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『関ジャム』大滝詠一「君は天然色」は、なぜ天然色なのか。もう色を点けることができないあの子

『関ジャム』大滝詠一「君は天然色」は、なぜ天然色なのか。もう色を点けることができないあの子の画像1
大瀧詠一『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』

 8月1日放送『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)は、作詞家・松本隆の特集。いつもこの番組は面白いが、特に今回は“当たり回”の予感がする。

 それにしてもここ最近、松本の姿をよく見る。7月15日放送『NHK MUSIC SPECIAL』(NHK)では松本とKinKi Kidsが対談していた。さらに、この回の放送当日、同時間帯に『The Covers』(NHK BSプレミアム)も「大滝詠一&松本隆ヒットセレクション」を行い、そちらには松本本人が出演していた。7月14日には作詞活動50周年を記念する松本のトリビュートアルバムが発売されたばかりである。

 今回は、プロからの質問に松本が答えるという形で番組は進んでいった。スタジオに登場したのは、武部聡志、いしわたり淳治、川崎鷹也の3人だ。はっぴいえんどでドラムスと作詞を担当した松本と、SUPERCARでギターと作詞を担当したいしわたり。奇しくも、2人はバンド内での役割が似ている。

「赤いスイートピー」の歌詞を松本隆が超具体的に解説

 番組は松本の偉大な功績を振り返った。彼が作詞した曲はなんと2千曲以上! これらを全て手掛けてたなんて、ちょっと嘘みたいだ。しかも、活動期間は50年に手が届くほど長い。みんなの青春のどこかに必ず松本隆はいる。

 まずは、日本歌謡史に燦然と輝く大名曲「赤いスイートピー」について。実は同曲がリリースされた当時、赤のスイートピーは存在せず、曲のヒットを機に品種改良によって誕生したそうだ。色の描写を多用する松本らしいエピソードである。

 加えて、松本には具体的な数字の描写も多い。例を挙げると、「知りあった日から半年過ぎてもあなたって手も握らない」という歌詞だ。なんて、最高の表現なのか? 期待する女の子が相手のじれったさに怒るのではなく、だけど縮まらない関係性を進めてほしいと願っている。そのニュアンスを強調するのは「半年」というワードだ。これが1年だと脈無しに思えるかもしれない。半年というのがいい。

「当時、女子高生は乱れていてダメだみたいにメディアから叩かれていて、でも僕はほとんどの女子高生は昔と変わらずまじめな子が多いんじゃないかと思ってた。そういう思いで時代と逆行した『半年過ぎても手も握らない』純粋な女の子を書いてみたら大ヒットしたから、やっぱり僕の考えは正しかったんじゃないかな」(松本)

 慧眼だと思う。一部が目立ち騒ぎ立てられるが、若者の大部分を占めるのはいつの時代もまじめな子である。そして、「春色の汽車」というフレーズについて。春色って、何色なのか?

「春色は子どもの頃に記憶しているオレンジと緑の湘南電車で、それが海に続いているっていうイメージ。僕は江ノ電の鎌倉高校前から鎌倉駅の商店街を抜けて海が急に見えてくる景色が好きでした。その線路の脇に、もし赤いスイートピーが咲いていたら可愛いんじゃないかな、と想像して歌の舞台にしました」(松本)

ここまで説明してくれちゃうなんて凄い。「赤いスイートピー」の歌詞を松本隆本人が超具体的に解説している。はっきり言って、筆者は全然違う景色を想像していた。もっと地方の、それこそ高原で菜の花が咲き誇る田舎の風景を頭に描いていたのだ。湘南電車だったのか! 続いて、「煙草の匂いのシャツ」という歌詞について。

「70年代から80年代にかけて煙草を吸っている人が多くて、それでも煙草の匂いが染みついたシャツっていうのはそんなに良い匂いではないはずだよね。どっちかというと嫌な匂い。好きだった男性の象徴的な匂いが煙草の匂いだった、でも自分が一番嫌いな匂いも許せるような感じ、それが恋なんじゃないかな」(松本)

 20年くらい前まで、煙草の匂いをさせる男は一般的だった。事実、宇多田ヒカルが99年にリリースした「First Love」には「最後のキスはタバコのflavorがした」という一節がある。宇多田がこの歌詞を書いたのは16歳の頃だ。

「君は天然色」が天然色の理由

 川崎は、自身もカバーした大滝詠一「君は天然色」の歌詞について松本に質問した。彼がぶつけたのは「サビのフレーズがなぜ1~3番まで同じ?」という疑問だ。

「想い出はモノクローム 色を点けてくれ
 もう一度そばに来て はなやいで
 美しのColor Girl」

 1~3番まで、この3行のサビを1文字も変えず3度繰り返す構成が気になるらしい。川崎はこの曲をカバーする際、それぞれ違うニュアンスで歌唱するという。1番の「そばに来て」は少しかっこつけて嘆き、2番では手を伸ばして強く訴えるように、そして3番では心の底から叫ぶ。この問いに松本は「変える必要がなかったんじゃない? あまり意味はないです」と回答した。

 1~3番まで、ニュアンスを変える必要はない。これは松本が亡くなった妹さんを思って書いた歌詞である。幼少の頃から心臓が弱く、ずっと面倒を見ていた妹さんが80年に心臓発作で倒れた。そして、彼女は26歳で息を引き取った。松本はショックを受け、好きだったはずの渋谷の街が白黒に見えたという。

「想い出はモノクローム」
「色を点けてくれ」
「もう一度そばに来て」
「美しのColor Girl」

 もう色を点けることのできない妹を想って書いた詞だ。1~3番までフレーズが同じなのは、言葉に込めた気持ちが強かったから。

妹さんが亡くなったショックから松本はなかなか立ち直れなかった。同曲を収録する『A LONG VACATION』は、大滝の誕生日の1980年7月28日にリリースされる予定だった。勝負の1枚だったのだ。松本は「君は天然色」の歌詞を書き上げるまで3カ月かかった。大滝はずっとそれを待ち続け、予定より8カ月遅れの1981年3月21日にアルバムはリリースされる。2020年5月31日「神戸新聞」のインタビューで松本は語っている。

「そのときのことを書き残すことは、妹のためにも大事だと思った。つくりものじゃなく、正直に。僕にしかできないことだから」

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