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映画『草の響き』東出昌大が「信じたくても信じきれない」役にハマる理由

不安定で危うい東出昌大の「表情」の熱演

 主人公は、黙々と走り続けることで何とか心の平静を保とうとしている、もしくは「何かを見つけようと」していて、その姿はどこか狂気的でもある。それは、妻が「狂ったように走っているのよ」と冗談めかして話していることに対し、「狂わないように走っているんだよ。毎日続けることがどれだけ大変か……」と答えるシーンからでも伝わるだろう。

映画『草の響き』東出昌大が「信じたくても信じきれない」役にハマる理由の画像4
© 2021 HAKODATE CINEMA IRIS

 劇中の東出昌大は、いつも居心地が悪そうな、何かをきっかけに感情を爆発させてしまいそうな、本当に心を病んでいる、もしかしたら病みすぎて「死に引き寄せられているかも」とさえ思わせるほどに「危うい」役になっていた。前述したように、現実で社会的には許容できない不倫について報道され、その後にいつも病んでいるようにも見える東出昌大が、そのまま(もちろん不倫は擁護できないが)心の底から心配してしまう、同時に人として完全に信じることができない、不安定な役にハマりにハマっていたのだ。

 なお、東出昌大自身は「心を病んだ男がそれでも毎日走る理由は、きっと『良くなりたい』からだと思います。 そして『良い』とは何なのか。羽毛のように柔らかい函館の西陽を受けながら、皆で作った映画です。楽しみに待っていてください」と、本作についてコメントを寄せている。その「良い」とは何なのか、おそらく主人公はよくわかっていない、この映画を観ている観客もわからないからこそ、それを見つけ出そうとするドラマが真に迫るようになっていた。

 前述したように若者たちの物語の多くは「引きの画」で撮られており、その対比として終盤で東出昌大の顔をアップで捉えた、「表情」の演技に感動がある。その時に彼が何を考え、なぜ(原作とは異なる)ラストへと行き着くのか、その想像が膨らむことに「映画」という映像表現の面白さが凝縮されたようでもあった。

 ちなみに、菅原和博プロデューサーは、「若かりし頃の(原作者である)佐藤泰志さんの分身のような男が、函館の街を一人黙々と走る。そのイメージを考えた時に、東出昌大さん以外に思いつかなかった」と語っている。実際の映画を観ても、東出昌大以外のキャスティングはありえない、それほどまでのものだった。

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