白鴎大学ビジネス開発研究所長・小笠原教授「勘違いの地方創生」【2】

若者は地方から追い出されている!? 人口流出を止めたい自治体がみるべき現実

文=斎藤岬(さいとう・みさき)

地域にかかわるすべての人の考え方が問われている?

――ハコをつくって満足するというのは、地方創生に限らず連綿と地方自治体で起きてきたことなのではないでしょうか?

小笠原 そうですね、交流空間を古い公共工事の感覚のままで設置してはいけません。コワーキングスペースをつくっても、そこで他人同士が一緒に過ごしたり、新しいものを会得したりという気風が地域になければ、新しい交流は生まれません。

 これはたとえ話ですが、最近、オフィスに内階段をつけて、同じ社内でフロアを超えた交流ができるように、という構造のオフィスビルが建っているんだそうです。そこで「そもそも交流が生まれるために社内でどんな工夫をするのか」「交流して何を目指すのか」という部分がなければ、ただ階段をつけただけで終わってしまいますよね。

――道はつくれても、人がそこを歩きたがるかどうかは別問題だ、と。

小笠原 まさにそうです。だから、場所をつくっても人が居着くかどうかは意外にハードルが高いし難しい。地元に自分たちを受け入れる機能や空間がないから「若者はこの街にいなくていい」と若者自身が感じて、逃げるのではなく追い出される感覚で地元を離れるという話はよくわかります。自分に「いてほしい」と言ってくれない空間にとどまるのはつらいですから。

――実際、地方創生の一環としてつくられたコワーキングスペースはどのように利用されてるんでしょうか?

小笠原 仕事帰りのサラリーマンの方が勉強部屋に使っているようなことが多いです。それももちろん利用の一環ですが、地方創生の文脈で考えると、本来はそこで新しい事業やイベントが立ち上がって、人々が入れ代わり立ち代わりやってくる場所になってないといけない。今は、在宅勤務でプログラミングやウェブデザインを生業にしているフリーランスの方が少なくありません。地方在住のそういう方たちにコワーキングスペースやシェアオフィスを利用してもらって、そこで横のつながりができて、それぞれの技能を持ち寄って新しいことをやって……というのが理想形です。でもそもそも、地方ではそういう働き方をしている人が受け入れられづらいという現実があります。大都市で流行りの副業もまだ地方都市ではそう盛んとはいえません。

――それはなんとなくわかります。私もフリーランスなので、基本的に家にいて、勤め人ではない格好で昼間から出歩いていますが、もし地元に住んでいたら「何してる人なの?」と近所で思われそうだな、と。

小笠原 今はまだ、そういうところを乗り越えないと、田舎では暮らしていけないんですよね。地方創生において「仕事が人を呼び、人が仕事を呼ぶ」という名言がありますが、そういう働き方をしている人を受け入れることは、その循環を生み出す一端になるはずなんです。

――それは、自治体関係者の努力だけでどうにかなる話ではないですよね? 地方出身の友人たちと話していると、家族や親類、友人といった周囲の人間との意識の齟齬がつらくて「地元に帰りたくない」という人は少なくありません。

小笠原 だからこれは非常に根深い問題なんですよ。たとえば地方に住んでいる女性が「お前は結婚しないのか?」と尋ねられたり、おじさんたちの会議に女の子――あえてこう表現しますが――がお茶を持っていくことに誰も疑問を抱いていなかったり、そういうことが重なって「ここは私の居場所じゃないんだ。じゃあ東京に行こう」と思ったとして、「この人を追い出したのは誰なのか?」という話になります。

 地域にかかわるすべての人の考え方が問われているんですが、それを共有するのはとても難しい。

 リチャード・フロリダという都市経済学者が発表した有名な研究に、アメリカにおいて「ゲイやボヘミアンなど、多様な価値観を持つ人々が都市に集積する指数の高さと経済成長の高い地域が重なる」というものがあります。つまり、そうした人たちを「生活規範に合わない」と排除する保守的な街より、多様性や開放性、寛容性が担保されている都市のほうが成長する、とデータを用いて説いてみせた。これはもう20年近く前の研究成果ですが激しい議論の末に広くその内容が世界的に知られるようになりました。

 じゃあいまの日本はどうか。本質的な部分で、多様性への理解は進んでいないですよね。

――お題目化している感じがしますね。

小笠原 自分という個人の存在があって、それを受け入れる他者と交流して意見を交わすことで成長するというのは、すごく都市的なんです。田舎では往々にして、上意下達的なコミュニケーションが定着してしまっている。

 今、地方都市では交流人口(通勤・通学、レジャー・観光などで地域を訪れる人)や関係人口(観光ではなく地域や地域の人々と関わる人)を増やそうと取り組んでいて、「都会の人に関心を持ってもらおう」というPRが増えています。

 各種PR映像やふるさと納税、イベントなどが行われていますが、そこに流れるキラキラしたものだけではなく、逆に「ウチの街に来るとこういうつらいことがあるよ」というマイナス面も本当は示すべきなんじゃないか、と私は考えています。

 たとえば、若い人が地域に引っ越してきたときに「消防団に入りましょう」という勧誘が来るケースがあります。地域を支えるに必要な役割ではあるわけで、でもそれを断ると、「では代わりにお金を払ってください」という話になる。これは法的根拠がないので、今問題になっています。

 地域に参加するのに、労力かお金かという二択になってしまう。お金さえ払えば社会参加できるのか、社会を持続させてゆくには厄介なコミュニケーションも含めてそれによって地域が成り立っていると説得していくのか。そうした都合の悪い話も事前に開示しておくのが、トラブル回避の一つの手段なんじゃないかな、と。

 地域のリアリティの中からキラキラした情報だけを選んで出しても、実際に足元から人口が流出している現実があるわけです。

――流出超過になっている理由を受け止めた上で、次の手を考える必要がある、ということですね。

小笠原 そうです。地方は変わらないといけない。自治体関係者も住民も、変わることを厭うている場合ではないんです。「追い出される」という強烈な感覚を持っている若者が少なくないことは、それを教えてくれている。彼ら、彼女らがそう感じるワケを聞くことは、地方創生の大きな一助になるはずです。(構成/斎藤岬)

 

 

小笠原伸(おがさわら・しん)

1971年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻建築学専修修士課程修了。2012年より白鴎大学着任。現在は同大学経営学部教授、白鴎大学ビジネス開発研究所所長を務める。都市戦略研究、地域産業振興、ソーシャルデザインなどを専門とし、国土形成計画や地域活性化・地方創生の現場に携わる。現在、茨城県結城市、栃木県小山市などへの助言指導を行っている。

斎藤岬(さいとう・みさき)

斎藤岬(さいとう・みさき)

1986年、神奈川県生まれ。編集者、ライター。

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最終更新:2020/03/26 16:09
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