。残念ながら“モノがつくれる国”ではなくなってきてしまっている」

■電力以外にも壁……まだまだ不可知なAI

 さて、AIの電力消費問題を解決してくれる、新しい技術の登場の先行きはまだまだ不透明だ。翻って考えれば、コンピューティングパワーや電力のコストが見合わないため、一般に普及させることが難しいAI技術というのも、そのうち相次いで登場してくるのだろう。そしてAIには、電力消費以外にも課題がある。「説明可能性」がそのうちのひとつだ。

 ディープラーニングなど話題のAI技術には、大量のデータを学習した機械が自ら推論・判断結果を導き出すという特徴がある。高精度である一方、処理するデータがあまりに膨大な量にいたるなどの理由から、人間側がAIの推論・判断過程を追うのが困難になるという限界がある。端的に言うと「AIがなぜそう判断したのか」がわからず、また「判断の過程や根拠もわからない」のだ。

 このAIの「説明不可能性」すなわち「ブラックボックス問題」は、普及を阻む壁となっている。たとえば医療現場で、AIが患者の病気を推論・判断したとしよう。そこで、人間の医師が判断過程を理解できなければ患者に説明することができない、というわけだ。

「そもそも、人間の思考や判断過程にブラックボックスが存在しないかと問われれば、答えは『否』。しかし、ビジネスの現場においては、説明できないAI技術は導入できないという不信や反発が存在するのです」(前出・AI研究関係者)

 このように全人類の希望を背負っているかのようにうたわれるAIだが、実際には問題が山積しているのだ。

 そう考えると、「AIが人間を楽にしてくれる」という楽観論も「人間の仕事を奪う」というディストピア論も、あまり現実的ではない。少なくとも10~20年は、人間は忙しいままだろう。むしろ、そういう話題をけしかける報道があったとしたら、なにかしらの意図を疑ったほうがよさそうだ。

(月刊サイゾー6月号『令和時代の(新)タブー』より)

最終更新:2019/07/27 09:58

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