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『家つい』東京で騙され失敗した男が50年ぶりに留萌へ帰郷「みんないなくなっちゃった」

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『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)

 12月1日放送『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)は、題して「激変人生大連発! 冬の3時間半SP」であった。

郷愁に背中を押されて帰った留萌の実家は見る影もなくなり、原野になっていた

 この番組は特番になると、過去放送分をまるで新作のようにしれっと流すときがある。そんなことをゴールデン帯でするのはテレビ東京くらいだ。正直、注文をつけたくなる構成ではあるが、だとしても今回は喰らった。ずっと見たいと思っていたVTRの再放送だったのだ。

 2018年9月、江戸川区の銭湯で番組スタッフが声をかけたのは68歳の男性。銭湯の利用は2日に1度だという彼は、家賃3万5千円の風呂なしアパートに住んでいる。

 家にお邪魔すると、本人が卑下するようにそこは“ボロアパート”だった。バツ1で、現在はスーパーに勤務する生活を送っているらしい。家にはコンビニ売りの廉価版コミックがたくさんあり、アダルト系のマンガやDVDの所有も多い。テーブルを見ると粗大ごみのシールが貼っており、拾いものということが窺えた。カレンダーは手書きの自作だ。忌憚なく言うと、いたたまれない。何しろ、この男性にはどこか上品さが漂っているのだ。なのに、なぜこんな暮らしぶりなのか? 不思議で仕方がない。

 北海道で生まれた彼は高校卒業後に農家である実家の仕事を3年間手伝うも、減反政策(生産過剰となった米の生産量を調整する政策)で両親が農家を引退したため、上京。日産自動車に入社し、そのまま20年間勤め上げたそうだ。時は高度成長時代である。深夜3時まで働き、朝8時に出社する“モーレツ社員”だった。まさに、「24時間働けますか?」の世界。入社2年後、彼はトップセールスマンの座に躍り出ていた。

 納得の経歴だ。明らかに、営業をやっていた人のしゃべり方なのだ。話が上手だし、筋も明確だし、物腰が柔らかい。今でも現役で営業職に就けそうなくらいだ。それがダメなら営業マンの講師でもいけそう。ただ、過去の栄光を語るその口が止まらない。社会との関わりが少ない寂しさの反動か? 現在は週5日のアルバイトで稼ぐ6万円と、ひと月に受け取る10万円の年金で生活しているという。トップセールスマンだったのに、どうして……。

「ちょうどバブルの頃に、『お前に儲けさせてやるからお金を俺に預けろ』と騙されたんです。家を抵当にしてお金を借りて、友だちに1,700万円を預けて。そこでバブルがはじけると、連絡が取れなくなっちゃったんです。それで家を処分して一家離散しちゃったんですよ。女房とも別れちゃったし、子どももいなくなっちゃったしね」

 こういう詐欺がバブル期には横行していた。当時の1,700万円だから相当な痛手だったはずである。見るからに人がいい彼は、友人に騙されて人生が狂った。そして今、こんな家に住んでいるのだ。つくづく老後の2,000万円は大事だと痛感するし、自分の老後が心配になる。

「やっぱり、昔に戻りたいとは思いますけどね」
――例えばですけど、昔に戻れるとしたらどこまで戻りたいですか?
「一番戻りたいのは、やっぱり農業です。歳を取るにしたがって『また田舎に住みたいな』って感じを持ってるんですね」

 男性の故郷は北海道の留萌。どこにあるのか、彼は地図を広げて教えてくれた。北海道の地図を大切に所有していたのだ。もはや、郷愁は沸点に達しているように見えるが……。

「でも、今は北海道の家もなくなっちゃってるので戻りたくても戻れないですしね。(留萌は)どうなっているのかわからないです。あとはもう、最終的なゴール(死)に向かって生きてるだけですよ。また北海道の大自然に戻って生活してみたいなあとかは思いますけどね。まあ、無理なんですけど(苦笑)。ハハハハ」

 死ぬためだけに生きていると口にし、寂しげな表情を浮かべた男性。後日、番組スタッフは彼のアパートを再訪。一緒に北海道へ行こうと提案した。

「そういうことでしたら非常に嬉しいです。行かせてください!」

 数日後、最寄り駅前で待ち合わせていると男性がやって来た。シャツのボタンを上まで閉め、下は黒のズボンという格好だ。学ランを着た昭和の学生みたいに見える。まさしく、あの頃へ戻ろうというのか。見ているこっちがワクワクしてきた。

 電車と飛行機を乗り継ぎ、遂に到着した留萌駅。駅の外へ歩を進めた男性は、そこで「ああ」と口にした。4つの路線が交差するターミナル駅なのに、駅前があまりにも閑散としているのだ。

「なんか(当時と)変わってる。この駅に来たのは何十年ぶりだから、風景がガラッと変わってますよ。もっと賑やかな感じでしたよね。本当に寂れちゃったって感じですね」

 駅前には人っ子一人歩いていない。かつては炭鉱があった留萌だが、閉鎖すればゴーストタウンになるのは道理。近代炭鉱だった長崎の軍艦島なんて、最終的には全島民が撤収した。

 駅を離れ、突き進むほどに過去との違いが顕著になる。あったはずの家や商店がなくなり、草っ原になっていくのだ。

「(家や店が)あるんじゃないかなあって期待して来たんだけど、ないですね……。こんな寂れちゃったんだ。みんないなくなっちゃったんだな」

 かつて通っていた小学校の場所に行くも、そこにもう校舎はなかった。残酷だが、過疎地に廃校は付きもの。男性は「う~ん」と言ったきり、言葉を失った。あったと思っていたものがなくなっている、確かに衝撃だ。

 そうだ、留萌には農家を継いだ学生時代の友人が住んでいたはず。彼に会いに行こう! 50年ぶりに友の家を探すと、その家はまだなくなっていなかった。それどころか、留萌から離れた男性のことを友人は覚えていてくれたのだ。かつて、彼はこんな少年だったらしい。

「大した勉強してると思わないんだけど、すごい頭良かったんだ。テストやったら必ず上位」

 久しぶりに会った友人は、ふくよかで裕福そうだった。下手に東京へ出ず、地元で地道に生活したほうがいい暮らしができているという現実。一方、東京に出たかつての頭脳明晰少年は今、貧困にあえいでいる。

 その後、男性はかつての実家を目指して歩を進めた。もはや、そこに道はなかったのに。ただのジャングル。長い期間誰も通らないと、道はこうなってしまうのだ。なのに、草木をかき分けて愚直に奥へ突き進む男性。周囲には笹しかなく、方向感覚がおかしくなりそうだ。所々にふんが落ちているし、熊のテリトリーに完全に入っていることがわかる。そんな原野の中、彼はいきなり「この辺が私の家があった場所です」と口にした。

「松がいっぱい生えてますよね? この松はうちの親父が農家を辞めるときに植えた木なんですよ」

 人が住まないと自然に帰る。そんな当たり前の事実も、こうして突きつけられるとキツい。『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)よりエグい現実があった。ところで、この男性のご両親はいつお亡くなりになったのか?

「知らないんですよ。葬儀にも行ってないんです」

 親のお葬式にも出ていない? 何があったというのか。こちらが戸惑っているのに、男性は歩みを一向に止めない。実家近くにあった丘や遊び場を見て回ろうとするのだ。しかし、笹が生えすぎている。もう、進めるのはここまでだ。

「思ってた状態と全然違いますね。こんだけひどいことになってるとは思いもよらなかったです。米の生産が続いていれば、私もここでずっと農家をやってたはずなんですよね。だけど、それができていないから完全に別の世界になっちゃったなあっていう。いやあ、ショックでしたね(苦笑)。現実を見ました」

 男性が目にしたのは、ハッピーエンドではないリアルだった。東京で失敗し、彼は反動で北海道を夢見て生きるようになった。いざ留萌へ戻ると、今度は浦島太郎が煙をかぶったように目を覚まされた。50年ぶりに故郷を目にし、胸のつかえは下りたのか? 夢に思い描いていたほうが幸せだったか?

 ところで、彼はどうして50年も故郷に戻らなかったのだろう。

「本当のことを言うと、私が(離婚前に)住んでいた家は親の援助を受けて買ったんですよね。人には騙されるし、家もなくしちゃうし、さんざん親不孝をかけて。だから北海道に帰れないんです、簡単に」

 いや、それでも親は迎えてくれたはずだ。何もなかったように図々しく帰れば、たぶんそれでよかった。でも、彼は自分を責めた。不器用すぎやしないだろうか。つらい。

「いろんなことがあったんですけど、これからどういう具合に生きていくかっていうことのほうが大事でしょ。昔は昔、今は今なんですよ」

 自分の中で折り合いをつけ、前へ進もうとしている。自分を客観的に捉えることもできている。だから、この男性の“その後”がとても気になった。でも、このVTRに関して追加取材は行われなかったようだ。今、彼はどうしているのだろう。

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