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箕輪を“天才”にしたサロン文学

「オンラインサロン文学」の選民思想 “本を読めない”客を集めるシステムとは

オンラインサロンのチラシとしての書籍?

「オンラインサロン文学」の選民思想 本を読めない客を集めるシステムとはの画像2
『死ぬこと以外かすり傷』(マガジンハウス)

 こうした、オンラインサロンの隆盛に対して、これと歩みを共にする「サロン文学」はどのような役割を果たしているのだろうか?

 堀江貴文の『多動力』や西野亮廣の『革命のファンファーレ』をはじめ、多くのサロン文学が、箕輪の手によって幻冬舎の出版レーベルであるNPBから出版されてきた。

 毎月このレーベルから発行されるこれらの書籍は、一般書店で販売されるのみならず、NewsPicks(以下NP)が持つ5000円/月のオンラインコミュニティ「NPアカデミア」(会員数非公開)のメンバーに最新刊が送付される仕組みになっており、累計発行部数は150万部を記録している。

 では、そんなサロン文学の中身は? 箕輪は、自身の書籍『死ぬこと以外かすり傷』について、過去に「『箕輪編集室』のチラシのような存在」と発言しているが……。

「これらの本の読者層は、これまで『読みやすい』とされていたような、いわゆるビジネス書ですらも読むことを苦痛に感じる人たち。だから『こういう論理が新鮮だった』ではなく『1時間半で読み切れる』本が『いい本』と受け止められがちです。そうして、読者を気持ちよくさせることによって、オンラインサロンへ導入していく。まさに、サロンへの入会案内としての書籍ですよね」(同)

「サロン文学」の存在意義は、オンラインサロンへの加入を促すためのチラシにすぎない。では、なぜそのような本が大ヒットを記録するのか? その裏では、幻冬舎という出版社が果たしている役割も大きいという。

「箕輪氏の本は、著者同士の褒め合いを通じて疑似コミュニティを形成し、ファンを組織化することで、ネット書店ランキング上位を狙う。ここまでは一般的な書籍のプロモーションとは大きく変わりません
 大きく異なるのが書店での販売手法です。幻冬舎の中でも、代表の見城氏が手掛ける本は、とにかく部数を刷り、一気に書店に配本をかけていく。見城氏のお気に入りである箕輪氏の本は、このメソッドを大いに活用し、本屋に平積みのタワーを作り、ビジネス書の一角をジャックする。そうして、売れている本であることを演出して、『売れている本だから』という理由に引き寄せられた人々が購入していくんです」(同)

 そんな幻冬舎=見城メソッドによる営業も後押しし、大ヒットレーベルになっていたNPBだが、19年、NP側が幻冬舎との関係解消を申し入れた。この申し入れは、見城氏の逆鱗に触れたことによって立ち消えとなったが、これを機にNPパブリッシングという新たな出版社が設立され、この1年はNPBとNPパブリッシングが併存する状態が続いてきた。いったいなぜそのような状況に陥ったのか?

 出版系コンサルタントのA氏は、次のように語る。

「優れたビジネス書は、『この社会をどう変えるか』『仕組みをどう変えていくか』といった高い視座から書かれますが、NPBの本は社会システムの脆弱性を見つけ出し、いかにハックするかという下世話な内容が多い。NPはそのような下世話さを取り込むことによって、規模を拡大することに成功したんです。
 その優れた事例が落合陽一の『日本再興戦略』でしょう。アカデミックで難解な彼の話を箕輪氏が下世話な方向に誘導し、結果的にとてもいいバランスの本となった。しかしその後、田端信太郎の『ブランド人になれ!』や光本勇介の『実験思考』など、もともとアカデミックではないタイプの人をさらに下世話にするような本が増えていき、内部から批判の声も出ていたようです。
 そこで、NPでは幻冬舎と距離を置くためにNPパブリッシングを設立。より高い視座で教養を訴える方面へと舵を戻しています」

 NPパブリッシングでは、NP取締役の佐々木紀彦による『異質なモノをかけ合わせ、新たなビジネスを生み出す 編集思考』を皮切りに、Yahoo!の安宅和人による『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』などを刊行。マインドを語る平易な本から、より中身のある本作りへと移行しているのだ。

「箕輪氏の手掛ける本は、業界のしがらみにとらわれることなく、読者をアジテートして熱狂を生み出すことには成功しました。ただ、そこには過去を参照する姿勢や書籍という媒体に対するリスペクトはない。一時的な祭りでしかないんです。NPパブリッシングのラインナップからは、そんな箕輪的な手法からの決別が感じ取れます」(A氏)

 祭りが一段落し、NPからお役御免とされてしまったサロン文学。今、サロン文学は存続の危機に瀕しているようだ。

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