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箕輪を“天才”にしたサロン文学

「オンラインサロン文学」の選民思想 “本を読めない”客を集めるシステムとは

――セクハラ問題で世間を騒がせた編集者の箕輪厚介氏を、“天才”たらしめたのが、オンラインサロン運営者たちの書籍だ。本が売れない時代にある程度の売り上げが確保され、うまくいけばベストセラーにもなる一方で、中身に関しては具体性に乏しく、扇動されやすい人を煽るだけのものとなっている。

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『革命のファンファーレ』(幻冬舎)

「何がセクハラだよボケ」「俺は反省してないです。ふざけんなバーカ」

 今年5月、セクハラ問題を追及された幻冬舎の編集者・箕輪厚介は、自身の開設するオンラインサロン「箕輪編集室」の会員に向けた動画で罵詈雑言を垂れ流した。これが明るみに出ると世間には大きな失望が広がり、箕輪は「一般常識を欠き、傲慢な人間になっていたことを自覚し、深く反省しております」と慌てて謝罪。テレビ番組の出演を自粛し、NewsPicksBOOK(以下NPB)編集長を退任するとともに、NPBの刊行自体も終了した(別レーベルのNewsPicksパブリッシングは継続)。

 ここ数年、芸能人や起業家などが開設するオンラインサロンに対する注目は高まる一方となっている。参加者がタレントとコミュニケーションを取れる従来型の「ファンクラブ」とは異なり、会費を支払った参加者自らが率先して仕事をしたりイベントを企画するオンラインサロンに対しては「信者ビジネス」「搾取ビジネス」といった批判が巻き起こっているものの、加入者は膨れ上がり、その市場規模は30億円にまで拡大した。

 そして、それらと深い関係にあるのが、書籍という媒体。本稿では、そんなオンラインサロンと重要な関わりを持つ書籍を「サロン文学」と名付け、オンラインサロンと書籍との関係性を読み解いていこう。

岡田斗司夫からすべては始まった

 1万1000円/月と高額ながら1300人以上の会員数を誇る「堀江貴文イノベーション大学校(以下、HIU)」(2014年8月~)、1000円/月と安価な料金設定で6万人もの人々を集める「西野亮廣エンタメ研究所」(2016年~)、そしてコロナ禍においてこれまでの5980円から980円へと値下げを断行したオリエンタルラジオ・中田敦彦による「PROGRESS」(2018年~)など、多くの著名人たちがオンラインサロンの運営に乗り出している。前述の箕輪厚介が運営する「箕輪編集室」(2017年~)では、1500人あまりの人々が毎月5940円を運営に納めていた。

 10年代の終盤からその勢いが加速していったオンラインサロンだが、その源流に位置しているのが「オタキング」として知られる評論家・岡田斗司夫であった。

 彼は、95年に刊行した『僕たちの洗脳社会』(朝日文庫)において、これまでの貨幣経済から評価経済へと経済システムが移行していくことを予見し、本書のアップデート版である『評価経済社会』を2011年に刊行。その予言通り「評価経済」という言葉は人口に膾炙し今や、ビジネスの現場で使われることも珍しくなくなった。

 彼自身も、10年3月に「オタキングex(12年よりFREEexに改称)」を設立。これは、社員に給料を支払うのではなく、社員から年間12万円を徴収して彼らに仕事を与えるという、まさに現在のオンラインサロンの形を先取りする組織だった。時代の数歩先を行っていたこともあって大バッシングを受けたが、ホリエモンもここに加入しており、後に「岡田斗司夫のおかげでHIUができた」と謝意を述べるなど、現在のオンラインサロンブームに先鞭をつけたことは間違いない。

 また、箕輪も岡田が配信するニコニコ生放送の番組において「まじで天才」と絶賛し、ライブドアやLINE、ZOZOなど渡り歩いてきた田端信太郎の開設するオンラインサロン「田端大学」でも『評価経済社会』が課題図書に指定されるなど、オンラインサロンの最先端を行く人々が岡田の影響を受けてきたのだ。

 オタキングexの頃からオンラインサロン界隈を観察し、箕輪が初めて編集した雑誌「ネオヒルズジャパン」にも携わったライターの久保内信行氏は、岡田から発展していった流れについて、次のように解説する。

「オタキングexの頃は独自のSNSを構築してサロンが運営されていたのですが、5年ほど前からフェイスブックのグループシステムを活用することによって、オンラインサロンはどんどんと普及していきました。16年からは、DMMやキャンプファイヤーといった企業もオンラインサロンの運営に参入するようになります。
 そんな広がりを見せる一方で、そこで語られる内容はどんどんと単純化していく。岡田氏の頃は、彼の背景にあるSFなどの知識を共有した層が参加し、知的な議論も行われていましたが、現在は具体性が乏しく、利益に直結しそうなマインドが語られるのみ。オンラインサロンはどんどんと“利益原理主義”と化していったんです」

 10年をかけて「劣化」していったオンラインサロンのクオリティ。それは、この10年におけるビジネス書の変化と軌を一にするという。

「00年代後半~10年代前半にかけては、年収が伸び悩む中で勝間和代に代表されるような、ビジネススキルを伸ばすための本がヒットしていました。しかし、現実にはスキルを獲得しても賃金は上がらず、企業に使い潰されるだけ。そこで、10年代後半から現在にかけては、スキルの話から具体性のないマインドの話が流行するようになっていったんです」(久保内氏)

 この指摘を裏付けるかのように、20年2月に行った岡田との対談において、箕輪は「(箕輪編集室は)最初は、編集者になるという目的のために人が集まってきたけれども、今は“箕輪的なもの”を求める場所になっている」と語っていた。

「スキルを持たず、マインドのみしかないという状態は、精神論で社員を追い込む中小のブラック企業のようなもの。『営業は足だ!』と叫ぶ経営者には、マインドはあってもスキルはありません。現在『起業家マインド』といった言葉で語られている言葉の本質はそんな思考を肯定するものであり、被雇用者がブラックな思考に染まるための『奴隷のための道徳』でもあるんです」(同)

 岡田が予見した「評価経済」という次世代のシステムを追いかけたオンラインサロン。しかし皮肉なことに、その結果、ブラック企業が振りかざす精神論との親和性が年々高まりつつあるようだ。

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