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「だいたい一番に飛ぶのは運転手か部屋住や」…Vシネや実話誌には描かれないヤクザの現実

写真はイメージ(gettyimagesより)

8月25日に令和ヤクザ解体新書  極道記者が忘れえぬ28人の証言(サイゾー)が発売される。著者は長年、ヤクザ取材をしてきた佐々木拓朗氏。個人としては初めとなる著作には、タイトル通り、組幹部から元組長や元ヒットマン、半グレや極妻まで、令和の時代を生きる現代ヤクザの実像が収められるというが、それはいったいどんな姿なのか。
そもそもヤクザのイメージといえば、映画やVシネで描かれる姿、または実話誌などの報道によって形づくられている面も大きいだろう。だが、佐々木氏は「ヤクザを取材していて一番おもしろい話は、実話誌などでは記事にできない部分」と語るのだ。そんな同氏が見てきた、忘れえぬ極道の実像の一端をここに寄稿してもらった。

出世するヤクザの登竜門「部屋住」はババを引くようなもの

 その昔、若手のヤクザが通る登竜門といえば、事務所に住み込み、そこでの仕事を通して、極道の作法から慣習までのイロハを叩き込まれるいわゆる「部屋住(へやずみ)」だった。親分ほか組幹部たちや他の組織の人間とも頻繁に顔を合わせる立場でもあるため、エリートコースというイメージがあったのだ。だが、そんな漠然とした認識と当のヤクザ側のそれとでは、実は大きくかけ離れているのだ。

  「(部屋住なんて)四六時中、身体をとられてまうねんど。挙げ句、給料なんてあらへん。タバコ銭程度や。それにパワハラが横行しとんねん。若いもんからしたら、ババやないか」

 現在、どこの組織でも組員が減少し、部屋住に入る組員を確保するのに苦労していると話す三次団体の若頭は、40代後半。若手組員の登竜門、いわばエリートコースといわれていた部屋住を、この若頭は「ババだ」と言い放った。    

 「確かに若いもんがヤクザ修行するのに、部屋住に入るいうのはもってこいの環境やろう。幹部ら連中にも顔を覚えてもらえるからな。ただな、昔から要領のええヤツは、部屋住を志願しようなんてせえへんねんで」

 部屋住に欠員ができ、補充されることになったとしても、要領の良い若手組員はうまく立ち回って、部屋住を回避してみせるというのである。

 「部屋住の何がババかといえば、まずな期限や。だいたい3年。短かったら2年、1年のコースがあるねんけど、これはトラップや。必ずしもハナから罠というわけやないんやけど、約束された期限を務め終えても、だいたい延長なってまうんや。ヤクザとはいえ遊びたい盛りの若いもんがな、ずっと事務所に泊まり込んで、ひたすら事務所の雑務をさせられんねんで。中にはあと何カ月の辛抱やって、踏ん張るのもいとる。けどな、ようやく期限を満了して、これで晴れて自由になれるて思った瞬間に、あと半年、1年て言われてみ。大概、絶望して飛んでまう(逃げてしまう)わな。実際に、そんな目に遭って飛んでしまう奴がほとんどや。なかなかあることではないけど、仮に、こいつを辞めさせたいと考えたとせいや。そんなことがあったら、一般社会よりも簡単や。部屋住か親方の運転手に入れて、簡単には上がれんというのがわかれば、ま、飛ぶわな。Vシネマなんか観て、ヤクザ世界に幻想を抱いて飛び込んできたヤツなんて、現実との違いに人間不信なってすぐにおらんようになるわ」

 それだけヤクザ修行が大変ということだろうが、部屋住と同様、組員が飛ぶ確率が高いポジションに運転手も君臨しているというのだ。

 「ワシは一応、カシラやっとるいうても三次団体の組員が5人ほどの小さい組織や。人がおらんで、おっさん(組長)の運転手をやらされることがあんねん。明日、おっさんの運転手かって思うとワシらでさえ、前の日から憂鬱なるくらいや。何せ、親方の運転に正解なんてあらへん。完全にそのときの機嫌や。機嫌が悪かったら、赤信号で止まっても後ろから怒鳴ってきよる。いかんかい!ていわれてな。内心、いけるかい!て思うわけど、口には出せんわな。今の若いもんにはもたんやろう。そう思わんか」

 思い当たる節が確かにあった。事務所などに取材に出かけると、取材対象者の組長に言われて運転手が最寄りの駅まで送ってくれたりすることがある。その際の組員の表情は、だいたい疲れきっているのである。

「もうオレ、これで飛ぶ……」

 と口にした組員にも会ったことがある。とてもじゃないがそんな裏側は実話誌での組長インタビュー記事では書けず、誌面には美辞麗句が躍るのだ。最後に「そして、組長の運転手は飛んでいってしまった」なんて書けば、こちらがただですまない。

「圧倒的に飛ぶ確率が高いのは、部屋住と運転手や。逆に言えば、それらがしっかり確保できとる組は、今後組織を維持できるわ。だいたい今は、部屋住がおらんようになって運転手がおらんようになったら、組織が崩壊していく原因に繋がっていくからな。それが現実や」

 抗争に負けて組織が衰退していく。当局に狙われて壊滅に追い込まれていく。これも現実として存在するだろう。だが、それ以外にも部屋住や運転手など、組員が次々に飛んでしまうことも組織の衰退への第一歩というのである。

 最後に、この若頭に質問を投げかけてみた。

 やはり若い頃は、ヤクザ修行のために部屋住を務めあげてきたのか?

「ワシはうまく立ち回った口や。もし部屋住に入れられてたら、途中でケツ割ってヤクザ辞めてたかもしれんな」

 冗談とも受けとれる声色で、はにかんでみせたのであった。

 こんな話は取材しても、決して実話誌では書けない。だが、ヤクザとて人間である。何気ない本音が、本当は一番共感を持てるし、惹かれてしまうのである。

(文=佐々木拓朗)

『令和ヤクザ解体新書 極道記者が忘れえぬ28人の証言』
佐々木拓朗/定価1400円+税/8月25日発売→amazonで予約受付中

 

佐々木拓朗(ライター)

アウトロー取材経験ありの元編集者のフリーライター。自身の経験や独自の取材人脈を生かした情報発信を得意とする。

ささきたくろう

最終更新:2021/08/16 21:32
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