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エッジ・オブ・小市民【12】

安倍首相の現実歪曲力――あるいは、不幸をまき散らし、システムを腐らせる現代の呪い

文=堀田功(ほった・こう)

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 法解釈を強引に変更してまで決定した定年延長、内閣による“恣意的な人事の懸念”が取り沙汰された検察庁法改正案の採決断念、そして新聞記者たちとの賭け麻雀の発覚——と、今年1月から大いに揉めまくって国全体を巻き込む騒ぎとなっていた黒川検事長問題。その最後は「なんじゃそら」という驚き呆れるほかない展開を見せたわけだが、とりあえずこれですべて幕引きできるような状況でもないことも確かだ。

 この問題に関して「どう考えてもそりゃおかしいだろ」という話はそれこそいくらでもあって、それをひとつひとつ挙げていくとそれこそきりがないが、とりあえず任命責任について安倍首相は、22日の衆院厚生労働委員会で「法務省、検察庁の人事案を最終的に内閣として認めた責任は私にある。批判は真摯に受け止めたい」と述べた。法的根拠のない自分たちのデタラメな閣議決定で定年延長を決めたくせに「法務省、検察庁の人事案」などと責任転嫁しようとしているあたりがなんとも姑息だし、任命責任を認めたところで、その責任を取る気がまったくなさそうなところはいつも通り。例によって安倍首相は「責任は私にある」と認めることと、「責任を取る」ことの違いがわかっていないようだ。

事実を隠している人物と事実を創り上げていく人たち

 そして現在、批判が高まりつつ中で新たに“疑義”が出てきたのが、黒川氏に対する“訓告”という処分の決定過程だ。“常習賭博”という違法行為があったにも関わらず、なぜ国家公務員法が定める懲戒処分ではなく、法務省の内規に過ぎない訓告という軽い処分が下されたのか。安倍首相は22日午後の衆院厚生労働委員会で黒川氏の処分について追及された際、「検事総長が事案の内容など、諸般の事情を考慮し、適切に処分を行ったと承知している」と何度も繰り返した。つまり、訓告という処分の決定したのは検事総長で、それに自分は関わっていないということである。

 しかし、同じ22日午前。森法相は記者会見で黒川氏の処分について次のように述べている。

「(黒川氏の訓告処分については)法務省内、任命権者であります内閣とさまざまな協議を行いました。その過程でいろいろな意見も出ましたが、最終的には任命権者である内閣において決定がなされたということでございます。(略)さまざまなことを総合考慮したうえで、内閣で決定したものを私が検事総長にこういった処分が相当であるのではないかということを申し上げ、監督者である検事総長から訓告処分にするという知らせを受けたところでございます」

訓告処分は内閣が決めたと言ってしまっているのだ。それを森法相が検事総長に提案し、それを受けて検事総長から訓告という処分が行われた、と。つまり、訓告処分を下した主体は検事総長であるものの、その処分の内容決定は実質的に内閣が行っていたということだ。

 そして共同通信がスクープを飛ばす。25日午前10時過ぎに配信された記事『黒川氏処分、首相官邸が実質決定』で、複数の法務・検察関係者から証言を取って、「法務省は、国家公務員法に基づく懲戒が相当と判断していたが、官邸が懲戒にはしないと結論付け、法務省の内規に基づく「訓告」となった」ことを明らかにし、森法相の22日の記者会見の内容を裏づけたのである。

 さて。安倍首相、森法相、複数の法務・検察関係者のなかで言っていることが違う人物がひとりだけいる。すっとぼけているのが誰か、もはや言うまでもないだろう。この食い違い、当然安倍首相の虚偽答弁が疑われる状況だ。

 しかし、ここから第二次安倍政権ならではの展開を見せる。まず、菅官房長官が週明けの25日月曜午前の記者会見で、黒川氏の処分について「法務省が、今月21日に検事総長に対し、訓告が相当と考える旨を伝え、検事総長においても訓告が相当であると判断し、処分したと承知している。同じ日に、法務省から内閣に報告があり、決定について異論がない旨を回答した」と発表。「あくまでも法務省と検事総長で決定した」として、内閣の関与を否定したのだ。同日の厚生労働委員会で共産党の山添拓議員に追及された際も、事前に処分の内容について内閣での協議や議論は「承知していない」と繰り返した。すっかりハシゴをはずされてしまった森法相。なんというか、哀れですらある。続いて山添議員に黒川氏の処分決定について質問された森法相は次のように答弁している。

「法務省としては調査結果を踏まえ、監督上の措置として、もっとも重い訓告が相当であると考えました。そこで監督者である検事総長に対し、法務省が行った調査結果と共に、法務省としては訓告が相当と考える旨をつたえ、検事総長において、訓告が相当であると判断したものでございます」

 22日の記者会見と言っていることが変わっている。「内閣との協議」や「最終的に内閣が決定」という話はどこに行ったのか。それを山添議員に問いただされると、

「任命権者は内閣でありますので、黒川検事長の調査結果等について協議をするのは当然でございます。事務的に調査の経過について、途中経過等も報告をし、協議していたものでございます」

 と、微妙に軌道修正。直前の菅官房長官の「内閣での事前の協議、議論をしていない」という答弁とさっそく食い違っている。まあ、細かいところまで詰めている時間がなかったのだろう。そして、問題はここで森法相が“決して認めなかったこと”だ。それは記者会見で森法相自身が述べていた「(黒川氏の処分は)最終的には任命権者である内閣において決定がなされた」ということである。つまり、菅官房長官も森法相も内閣が処分を決定したということを必死に否定しようとしている。なぜか。もちろん、安倍首相が否定したからだ。

 こうした動きこそが、まさに第二次安倍政権である。安倍首相の適当な言葉が周りを振り回し、その言葉を“事実”へと創り上げていくために、周りの人間が時に事実を“隠蔽”し、時に“嘘”をつき、時に公文書の“改竄”まで行う。関係者一同が、安倍首相の言葉を正しいものにするために不正を働くのだ。

現実を塗り替えて不幸を撒き散らす呪いの言葉

 故スティーブ・ジョブズは、その強烈な魅力とカリスマ、巧みな話術によって、どれだけ実現困難なプロジェクトでも「実現できる」と周りを納得させてしまう場の空気、“現実歪曲フィールド”なるものをたびたび創り出していたという。一方、我らが安倍首相の現実歪曲力のなかなかのものだ。ただし、それはジョブズのような魅力やカリスマ、話術によるものではなく、権力と傲慢と忖度によるものだ。そして、ジョブズは現実歪曲フィールドを駆使していくつもの魅力的な製品を世に送り出してきたが、安倍首相が現実を歪曲してもたらすものは、自らの保身である。

 その現実を歪曲させる言葉はもはや“呪い”だ。口から発せられるデタラメな言葉は周囲に不幸をまき散らし、システムを腐らせていく。そうやって歪曲された現実こそが、安倍首相の信じる現実なのだろう。そのために何が犠牲になろうとも意に介さない。森友学園への国有地売却に関する財務省の公文書改竄に絡んで、近畿財務局職員が自殺するという非常に痛ましい事件が起きたている。この事件の発端も安倍首相の「私や妻が関係していれば首相も国会議員も辞める」という答弁だ。その直後から一連の改竄、隠蔽が行われ、近畿財務局職員は遺書をのこして自殺した。その死について安倍首相は「責任を痛感する」と述べた。いつものことだ。

 現在、この“呪い”を一身に受けているのは、他でもない森法相だろう。黒川氏の賭け麻雀発覚後、進退伺いを提出したものの安倍首相本人から強く慰留されたそうだが、現在の森法相の役割は決して合うことのない辻褄をひたすら「合っている」と繰り返し言わされる苦行のようだ。むしろ、その苦行のために慰留されたのではないかとすら思える。森法相はハシゴをはずされ続け、かなりきわどいバランスでなんとか立っているように見えるが、早晩、限界が来るのではないか。

裸であることを認めない裸の王様

 アンデルセン童話の『裸の王様』では、パレードの最中に無邪気な子供から「王様は裸だ」と指摘され、そこでようやく王は自分が裸であることに気づいて自らの不明を恥じる。これを現代の日本を舞台に翻案したら、その結末はちょっと違ったものになるだろう。王様は裸であることを指摘されても、「仕立屋の案を最終的に認めたという中において、その責任は私にあります。しかし、仕立てそのものは適正に行われたものであり、いわばその中において、まさに私は裸ではないと、こう承知しているところであります」と、それを認めない。家来たちも「裸という指摘にはあたらない」、「仕立屋がさまざまな協議を行い、こうした服がお似合いであるのではないかと報告があり、王室も異論がないと回答したところでございます」などと言い始め、王が裸であることを認めない。さらに王が乗る輿を担ぐ人たちも「王様は裸じゃない!」と叫び続ける。パレードを見物する群衆からすれば王様が裸であることは一目瞭然なのだが、王様御一行がそれを決して認めないので「王様は裸だけど、裸ではない」という異様な状態が醸成される。そして、その奇妙でグロテスクなパレードは腐臭を漂わせながら続いていく。だが、それも長くはないだろう。

堀田功(ほった・こう)

いくつかのペンネームでウェブ・雑誌記事を書いている雑文業。得意分野は特になく、「広く浅く」がモットー。

最終更新:2020/05/29 13:09

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