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デバイスアート・シンポジウムレポート

「クレイジーなほど面白い!」 最先端技術と伝統文化が生んだ新しいアートの魅力

device.jpg左からパネリストの八谷和彦氏、土佐信道氏、岩田洋夫氏、稲見昌彦氏。

 5月13日、早稲田大学にて「デバイスアート・シンポジウム」が行われた。早稲田大学の草原真知子教授が司会を務め、メディアアーティストの土佐信道氏(明和電機)、八谷和彦氏、筑波大学の岩田洋夫教授、慶応義塾大学の稲見昌彦教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のエルキ・フータモ教授がパネリストとして登壇した。


 そもそもデバイスアートとは、コンピューター技術をはじめとする新しいテクノロジーを用いたメディアアートの一種で、アートとテクノロジー、そしてサイエンスが融合した最先端アート。デバイス(装置)という名のとおり、部品や技術を隠すのでなく、そのままコンテンツにしてしまうという斬新なアートだ。 

 もっと簡単にいえば、電化製品に代表されるような日本の高度なテクノロジーを、視点を変えてアートの分野に使ったら面白いんじゃない? という発想のもとに生まれたもので、この発想の背後には、日本的な感性やモノづくりの伝統というものが息づいているという。

 今回、シンポジウムに参加したのは「デバイスアート・プロジェクト」のメンバー。これは国際的に活躍するメディアアーティストを中心としたグループで、芸術家もいれば科学者もいる。作品を発表するだけでなく、デジタルメディア時代におけるアートの意味や、日本のメディアアートに見られる「モノ」や素材への愛着、遊び心などの要素を分析し、理論化している。

 エルキ教授によると、日本で生まれたデバイスアートは国際的にもメディアアートに貢献しており、そこには日本人が持つ”遊び心”という部分が重要な役割を果たしているという。西洋においては遊び心が理解されにくく、「クレイジーすぎるからやめよう」と何かやり始める前にストップしてしまうケースもあるが、デバイスアートという分野においては、「すごくクレイジーだからやってみよう」ということになる。試してみることによって、予期していた結果とは違うものになるかもしれないが、そこから生まれた技術を使って、また新しいアイデアが生まれるのだ。そんなユーモアや意外性、そしてエンターテイメント性が重視されるのも一つの特徴だ。

device02.jpgパネリストたちご自慢の作品がスライド
ショーに次々と登場。
(上)笑う機械 「WAHHA GOGO」と
(下)電子楽器「オタマトーン」
(ともに明和電機)

「デバイスアートという言葉が世に出て10年経っていないが、実は日本に古くからあった文化が形を変えて現れたもの。テクノロジーや遊び心、映像文化など、日本人のビジュアルなものに対する関心というものが、こういう形になって出てきたと言える。デバイスアートは単にそこから作品を作っていくというクリエイティブな面だけでなく、そこから技術の研究としても重要である」(エルキ教授)

■何が「アート」か?

今年2月にUCLAで開催されたデバイスアート・シンポジウム「Gadget OK! Device Art in Japan」で取り交わされた議論を中心にシンポジウムが進むなか、一番白熱したのは、「何がアートか」という議題だった。

「最近すごく面白いのは、IVRC(国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト)とか工学系の学生が、僕から見ると『これアートじゃん?』と思うものをスポーンと作ってしまう人が出てきているんです」(土佐)

「工学系の作品が多く出てくるのかと思いきや、デザイン性が優れている作品が意外と評価されている。そういう意味では、アートやエンジニアリング、デザインとかといった枠で分けるのではなく、エッジなところでの”表現力”というところが評価されている気がする」(稲見)

「工学系でデバイスアートに関与しようと思う人の立場はかなり微妙なんです。”何がアートか”という問題にぶつかるんです。本人がアートだと思っていない、アート作品とは意識していないんだけど、誰かが見出すという可能性がある。そういうポテンシャルがあるものが単なる試作品で終わるか、作品になるか、それがどこで変わるかっていうのが面白いです」(岩田)

「大きく言うと、アートはヨーロッパから始まる芸術史・美術史を知らないと、現代美術の上で語ることはできないですよね。たとえば八谷さんは2つの空を飛ぶガジェットを作っているけど、『空飛ぶパンツ』は芸術史に組み込むのはなかなか難しい。けれど、ナンセンスマシーンの飛行機『Open Sky』はハマる。それが工学系のナンセンスマシーンを作っている人と、アートの文脈でナンセンスマシーンを作っている人の違いで、工学系の人が自力でアートの文脈に乗せてくるのは非常に難しいと思うんです。ただ、その2つはすごく接近している。岩田先生(工学系)と僕(アート)が隣同士で座っていること自体おかしいと思うんです。それが日本ではすごく近づいてきていて、その混沌とした状況がすごく面白くて、お互いにとって刺激になっていると思うんです。『明和電機プロダクション』みたいなのをつくって、そこで工学系の学生をスカウトしてデビューさせる自信はある(笑)」(土佐)
 
 また、芸術家と科学者の違いは、作品を一般の人に見せたときの反応で分かれるという。

「一般の人が同じナンセンスマシーンを見たときに、必ず「で?(so what?)」という感想になると思うんです。芸術家は『これを作らないともうダメなんだ、この世が終わってしまう』と作らずにはいられないから作るんです。だから絶対に説明はしない」(土佐)

「科学者は「で?(so what?)」と聞かれたら、用途目的を説明しますね。もともと『こういう研究テーマがある』と学術的に意味があるということを主張して、科学研究費を獲るんです。だから後付けとしての報告書(論文)が必要」(岩田)

 自分の美学を表現するために作品をつくるのが芸術家で、社会に還元されることを目的に技術開発を行うのが科学者。「装置」をつくりだす、という点においては同じでも、その視点には違いがあるようだ。一方のエルキ教授は、また別の見解を持つ。

「アートとはオープンなコミュニケーション。コミュニケーションの方向、展開、内容は前もって決められておらず、それは状況によって変わってくる。つまり優れたアート作品というのは、そこから人々が何らかの意味を汲み取ることができたり、そこに価値を付加したり、自分でその意味を変えることができる。デバイスアートにはこのオープンコミュニケーションという要素が強い。だからこそ面白い」

 アートと大道芸的なもの、道具や工芸作品の棲み分けがあいまいな日本と違い、明確な線引きがある海外において、どれだけデバイスアートが受け入れられるかは未知数ではあるが、これからの発展が楽しみだ。
(取材・文=編集部)

シンポジウム USTREAM(録画)

メディアと芸術 ―デジタル化社会はアートをどう捉えるか

アナログなあなたに。

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最終更新:2010/05/19 11:12
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