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養育費を払わない親から取り立て、兵庫県明石市の新条例とは

 母子家庭の貧困は深刻な社会問題だ。平成28年度「全国ひとり親世帯等調査結果」によると、母子世帯の母自身の平均年収は243万円(うち就労収入は200万円)と極めて低い。

 貧困要因のひとつに、“養育費の未払い”がある。同調査によると、母子世帯のうち、養育費の取り決めをしているのは42.9%だが、現在も養育費を受け取っているのは24.3%。およそ4人に1人しか養育費を受け取れていない。

 そこで兵庫県明石市は今月8日、養育費を支払う義務がありながら正当な理由なく不払いを続けている元夫や妻に対して、悪質なケースには過料を科す新条例を来月4月の施行を目指すと発表した。養育費不払いへの過料は全国初の試みだ。

 「過料」とは、地方自治体の条例で定めることのできる行政罰であり、今回の条例では上限を5万円とし、養育費と同じ額とする。簡単に言えば、養育費を払わない悪質な親から罰金5万円を徴収する、ということになる。

 たとえば離婚した元夫婦のAさんとBさんがいて、Aさんが子どもを引き取り育てているとしよう。Bさんが子どもの養育費を払う義務を負うにもかかわらず支払わず、「悪質なケース」と判断された場合、Bさんには「過料」が科される。

 Bさんに「過料」が科されると同時に、子どもを育てるAさんには、市から過料と同額の「養育支援金」が給付される。つまり実質、養育費がひとり親家庭に入るという仕組みだ。

 明石市は過料の他にも、正当な理由なく養育費を支払わない場合について、給料差し押さえや天引き、行政サービスの一部制限、氏名公表などを条例に盛り込むことを検討しているという。とくに「氏名公表」については異例の処置であり、泉房穂市長が発表するなり賛否両論を集めた。

 この反響を明石市役所はどう受け止めているのだろうか。新条例発表の経緯や疑問点について、明石市役所の担当者に問い合わせた。

――養育費不払いに対しての過料は全国初の試みです。どういう経緯で実施の運びになったのでしょうか?

明石市担当者:養育費という家庭の個人的なお金の徴収を市が後押しするということについては、いろいろご意見もあると思います。ただ、養育費というのはあくまで子どもが健やかに成長する上で必要なお金です。

子どもは自分でお金を稼ぐことができないので、生活するためには、親がお金を出すしかありません。そのため、親が生活に必要なお金を出せない場合、「経済的虐待」という見方もできます。

現実問題、親の貧困により困っている子どもがいる中、行政は養育費不払いの対応をひとり親の方のみに負わすのではなく、「子どもの生活支援」として積極的に関わっていく必要があるというのが、出発点です。

――泉房穂市長が不払い者氏名の公表も検討すると発表し大きな話題となりましたが、どのようなケースで氏名公表の可能性があるのでしょうか?

明石市担当者:まだ検討段階ではありますが、受け取り側から不払いの申し出があった際にはまず、支払い状況を調査し、支払勧告の通知を送るなど段階を踏んでいきます。「過料」や「氏名公表」は、それでも養育費が支払われなかった場合の措置であり、とりわけ「氏名公表」は、最後の最後の手段だと想定しています。過料だけで養育費を徴収できれば、氏名公表までは必要ないという判断になる可能性もあります。

また、たとえば支払い義務者が、病気で仕事ができない、失業でお金がないなど、払うに払えないという状況であれば、氏名公表をしても意味がありません。そういった方には逆に、就労支援や生活保護などの支援を紹介することも考えられます。

――ケースごとに包括的な支援が必要になってくるのですね。過料や氏名公表といった手段については、リスクを懸念する声も出ています。たとえば、「子ども自身が傷つくのではないか」「支払義務者が失職して収入を失ったり、あるいは逆恨みが起きるのではないか」などです。その点はどのようにお考えでしょうか?

明石市担当者:市にもそういった意見は届いています。市でも、過料や氏名公表を検討案として挙げる段階で、そうしたリスクは想定しており、慎重に対応すべきだと考えています。お子さん自身に意見を聞いて、お子さんの同意がないと氏名公表はできないという要件を設ける案も出ています。

しかし、現行制度でも養育費の「強制執行」をすることはできます。養育費の取り決めとして公正証書や家庭裁判所の調停調書などの債務名義があり、相手の勤務先や銀行口座がわかっている場合に、給与や口座を差し押さえて、不払いの養育費を回収するわけですが、この強制執行にも、相手から逆恨みされるリスクは同じようにあると思います。

もちろん「氏名公表」の場合、恨まれる度合いがより強くなる可能性もあります。公表された本人だけでなくその親族などから恨まれることもあるかもしれませんので、慎重に検討すべきだと思っています。

――離婚の際に養育費の支払いについて取り決めがされていないと新条例の対象にはならないということですが、DV被害などで養育費について話し合いが難しい家庭もありますよね。

明石市担当者:離婚前の段階からDV被害者を支援する部署も設けていますが、DVによる離婚で、DV加害者でもある配偶者と養育費の取り決めをさせることはなかなか難しいという現状もあります。DV被害に遭い離婚して子どもを養育されている方の中には、「相手ともう関わりたくない」とおっしゃられる方も多く、市が積極的に立ち入って「養育費の金額を決めたほうがいいですよ」とまでは言えません。そこは、地方自治体の限界なのかもしれません。

 明石市では、昨年11月から今回の新条例とは別に「明石市養育費立替パイロット事業」を試行実施している。明石市が業務委託した保証会社とひとり親が養育費の保証契約を締結し、取り決められた養育費が支払われなかった場合、保証会社がひとり親家庭に養育費を立替払いし、養育費の支払い義務者に立替分を請求するというシステムだ。契約時に必要な保証料5万円も市が負担しており、これまで、3名に対し計8回の立替が実施されている。

――新条例の施行後は、養育費立替事業も継続させるのでしょうか?

明石市担当者:「明石市養育費立替パイロット事業」はまだ試行実施期間中ですが、今後も継続する方向で考えています。ただ、民間の保証会社も関わっているので、そちらとも話し合いながら検討する必要があります。

新条例の施行もまだ正式に決まったわけではなく、10月11日に有識者を招いて検討会を行う予定です。検討会ではこの立替事業を制度化するのか、どこに位置付けるかという話し合いも行います。

ただ、本来であれば「きちんと払うべき人が払う方法」にすることが理想的です。立替事業では、保証会社が替わりに支払った分を義務者に請求することになり、お金は払うべき人から回ってくるのですが、迂遠で市に保証料5万円がかかってきますので、慎重に話し合いを進める予定です。

――市の財政をみながらということですね。

明石市担当者:そうです。養育費に関する制度は本来国がもっと本格的に動くことが望ましく、また、裁判所も調停などで養育費の取り決めに関わったのであれば、支払いについても積極的に対応してもらいたいところです。今回の明石市の動きが広がって、国単位で新しい制度や事業が整っていくことを期待しています。

ただ、子どもたちの貧困の切迫感というのは、自治体だからこそ感じる部分があるので、明石市では養育費不払いにしっかりと対応していく姿勢でいます。

最終更新:2019/10/13 05:30
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