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素粒子物理学大国ニッポンの現在

日本に最先端人材が集まる都市は誕生するか?「リニアコライダー誘致」が持つ本当の意味

文=萩原雄太(かもめマシーン)

ILCが日本人を変える

■ILCが日本人を変える

https://aaa-sentan.org/ILC/

 

ーーそれでは日本でILCの誘致を進めていくにあたっては、どのような困難があるのでしょうか?

山下:ILCの誘致活動を行ってつくづく感じたのが、反対意見があることが許されないこと。ILCの場合、世界の研究者だけでなく、産業界・経済界、そして地元のみなさんからといった多くの方々に応援して頂いているにもかかわらず、一部の反対によって、計画が進展しにくくなります。日本では、「反対の理由を解決しましょう」という前向きな方向ではなく、反対があることによって動きがとれなくなってしまう。

 その結果、行政は「みんなが賛成するもの」に予算を使いたがります。最先端の科学には不安を覚える人もいるでしょう。予算を集中させることに反対する人もいるでしょう。全員が賛成するものと言ったら、世界の予算を結集して最先端の研究をするような施設は、日本ではもうできなくなってしまいます。

ーー「みんなが求めるもの」を求めた結果、エッジが立っているプロジェクトができなくなる……。科学技術のみならず、日本全体が抱える宿痾(しゅくあ)ですね。

山下:また、落とし所がないと議論できないという文化があります。世界から予算を集めるためには、分担の比率を決めるための国際交渉が必要になります。しかし、分担交渉がまだ始まってもいない中でその比率は決められませんよね。だからまずは、交渉を始めてしまえばいいのに、始める前に結論を出しておかなければならないというのが日本の文化です。

 つまり、反対意見に対する過剰な尊重と、交渉を始める前に結論を出しておかねばならないという文化。この2つが日本の成長を押し止めているように感じる。世界でもこんなに躊躇する国は日本だけでしょうね。新しいことにトライアンドエラーしていく段階なのに、トライもないからエラーもない。そんな不思議な国はありませんよ。

ーーでは、山下さんはILCがつくられることによって、どんな未来が待っていると思いますか?

山下:世界の人が集まれる知のフロンティアができることがまず第一。きっと人類の歴史に残る大発見がある。そして技術の波及と国際的な人材の宝庫になることが2つ目。何万年もかかる核廃棄物の処理も、超電導加速器を使って100年単位に短くなる可能性があるし、原子核を変えて新しい物質を作り出すことで、がん治療などにも効果を発揮することが期待されます。また、インターネットを普及させた基盤技術WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)も、粒子線がん治療もPET診断も、もともとは素粒子物理学の分野から生み出されたもの。ディープラーニングの前のニューラルネットワークも20年以上前から使ってきたし、超電導の大規模施設の初めての実用も米国の加速器施設です。新しいものを開発することだけしかできない研究者が何千人も集まることによって、副次的にもさまざまな先端技術が生み出されていきます。

 それに、ILCの建設は、技術的な面だけでなく、日本人の心理的な面にも大きな影響を及ぼすでしょう。世界でも最先端の施設が生み出されることによって、新しいことにチャレンジしていくマインドが生まれます。科学技術は何よりも、人の気持ちを変えるもの。ILCによって「日本はすごい!」という自信を持つことができ、「これもできるんじゃないか?」と未来への希望を生み出すことができれば、日本人のメンタリティは大きく変わっていくはず。ILCを通じて、日本人を、どんどんチャレンジをしていくメンタルに変えていきたいですね。

●山下了(やました・さとる)
東京大学素粒子物理国際研究センター特任教授。高エネルギー加速器研究機構 客員教授。先端加速器科学技術推進協議会 大型プロジェクト推進部会 部会長。東北ILC準備室 フェロー。ILC戦略会議 議長。1995年 京都大学大学院卒業、理学博士。専門は素粒子物理実験と加速器科学で、95年から6年間にわたり欧州原子核研究機構(CERN)に滞在。国際リニアコライダー計画にはCERN滞在当時より物理研究アジア責任者を務め、以降20年近く計画推進の中心として携わっている。

最終更新:2019/08/30 10:00
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