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トラブル乱発でも突き進む韓国のオンライン授業、混乱続く日本の教育現場は何をするべきか?

イメージ画像/出典:hamupan

 新型コロナウィルスの長期化が見込まれる中、「9月入学制」への移行など、教育現場における対応も盛んに議論され始めている。なかでも、大きなテーマのひとつとなっているのが、「オンライン授業」のためのインフラ&運営ノウハウの整備だ。

 文部科学省の調査によれば、4月中旬の段階で、双方向のオンライン授業を実施している自治体の割合は5%(公立小中高校などを休校にしている自治体のうち)だという。

 家庭ごとのインターネット環境の差や授業用端末の用意、ノウハウ不足、セキュリティ問題、そもそもオンライン授業が標準事業数に含まれない(学習指導要領との兼ね合い)など、クリアしなければならない問題が山積しており、多くの自治体がなかなか実施に乗り出せていない状況がある。

 おそらく、どの国も似たような悩みを抱えていることだろう。そんななか、4月から小中高および特殊学校のすべての学生およそ400万人を対象に、オンライン教育を一律で開始した国がある。感染予防対策でも迅速な動きをみせた韓国だ。

 韓国では4月9日から中学3年生、高校3年生を対象にオンライン授業を開始。その後、16日、20日と順次、全国すべての学生に対象を拡大している。実際の授業内容には、ふたつのパターンがある。ひとつは、オンラインを通じて学習コンテンツや課題を提供するパターン。もうひとつがリアルタイムの双方向対面授業だ。

 世界に先駆けて壮大な“教育改革”に着手した韓国だが、前代未聞の数の学生がオンライン授業を受けることにより、少なくないアクシデントも起きているようだ。

 そのひとつは、通信まわりの問題だ。オンライン教育実施初日、韓国政府が管理する教育プラットフォームは、4~5時間にわたり接続エラーに。教師や生徒が接続できず、別のオンライン手段で授業を行うハメになるというケースが相次いだという。現在は、現場側とプラットフォーム運営会社が対策を講じることで、接続は比較的安定的に保たれているそうだが、仮に日本で大規模なオンライン授業を実施する際には参考になりそうな事例だ。

 次いで権利侵害の問題も指摘され始めている。例えば、女性教師の写真を学生がキャプチャーした上でSNSや掲示板に投稿。容姿をランク付けするスレッドが立ち上がるなど、セクハラ問題や肖像権侵害が増加している。加えて、教育内容の無断複製・流布など、「授業著作権」の侵害に対しても懸念が高まっている。

 セキュリティ上の不備もまだまだ解決されていない。光州広域市では、多数の生徒がリアルタイムで参加する授業をハッキングし、その場に性器の画像を送り付けるという“デジタル露出狂事件”が実際に起きてしまった。米国などでは、オンライン会議に侵入して迷惑をかける「Zoom爆撃」という行為が頻発しているが、韓国ではオンライン授業がその標的となりつつある。

 なお教育現場からは「オンライン授業は平等性を担保できない」という厳しい声もあがっているようだ。

 ある農村では、一部の学生たちの家にインターネット環境がなく、オンライン授業を受けに学校に登校するという本末転倒な状況も生まれている。また、各学生の理解度や進捗具合を把握するのが難しく、平均以下、もしくは平均以上の学生たちに対するフォロー策(補修や特別授業など)を柔軟に講じることができないという欠点も指摘されている。

韓国のノウハウにユネスコも興味?

 このように、オンライン授業の全面実施にともなって次々と問題が浮上している訳だが、一方でポジティブなニュースもある。例えば、オンライン授業が開始された4月10日の段階で、政府の教育プラットフォーム上にあった学習コンテンツは15万2000個だったが、およそ10日後の4月21日には175万8000個にまで激増した。また教育現場では、遠隔地から手軽にいろいろな職業の人を授業に招待できるようになったメリットを駆使して、水準の高い職業教育を実現しようというアイデアも出てきている。やってみると、意外に「適応が早い」というのが、関係各所やメディアの評価だ。

 総合的にみると、政府の号令のもと問題はあれど、学生や教師また社会全体が適応に向け動き出したというのが韓国の現状のようだ。前代未聞のことをやるとなると、「やらなければ分からないこと」、「やってみて気づくこと」が当然ある訳で、大胆な目標を掲げた上で試行錯誤していこうというアジャイル的なスタンスは、全教育のオンライン化にとって必須なのかもしれない。

 なお、UAE、アルゼンチン、チリなどの国、またOECD、ユネスコ、アジア開発銀行など国際機関が、試行錯誤を進める韓国のオンライン教育のノウハウ共有を求め、アプローチを開始したとの情報もある。

 韓国のノウハウを日本が直接取り入れるかは分からないが、その失敗談や効果的な施策からは学ぶことは多いはず。現状では出遅れている感が強い日本だが、韓国のみならず、各国の経験に学んだ質の高いオンライン教育が実現することを期待したい。

河 鐘基(ジャーナリスト)

リサーチャー&記者として、中国やアジア各国の大学教育・就職事情などをメディアで発信。中国有名大学と日本の大学間の新しい留学制度の設置などに業務として取り組む。「ロボティア」「BeautyTech.jp」「Forbes JAPAN」など、多数のメディアで執筆中。著書に「ドローンの衝撃 」(扶桑社新書) 「AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則」 (扶桑社新書)、共著に「ヤバいLINE 日本人が知らない不都合な真実」 (光文社新書)など。

Twitter:@Roboteer_Tokyo

はじょんぎ

最終更新:2020/05/05 12:05
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