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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.670

極上の韓国映画を思わせる犯罪ミステリー 佐藤二朗が二面性を見せる『さがす』

文=長野辰次(ながの・たつじ)

極上の韓国映画を思わせる犯罪ミステリー 佐藤二朗が二面性を見せる『さがす』の画像1
佐藤二朗主演作『さがす 』。韓国映画を思わせる猟奇的犯罪ミステリーとなっている

 映画の主人公は何かを探していることが多い。冒険ファンタジーの主人公は伝説の秘宝を求めて旅をし、恋愛映画の主人公は理想の恋人との出会いを求めてさすらうことになる。自分に欠けている何かを「さがす」ことが、物語を動かしていく原動力となる。片山慎三監督の商業デビュー作となる『さがす』は、蒸発した父親を探すひとりの少女の葛藤と内面的な成長を描いた珠玉のミステリー映画として注目したい。

 片山慎三は非常にクレバーな映画監督だ。1981年大阪府出身。自主映画『岬の兄妹』(19)は発達障害者の性と承認要求をテーマに描き、低予算ながら大きな反響を呼び、商業デビューのチャンスを見事につかんだ。『岬の兄妹』は自主映画ならではのエッジの効いた作品だったが、佐藤二朗を主演に迎えた『さがす』は、エッジの鋭さはそのままに、ミステリーというスタイルを用いることで幅広い層が楽しめるエンタメ作品に仕立てている。

 片山監督は、韓国映画界の巨匠ポン・ジュノ監督の『シェイキング東京』(08)や『母なる証明』(09)の助監督を務めたことでも知られている。山下敦弘監督の『苦役列車』(12)や『味園ユニバース』(15)などの助監督も務めた。助監督時代に吸収したことが、『さがす』にはうまく活かされている。ポン・ジュノ監督がもしも大阪を舞台にした犯罪ミステリーを撮ったら……。山下監督が社会派寄りのディープなサスペンスドラマを撮ったら……。そんな面白さも、『さがす』は感じさせる。

 生活感のある庶民の街・大阪が、犯罪の匂いが立ち込めるミステリアスな街として描かれている。大阪という街そのものが、スクリーンの中に怪しく息づく。リドリー・スコット監督の『ブラック・レイン』(89)を観たときのような、ゾクゾク感がスクリーンから漂ってくるではないか。犯罪映画は「街」がもうひとりの主人公でもある。

 物語の中心人物となるのは、大阪の下町で暮らす女子中学生の原田楓(伊東蒼)。母親を亡くし、父親の原田智(佐藤二朗)との侘しいふたり暮らしだ。智はかつて卓球場を経営していたが、今ではスーパーマーケットで万引きして捕まってしまうダメ親父である。そんな智が「指名手配中の連続殺人犯を見たんや。捕まえたら300万円もらえるで」という言葉を残して、突然姿を消してしまう。

 父親はどこへ行ったのか? 事件に巻き込まれてしまったのか? かくして中学生の楓は、行方が知れない父を探し始めることになる。経済格差が激しく渦巻き、セーフティネットはボロボロ状態の現代社会に、ひとりの少女探偵が誕生することになった。

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