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警察庁タブーにも挑む! 全国紙を脅かす“地方紙連合”発スクープの強度

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「秋田魁新報」HP

――かつてスクープといえば、全国紙に所属するエース記者らが、政財界や警察とのつながりをもとに華々しく“打つ”ものが多かった。だが、ここにきて全国紙が持つ牙城が崩されつつあるという。

 今、地方紙が熱いのをご存じだろうか。各地でスクープを連発し、全国紙を確実に脅かす存在になっている。日本新聞協会の関係者が語る。

「昨年の新聞協会賞は、『秋田魁新報』が受賞しました。ミサイル迎撃システム『イージス・アショア』の配備候補地選定をめぐる防衛省の調査報告書に事実と異なるデータが記載されていることを突き止め、2019年6月5日付一面でスクープしたんです。秋田魁が協会賞を取ったのは、実に45年ぶりのこと。このスクープで防衛省が調査の誤りを認め、配備候補地の再調査につながりました。地方紙が国を動かした画期的な出来事でした」

 昨年末も、全国メディアを驚かせるスクープが出ている。今でこそ「週刊文春」(文藝春秋)誌上において、女性厚労官僚との不倫スキャンダルで“時の人”になっている和泉洋人・首相補佐官を真っ先に取り上げたのは、沖縄県の地方紙「沖縄タイムス」だ。

 報道によると、和泉氏は、住民反対運動に遭っていた沖縄県東村高江周辺の米軍ヘリパッド建設工事を進めるため、周辺に用地を持つ電源開発(Jパワー)に協力を求め、見返りに「海外案件はなんでも協力します」と懐柔策を持ちかけたという。前出の新聞協会関係者が言う。

「沖縄タイムスは、Jパワーの内部メモを入手しました。そして和泉氏がJパワーの会長に向かって『本件は官邸の官房長官直結で私が仕切っている』『国が米国との関係の中で急いでいる事業と受け止め、協力してほしい』と迫った様子を詳細に報じ、全国紙も腰を抜かすほどのスクープを飛ばしました」

 このように地方紙が相次いで放つスクープは、決して偶然の産物ではない。地方紙は全国メディアに対抗するかのように、連携して特ダネを発掘し、全国メディアが報じようとしないタブーに挑み続けているのだ。

警察庁不祥事をスクープ!

「福岡を中心に発行している西日本新聞を中核に北海道新聞、河北新報(宮城)、新潟日報、東京新聞、中日新聞、京都新聞、神戸新聞、中国新聞(広島)の各紙が加わり、壮大な地方紙連合取材班が形成され、未曽有の警察不祥事を暴きました。それは見事な特ダネ尽くしのキャンペーンとなり、半年間にわたる報道が行われたんです」

 こう語るのは、ある地方紙関係者だ。その衝撃的なキャンペーンの口火を切ったのは、西日本新聞をはじめ地方紙各紙が19年1月に一斉報道したスクープ記事だった。そのタイトルはこう打たれた。

「警官467人に執筆料1億円超 副業禁止抵触か 昇任試験問題集の出版社」

 この記事は、警察庁と17道府県警に所属する幹部警察官467人に対し、昇任試験の対策問題集を出版する民間業者が執筆料として総額1億円余りを提供したと報じた。この企業の名は「EDU-COM」(東京)。入手した内部資料には467人の氏名、執筆料、支払日が記され、ほとんどが警部以上の幹部。もっとも高額だったのは大阪府警に所属する現職警視正の1500万円超。続いて、宮城県警の警視正と京都府警の警視がそれぞれ約500万円、千葉県警の警部が約317万円の順だった。福岡県警の最高額は本部所属の警視で2年間に約80万円、熊本県警は警視級の署長で4年間に約250万円だったという。全国紙の社会部デスクが声を潜ませる。

「この記事が掲載されたとき『どうして地方紙がこんな全国をまたにかけたネタを手がけられるんだ』と大手メディアの間で驚きが広がりました」

 この反応は、当事者である警察庁も同じだった。同庁を管理する国会公安委員会トップの山本順三委員長(当時)は、報道された当日の閣議後会見で「記事の内容についてのコメントは差し控えたいが、明らかになった事実に応じて適切に対処していく。まずは事実確認を必要に応じて行う」と述べ、静観しかねない態度を見せていたのだ。

 しかし、地方紙連合の報道はやまなかった。

 例えば、「『小遣い稼ぎ』昇任試験問題集、執筆認めた警官たちの“言い訳”」と題する記事では、奈良県警の元警視が警察庁に出向した際、上司から「今回はこのテーマで書いてあげてよ」と執筆を割り振られ、原稿料を受け取るよう指示された――との証言が掲載された。

 そして内部資料を精査したところ、警察庁への出向と執筆時期が重なる警察官が100人超に上っており、この報酬問題の温床は「警察庁」にあると指摘したのだ。前出の地方紙関係者の話。

「警察庁クラブ詰めの記者を抱える全国メディアでは、ネタ元を敵に回すような報道はとても無理な相談でした。地方紙が地元の県警本部をめぐる不祥事の取材をコツコツと積み上げ、ついに頂上の警察庁スキャンダルへと登り詰めた。まさに全国紙を凌駕するキャンペーンでした」

 地方紙連合が手がけた一連の警察不正キャンペーンの結果、警察庁と道府県警が3人を懲戒処分、18人が訓戒や注意処分を受け、半年以上にわたる調査報道を終えた。西日本新聞関係者が振り返る。

「西日本新聞では複数の幹部が事実関係を認めた段階で、友好関係にある地方紙に連携を呼びかけました。西日本だけ報じても、警察庁を頂点とする警察組織に黙殺される恐れがあったからです。疑惑は国会でも取り上げられるようになり、警察庁はやむなく懲戒処分に踏み切りました。警察庁の調査は身内に甘いきらいはあるものの、警察幹部と出版業者の癒着を暴き、昇任試験の内容を改めた県警も出ました。地方紙が連携した調査報道が、全国メディアのタブーを突き破ったのです」

進化する地方紙連合

 地方紙連合の取材チームは、自らの取り組みを『オンデマンド調査報道』と名付け、主にLINEを使って情報源を開拓していった。先駆けは、西日本新聞が立ち上げた『あなたの特命取材班』。スタート1年だけでフォロワーは6000人、寄せられた調査依頼は3000件に上り、151本を記事化したという。

 これにならい、東京新聞は『ニュースあなた発』、京都新聞は『読者に応える』、中国新聞は『こちら編集局です あなたの声から』、琉球新報は『りゅうちゃんねる~あなたの疑問に応えます』といったニュース枠を設けて取材チームを立ち上げた。参画した地方紙幹部の話。

「地方紙の取材チームは互いに連携協定を結び、調査依頼やノウハウの共有、記事の相互交換に取り組んでいます。これは、限られた人数の地方紙記者が、読者から寄せられる膨大な依頼に対応できるように構築した地方紙連合ならではの工夫でした。読者から寄せられた取材テーマを共有し、記事を交換して自社紙面とサイトにも掲載しています」

 そして先月、全国12紙の地方紙連合チームが新たな取材の試みを紙面に発表した。外国人労働者の就労を大幅に拡大する改正入管難民法の施行から今年4月で1年となるのを前に、外国人労働者300人を対象にした合同調査を実現したのだ。第一報はこうだ。

「外国人労働者305人 特定技能、4割『知らない』」

 12紙による調査の結果、改正の目玉として新設された新在留資格「特定技能」について、300人の4割が「知らない」と回答。特定技能に必要なビザの取得を望む人も43%にとどまり、制度の周知や準備不足の実態が浮かび上がった。前出の地方紙幹部が続ける。

「参加した12紙の各取材チームは、共通のアンケート用紙を使いました。調査期間は昨年12月~今年2月。来日5年以内の技能実習生や留学生を対象に32カ国・地域の305人を丁寧に取材し、回答を得ました。こうした全国アンケートの実施は、全国各地に拠点を持つ全国メディアが独占していましたが、その壁を突き破ったことになる。地方紙連合はまさに“進化”しています」

 ちなみに、こうした地方紙連合の果敢な取り組みは、全国メディアにとって単なるライバルの出現にとどまらず、全国メディア側の経営問題にも発展しかねない可能性をはらんでいるという。前出の新聞協会関係者が言う。

「地方紙にとって、全国ニュースの供給源といえば、共同通信や時事通信なんです。しかし今回の取り組みは共同や時事を外して行われている。地方紙が手を組めば、全国メディアの手を借りなくても紙面が作れてしまうことを見せつけたのです」

 メディアの勢力地図を塗り替えかねない地方紙の動きを、今後も注視したい。

最終更新:2020/05/06 18:19
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