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地元記者も大ブーイング! 京都アニメーション放火殺人事件でも”首相への忖度”が露呈か

 35人もの犠牲者を出したアニメ制作会社「京都アニメーション」の放火殺人事件は、7月18日の事件発生から1カ月あまりがすぎても、波紋は収まるところを知らない。

 実際、現場の献花台が取り払われた8月25日までの間、痛ましい現場となった京都市伏見区の同社第1スタジオ周辺を訪れるファンの行列は途絶えることがなかった。日本のみならず世界各地の「京アニ」ファンが哀悼の意をSNSなどを通じて発信を続けた。取材に当たった地元の民放記者が語る。

「現場を訪れた京アニのファンは口々に『元気をもらいましたから』と涙を隠そうとしませんでした。例えば、耳が聞こえず、いじめに遭った少女と加害者少年の不可思議な人間関係と人間再生のドラマを描いた京アニの映画『聲(こえ)の形』がその一例です。同じ体験を乗り越えたファンが駆けつけ、『勇気をもらった』と献花台に花を手向けている場面を目撃しました。ファンにとって、命を奪われた35人のアニメーターたちは、二度と会うことのできない、かけがえのない存在になったのでは」

 これほどの悲しみをもたらした事件でありながら、実は、35人の犠牲者の素顔のほとんどをマスコミがいまだに伝えていない。全国紙記者が言う。

「事件発生当初から、京都府警は35人の焼死者の名前を一切伏せてきたんです。15日後の8月2日になって、映画『涼宮ハルヒの消失』の武本康弘監督たち10人に限ってようやく氏名を公表したものの、この10人の遺族のほとんどを取材することはかないませんでした。府警があらかじめ『遺族の皆さまのプライバシーが侵害される恐れがあります』と説得した結果、遺族側は府警を通じて『取材拒否』の意向を示したからです」

 そして京都府警は、献花台が取り払われた2日後の8月27日、まるで世間の喧噪が鳴り止むのを待っていたかのように、残り25人の犠牲者の氏名を公表するに至った。

 25人の中には、人気アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」でキャラクターデザインを担当した寺脇(池田)晶子さんらが含まれていたことが明らかになり、京アニファンの新たな悲しみを誘う結果となっている。

 それにしても、先に公表された10人よりも1カ月近くも公表を遅らせたことに、京都府警記者クラブは「あまりにも理不尽。取材のチャンスをずっと奪われた」と怒り心頭だ。前出の所属記者が続ける。

「京都府警は全氏名の公表理由について『最後の葬儀を終えたから。事件の重大性や公益性に鑑み、実名を提供することとした。警察から公表したのではなく、従前通り、報道機関への情報提供だ』などと取って付けたような言い訳に終始している。公表できるのなら、一斉発表すればいい。時期が異なれば、伏せていた理由を逆に勘ぐられる結果を招くだけじゃないか」

 警察による氏名公表については説明が必要だろう。

 新聞社とテレビ局の記者が所属する警察記者クラブに対し、警察当局が容疑者と被害者の実名を公表するのが原則になっている。氏名を伏せると、憲法が保障する「知る権利」を侵害するからだ。

 いったん警察が情報を伏せてしまうと、犯罪の容疑者になった政治家のような権力者の存在は世間に知られず、悪事がはびこることになりかねない。また、被害者の場合、実際にはもっとひどい目に遭っているのに、警察当局の裁量でその存在が公にならないようでは、被害はヤミに葬られ、本当の犯罪被害から救済される手だてを失いことすらあるだろう。

 例外として、性犯罪の被害者や精神疾患などの理由から氏名を伏せるケースがある。大手紙の社会部デスクが解説する。

「2016年に神奈川県相模原市の知的障害者施設『津久井やまゆり園』で入所者19人が殺害されたときには、神奈川県警が遺族の希望を挙げ実名を伏せました。被害者やその家族が従来から差別の目に晒されていたからです。しかし、今回の京アニ放火事件の被害者を匿名にする特別な理由はなかった。だから、京アニ放火事件をめぐる京都府警の対応は水面下でマスコミの批判の的になっていました」

 ところがここにきて、ある裏事情が分かってきたという。京都府警関係者が打ち明ける。

「実は、京都府警が被害者全員の氏名を公表したところ、警察庁が『もう一度精査しろ』と待ったを掛けていたことが分かってきたんです。その結果、10人限定の実名公表となり、かつ、このうち9人が取材拒否となった。こうした事態は、京都府警の本意ではありませんでした」

 この京都府警関係者によると、裏事情はこうだ。

 放火事件の4日後、京都府警は被害者の氏名を公表しようとしたところ、京都アニメーションの社長側が「報道された場合、被害者や遺族のプライバシーが侵害され、遺族が甚大な被害を受ける可能性がある」と事実上の抗議文を出して実名の公表を控えるよう府警に”プレッシャー”をかけたというのだ。

 そこで府警は、遺族を説得して回って了解を取り付け、犠牲者全員の一斉公表を踏み切ろうとした。

「ところが、事前に報告を受けた警察庁が遺族への配慮を理由に、さらなる同意を得るように指示を出したんです。『葬儀が終わるまで公表しない』という、新たな基準も示され、府警は実名公表に向けて身動きが取れなくなってしまいました」(前出・京都府警関係者)

 では、警察庁がどうして京都府警の判断に任せず、介入に及んだのだろうか。答えはズバリ、”首相への忖度”だという。前出の社会部デスクの話。

「安倍晋三首相は放火事件当日、『多数の死傷者が出ており、あまりの凄惨(せいさん)さに言葉を失う。亡くなった方のご冥福をお祈りする。負傷した皆さんにお見舞いを申し上げるとともに、一日も早い回復をお祈りしている』と異例の談話ツイートを発信しました。加えて、これまた異例なのですが、国家公安委員長に捜査指揮を行いました。すでに犯人は逮捕のメドが付いた段階ですから、捜査を指示する必要はないはず。実際は、捜査そのものの指示というよりも、『遺族を守れ』とけしかけたのです」

 その国家公安委員長の発言記録が残っている。放火事件発生の当夜、山本順三委員長は記者団のぶら下がり取材に応じ、こんな発言をしていた。

「(総理より)指示もございました。事件の全容解明に向け、警察において捜査を徹底するように、こういう指示でございます。被疑者の男は確保されたと承知をいたしております。しかしながら総理の御指示に基づき、被害関係者の支援にも努めるよう、私からも(警察庁に)指示をしたところでございます」

 要するに、安倍首相の意向を忖度した国家公安委員長から警察庁→京都府警へとトップダウン式の捜査指揮が行われ、結果として、被害者の素顔を伝えたいマスコミ報道をシャットアウトすることに成功したというのだ。前出の地元民放記者が言う。

「わたしたちは、感動を与え続けたアニメーターたちそれぞれの素顔を伝え、哀悼の意を捧げるファンの思いに報いたいという思いでした。ですから、京都府警記者クラブは迅速な実名公表を要求する一方で、遺族や被害者への過熱した取材を防ぐために話し合ったんです。個別の取材がスタートすると、同じ遺族を訪れる記者は数十以上になります。遺族感情を逆なでする”メディアスクラム”という状態を生みかねません。そこで、なるべく複数社でまとまって代表取材のようなスタイルをとることや、取材拒否の意向がはっきりしている遺族がいた場合は記者クラブで情報を共有し、訪問の繰り返しを避けることでも合意していたんです。そこまで丁寧に段取りをしたのに、東京にいる警察官僚の意向でわたしたちの取材する自由が奪われるなんて、あまりにも理不尽でした」

 痛ましい放火事件の影で、警察官僚による”首相への忖度”が働いているという驚きの事実。京アニを思い続けた純真なファンたちにとって、こんな忖度こそ、蹴散らしてしまいたいに違いない。

最終更新:2019/08/28 22:00
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