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夫婦仲が破綻するわけを読み解く、最悪の教本になる映画『ブルーバレンタイン』

文=稲田豊史(いなだ・とよし)

──サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が原作を務めるマンガ『ぼくたちの離婚』(集英社)が、3月18日に刊行される。これを記念して「月刊誌サイゾー」で連載中の「稲田豊史のオトメゴコロ乱読修行」から、「結婚・離婚」にまつわるテーマを選りすぐって無料公開します!

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『ブルーバレンタイン』

※本文中にはネタバレがあります。(サイゾー2017年7月号より転載)

 筆者が会社員だった10余年前、当時40代の取引先男性がこんなことを言っていた。「共働き夫婦が結婚して1~2年もたてば、仕事の愚痴以外に話すことも一緒に取り組むこともなくなるから、注意したほうがいいよ」。当時は彼のことを寂しい男だと密かに鼻で笑ったものだが、“夫婦ホラー映画”の傑作『ブルーバレンタイン』を観た後では、そうも言っていられなくなる。

 物語は、ペンキ塗りとして働くディーン(ライアン・ゴズリング)と看護師であるシンディ(ミシェル・ウィリアムズ)の夫婦仲が冷え切った挙げ句に破綻する現在と、2人が出会って愛が育まれる5年前の様子が、同時進行で描かれる。

 終盤、2人が修復不可能な衝突を経てボロ雑巾のようにクタクタになるシーンと、完璧な未来を手に入れた気になって幸せに浸る2人の結婚式のシーンが代わりばんこに描かれる残酷さったら、ない。夫婦仲がよろしくない男性諸氏もしくは離婚経験男性は、楽しくない深酒必至である。

 ただ、ディーンとシンディはごく普通の善良な市民だ。2人とも他人と愛を育めないような性格破綻者ではない。どちらかが浮気や借金や犯罪に手を染めたわけでも、人生に怠慢だったわけでも、重大なミスジャッジをしたわけでも、精神に患いが生じたわけでもない。

 つまり本作のどこがホラーかといえば、罪がないのに罰が下る点である。我々は映画を観終わってから何時間考えても、この夫婦が壊れた原因がわからない。わからないのに、「花はいつか枯れるもの」と同じレベルで「夫婦とは破綻するもの」と妙に納得してしまう。実に恐ろしい。

 だから、特に既婚男性が本作からせめて学ぶべきは、妻のふるまいにみる、2つの「離婚フラグ」に尽きる。夫婦関係の破綻が生まれつきの不治の病のごとく避けられぬ受難なら、できることは治療でも延命でもなく、覚悟しかない。いずれ訪れるXデーのため、やるべきは丹念な終活だ。

 離婚フラグその一。妻が貴殿を指して「かつてより輝いていない」という主旨の言葉を口にしはじめたら、黄信号だ。

 シンディはペンキ塗りのディーンに言う。「何かやりたいことはないの? あなたはいろいろ得意でしょ? その気になればなんでもできる。惜しいと思ったの。才能はあるのに。歌とか絵とか、それにダンス」。気を遣ってはいるが、要はディーンの現職に対する辛辣なダメ出しである。

 女性はいつ、どの瞬間も──風呂上がりの化粧水タイムや便器の上でさえ──「パートナーがもっとも自分を大切にしていた時、パートナーがもっとも輝いていた時」と現在とを、ミクロン単位で比べながら生きている。パートナーとの関係が経年劣化することを、男の比にならないほど気にかける。セックス頻度の減少やマンネリなデートに対して異常に厳しいのは、そのためだ。

 よって、男が過去に抱いた大志や披露した大言壮語は、一言一句覚えている。そして、「あの時、輝いていたあなた」と「今、輝きを失ったあなた」の差分があまりに大きいと、大志を叶えるべく努力していないと判定し、口に出して指摘するのだ。まるで、期初の業績目標が達成されていないとして経営陣を吊るし上げる大口株主のように。

 女性はどちらかといえば、夢を失ってくたびれた卑屈男より、実力が伴わない脳天気なビッグマウスを好む。少々の卑屈は「弱っているあなたもかわいい」で片付けてくれるが、度を越せば蔑視の対象でしかない。蔑視を言葉にして可視化するのは、貴殿が(結婚時点に比べて)許容されざる落ちぶれ方をしていると彼女が判定したからだ。株価回復の見込みがなければ、早いところ手放さなければ破産は必至。貴殿が不良資産化する前に「損切り」を検討している証拠である。

 離婚フラグその二。いつも愚痴や不満を夫にまくし立てる妻が、夫の不機嫌を義務感たっぷりに「いたわり」はじめたら、そろそろ赤信号だ。

 シンディは元カレに偶然会ったことをディーンに伝えた結果、激しく機嫌を損ねられる。見かねたシンディは「気を悪くしたらごめんなさい」とほとんど義務のように言い、ディーンの手に自分の手を重ねる。この状況、一見丸く収まっているように見えて、全く収まってはいない。シンディが自分を不本意に押し殺しているだけだからだ。

 夫婦は基本的に、「夫へ愚痴と不満を永遠に漏らす妻と、それを永遠に我慢する夫」という構図で安値安定している。悲しい話だが、妻の大爆発という株価暴落被害を防ぐ方法は、それしかない。

 ところが、夫の我慢キャパが限界に達し、子どもっぽい不機嫌を撒き散らすようになると、妻は夫の器の小ささに呆れはじめる。それが繰り返されれば、妻は夫の価値に見切りをつける。

 その後の妻の感情は「憐れみ」一色だ。彼女は自分の非を認めたわけでも、傷ついた夫を「いたわって」いるわけでもない。矮小な夫を憐れんでいるだけだ。 「憐れみ期」の妻の特徴は、夫に謝罪と怒りを交互に向けてくること。先のシンディもあやまった直後、夫の狭量に腹を立てた。

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