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八重は「妻」となるのか「妾」となるのか? 『鎌倉殿』で三谷幸喜が描く女性たち

畠山重忠を驚かせた怪力の持ち主とされる巴御前

八重は「妻」となるのか「妾」となるのか? 『鎌倉殿』で三谷幸喜が描く女性たちの画像2
巴御前(秋元才加)|ドラマ公式サイトより

 正室・側室問題でいうと、第13回では、比企家の人々がわざとらしく義経たちに紹介した姫たちの中に「さと」(三浦透子さん)が混じっていました。史実では「郷御前」と呼ばれることが多い女性で、頼朝の乳母だった比企尼の孫娘にあたり、母親が比企尼の次女(河越尼)、父親が武将の河越重頼という血筋の持ち主です。

 郷御前は義経の正室となるのですが、史実では、比企家の“陰謀”ではなく、頼朝が直々に取り決めた義経の結婚相手だったようですね。しかし『鎌倉殿』では、義経の熱愛ぶりが目立ちました。義経が初対面の彼女から目を離せなくなるシーンや、すぐさま男女の関係になってしまうスピード展開には驚かされたものです。

 史実(『吾妻鏡』)では、義経と郷御前の関係についてうかがい知ることはほとんどできません。郷御前と源義経夫婦については、「姫の前」と北条義時のエピソードよりもさらに情報が少なく、郷御前は『吾妻鏡』には3回しか登場しません。義経の愛妾である静御前よりも、あまりに影の薄い正室なのでした。

 それゆえ、義経と郷御前こと「さと」の関係がドラマではどう進んでいくのかは予測不可能なのですが、史実の郷御前には、義経との間に男女二人の子を授かったという記録があります。『吾妻鏡』(文治三年二月十日条)によると、「(義経の)妻室男女を相具(あいぐ)して、皆姿を山臥ならびに児童等に仮ると云々」とあり、これは頼朝と敵対するようになった義経が、妻と男女二人の子どもを山伏や稚児の姿に仮装させて逃亡を企てたことを意味しています。また、郷御前は最終的に義経と共に奥州藤原氏のもとに落ち延びるものの、終わりを悟った義経と、娘と共に自害しています。

 義経の恋愛相手といえば、白拍子だった静御前の存在が有名ではありますが、彼が一緒に逃亡し、共に死ぬ相手として選んだのは正室の郷御前だったという点は非常に興味深く思われます。まぁ、このあたりの男女関係もドラマで巧みに演出されて描かれるでしょうから、楽しみですね。

 側室といえば、ドラマでは「亀の前」こと亀(江口のりこさん)が正室・北条政子を“叱る”シーンも話題となりました。特に、“恋多き女”として有名な和泉式部の歌を亀が引用してみせたシーンには苦笑してしまいました。「黒髪の 乱れも知らずうち臥せば まづかきやりし人ぞ恋しき」と亀が諳んじていた歌の意味は、「悩み苦しみ、うつ伏してしまっている私の長い黒髪を掻き上げてくれた、最初の男を思い出す」というようなものだからです。

 もともとは漁村の荒くれ漁師の女房で、「うちの人も討ち取って」などと言っていたのがドラマの亀です。自分と頼朝の“関係”をほのめかす時に使う歌にしては、ちょっと美化し過ぎと感じてしまいました。ただ、そういうところに「しょせんは、貴女にはわからないでしょうけど」という皮肉が込められていたのかもしれません。ドラマの政子は、亀から「御台所と呼ばれて恥ずかしくない女になんなさい。憧れの的なんだから、坂東中の女の」と逆に叱咤激励されてしまい、彼女の本意(?)には気づきもしない雰囲気でしたが……。

 そして今回、最後にお話したい女性キャラが、巴御前(秋元才加さん)です。美しさと怪力を兼ね備えた“女戦士”として有名な彼女ではありますが、実は『吾妻鏡』には一度も登場せず、『平家物語』など軍記物語(つまりフィクション)の中に名前と活躍が見られるだけです。ただ、『吾妻鏡』には巴御前とは別に、源氏軍を悩ませる平家方の“女戦士”として板額御前(はんがくごぜん)という女性が描かれており、実際に巴のような女性が木曽義仲の配下にいたところで不思議ではない気はしますね。

 『鎌倉殿』でも、巴御前は木曽義仲の“愛妾”となっているようですが、この設定は『平家物語』の異本である『源平盛衰記』にだけ登場するものです。ドラマの巴は、木曽義仲に一人の女性として恋をしているというより、一人の戦士として大将である木曽殿に惚れ込んでいるような描かれ方をしていました。確かに『鎌倉殿』の木曽義仲(青木崇高さん)は、自分を頼ってきた人間(=源行家)を裏切るようなことはできないと言うなど、頼朝以上に貴公子然とした立ち居振る舞いが目立ちました。

 また、美少年ぶりがネットで評判になった、義仲の息子・義高(市川染五郎さん)も礼儀正しく、頼朝と政子たちより、よほど洗練された印象を受けるように描かれているのが面白く感じた筆者です。

 先日最終回を迎えたアニメ『平家物語』(フジテレビ系)では“木曽の山猿”という伝統的なイメージに沿った木曽義仲像が描かれていましたが、義仲といえば、平家軍に“卑怯な”夜討ちを掛けたり、都で配下の武士たちに狼藉を働かせて平然としていたり、後白河法皇に失礼な仕打ちをしたり……という「史実」があります。『鎌倉殿』の貴公子めいた義仲でそれをどう描くつもりなのだろうか、と思わされました。

 お話を巴御前に戻すと、『平家物語』などに見る巴は、人間の首など素手でポロリと落としてしまう恐るべき女性なのですが、畠山重忠との争いだけは“互角”に終わったと言われています。

 ドラマの畠山重忠(中川大志)さんは線の細いインテリキャラですが、『平家物語』などでの畠山は、知力と怪力自慢を両立したマッチョキャラなのですね。その畠山と巴が争うなかで、彼女の鎧の端を畠山がつかんだ時、巴は鎧を引きちぎって逃亡したそうです。金属と布地でできた鎧を引きちぎる、巴のあまりのマッチョぶりにさすがの畠山も脱帽したのだとか。

 そういう巴の力強いイメージを表現するべく、『鎌倉殿』の巴は一本眉毛の化粧をしているのでしょうか。メキシコ現代絵画を代表する女性画家フリーダ・カーロを思い出してしまった筆者でした。おそらく、三谷さんの中では資料が残されていなければいないキャラほど、自由自在に描くことができてやりがいがあるのではないでしょうか。そういう意味で、男性陣より資料がさらに少ない女性たちのほうが『鎌倉殿』ではイキイキして見えるのかもしれません。

<過去記事はコチラ>

堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『La maquilleuse(ラ・マキユーズ)~ヴェルサイユの化粧師~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『隠されていた不都合な世界史』(三笠書房)。

Twitter:@horiehiroki

ほりえひろき

最終更新:2023/02/21 12:36
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