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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.682

山窩(サンカ)と呼ばれる漂泊民が日本にいた! 謎多き“山の民”との遭遇劇『山歌』

『牯嶺街少年殺人事件』を彷彿させる歴史の断層

山窩(サンカ)と呼ばれる漂泊民が日本にいた! 謎多き“山の民”との遭遇劇『山歌』の画像3
群馬県中之条町の山中で、2週間にわたるロケ撮影が行なわれた

 省三が着ている衣装は藤づるを糸にして織った「藤布の衣」を使い、川魚や蛇を処理する両刃の小刀「ウメガイ」は沖縄の工房に特注するなど、劇中の小道具や衣装のひとつひとつを笹谷監督は入念に選び出している。明確な資料が残っていないため、サンカの生活様式はかなり謎が多い。映画『山歌』は、作家たちが残した文献などをベースに、笹谷監督のサンカに対する畏敬の念を交えた世界観となっている。

笹谷監督「戦前に人気を呼んだ三角寛のサンカ小説は、サンカの存在を有名にした反面、サンカを犯罪者集団として描くなど、脚色された部分が多かったんです。賛否ある三角寛のサンカ小説ですが、サンカに対する一般的なイメージとして参考にしています。五木寛之さんの『風の王国』からの影響も受けています。もちろん、中島貞夫監督の『瀬降り物語』は観ています。自分が撮りたいテーマを、中島監督はずっと撮ってきた。『すいっちん』の上映の際に対談させていただいたこともあり、尊敬する監督です。でも、『山歌』の映画化が決まってからは、影響を受けすぎないよう『瀬降り物語』はあえて観返さないようにしました」

 サンカに対する憧れだけでなく、本作には、社会構造が大きく変動した日本社会の歴史の断層が描かれている点にも注目したい。物語の序盤、田舎の実家で暮らし始めた則夫は、古い机の引き出しから油紙に包まれた戦時中の拳銃を見つける。台湾映画『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(92)の主人公が、日本式家屋の天井から日本刀を見つけるシーンを彷彿させる。戦争と敗戦、そして高度経済成長によって、日本人の意識が大きく変容したことが伝わってくる。また、東京五輪後には近代化の波が地方にも及び、サンカなどの漂泊民を許容していた日本社会が多様性を失っていったことも分かる。

笹谷監督「敗戦だけでなく、その後の高度経済成長が日本人の精神面を変えてしまったとわたしは感じています。それまでの日本人は中世からの精神性をずっと受け継いでいたけれど、高度経済成長によって生活様式も思考性も完全に西洋化してしまったんじゃないでしょうか。『牯嶺街少年殺人事件』は意識していませんでしたが、確かに物語的には同じ構造になっていますね。3.11後に自然と生命との関係について考えるようになったことも、作品づくりに影響していると思います。かつての日本人には、今のわたしたちには見えないもの、聞こえないものを感じることができていたように思うんです。現代人が失ったものは何だったのかを描きたくて、『山歌』を撮ったのかもしれません」

 社会制度に縛られることなく、自然の摂理に従って生きる放浪の民がかつてこの国にはいた。日本人が近代化を進めた代償として失ってしまった目には見えない精神性を、映画『山歌』は具現化してみせた作品だと言えそうだ。

 

『山歌(サンカ)』
監督・脚本・プロデューサー/笹谷遼平
出演/杉田雷麟、小向なる、飯田基祐、蘭妖子、内田春菊、渋川清彦
配給/マジックアワー 4月22日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
©六字映画機構
sanka-film.com

最終更新:2022/05/17 15:40
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