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ブルース・スプリングスティーン全作品権利売却の衝撃 ロックレジェンドの引き際

文=与良天悟(よら・てんご)

ブルース・スプリングスティーン全作品権利売却の衝撃 ロックレジェンドの引き際の画像1
ブルース・スプリングスティーン(写真/GettyImagesより)

 

 米ロック歌手のブルース・スプリングスティーンが、自身の全作品の権利をソニー・ミュージックに約5億ドル(約570億円)で売却したと発表された。2020年12月にはボブ・ディランが自身の楽曲の権利を3億ドル以上で売却しているが、今回のスプリングスティーンの金額はそれを上回り、単独のアーティストによる取引としては史上最大額になるとみられる。

「ディランよりも高いのかと驚くかもしれませんが、スプリングスティーンはディラン以上にヒット曲も多い。何よりも彼は半世紀近いキャリアを誇りながら、今でも現役バリバリの売れっ子アーティスト。アルバムもコンスタントにリリースしており、それが本国アメリカだけでなく、ヨーロッパ各国の音楽チャートで1位を記録しています。

 また、ライブツアーも頻繁に行っていて、御年72歳でありながら彼のステージは3~4時間もの長丁場であることで知られます。要は20代の頃と活動のペースも売れ方も全く変わらない。楽曲の権利が巨額で取引されるのは当然でしょう」(音楽ライター)

 この場合、楽曲の権利とはその楽曲が配信、販売、演奏されるのに応じて発生する著作権使用料を指す。いわゆる印税収入のことだ。これを売却するのは今後入ってくる印税収入を手放す代わりに、将来的に見込める収入を今、全額受け取るということだ。

 「スプリングスティーンやディランのようなロックレジェンドが自身の楽曲の権利を売却するのは、いってみれば“終活”のため。いかに彼らが歳に似合わぬ若々しさを保っているとはいえ、スプリングスティーンが70代、ディランに至っては80代です。長くはない残された人生を考えるなら、将来的な収入よりも今現金化したほうが合理的です。ただ、彼らはすでに億万長者でもあるので、金銭的な側面もさることながら、自分の死後もちゃんとした企業に楽曲をしっかり管理してもらいたいとの思いが強いのでしょう」(同)

 もっとも、自身の楽曲の権利を売却する動きは大御所アーティストだけではない。ビヨンセやレッド・ホット・チリ・ペッパーズといったまだまだ若いアーティストらも楽曲の権利を売却して話題を集めた。

 海外では近年、音楽著作権に特化した投資ファンドに権利を売却するアーティストが増えているのだという。彼らが印税収入という長期に渡って継続的に得られるはずの“不労所得”を諦めてまで、権利の現金化に走る理由はストリーミング市場の拡大にある。

「現在の音楽流通の主流はデジタルです。つまり、音楽がアルバム単位ではなく、1曲単位で流通するようになった。これではアーティストにとって収入の柱であったCD売り上げが見込めません。そうした先行き不安から、楽曲の権利を売るケースが増えているのです。どうなるかわからない将来的な収入よりも、今のうちに現金化してしまおうというわけです。もちろんストリーミングで稼げばいいという考え方もありますが、全ての楽曲が同じように稼げるわけではありません。しかし、一括して権利を売れば、稼げない曲も一緒に売ることができるというメリットもあります」(同)

 CDからストリーミングへという音楽の聴取環境の変化、そしていよいよ人生の終わりが近づいたロックレジェンドたち、音楽界も新たな時代にさしかかってきたといえるだろう。

与良天悟(よら・てんご)

与良天悟(よら・てんご)

1984年、千葉県出身のウェブメディア編集者。某カルチャー系メディアで音楽や演劇を中心にインタビューなどを担当するほか、フリーで地元千葉県の企業の記事なども請け負っている。

最終更新:2021/12/18 18:00

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