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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.685

大杉漣さんが企画に参加していた犯罪サスペンス 追われし者が「跳ぶ」瞬間を描く『夜を走る』

罪を犯すことで、社会の檻から解放される主人公

大杉漣さんが企画に参加していた犯罪サスペンス 追われし者が「跳ぶ」瞬間を描く『夜を走る』の画像3
裏社会と通じるキム(松重豊)。企画当初は大杉漣さんが演じる予定だった

 映画の後半、真面目一辺倒の人生を送ってきた秋本は、弾けたように変わっていく。自己啓発セミナーか新興宗教団体か分からない怪しい組織「ニューライフデザイン研究所」を主宰する美濃俣(宇野祥平)と知り合い、フィリピンパブで働くジーナ(山本ロザ)に積極的にアプローチするようになる。破滅の道を突き進みながら、秋本は生きていることを実感する。実在の殺人事件を題材にした藤山直美主演映画『顔』(00)を彷彿させるものがある。罪を犯すことで、初めて社会の檻から解放されるという、どちらも逆説的な物語だ。

 秋本が豹変すると同時に、周囲も大きく変わっていく。それまで口先だけで生きてきたような谷口は、妻・美咲(菜葉菜)や娘の絢乃(磯村アメリ)との関係を見つめ直すことになる。秋本たちが勤めていた工場に、裏社会と通じるキム(松重豊)が現れ、秋本の天敵だった本郷やゴルフのことしか考えていない三宅社長(信太昌之)の日常も別世界に変わっていく。

 主人公の秋本を演じた足立智充は、俳優として充分なキャリアを持つが、作品世界に溶け込むあまり、これまであまり目立つことがなかった。本作ではしっかりとした演技力を見せ、疾走感のあるクライマックスでは意外なパフォーマンスを披露している。

 社長役の信太昌之や、カーラジオから流れる声を吹き込んでいる古舘寛治も、「ZACCO」の所属だった。また、大杉漣さんを劇団時代からずっと支えてきた妻・大杉弘美さんが、本作のエンドロールに「製作」、そして大杉漣さん、佐向監督との連名で「企画」としてクレジットされている。「新しい映画をつくりたい」。そう願っていた大杉漣さんの想いを知るスタッフやキャストが集まり、企画当初とは違った形の映画『夜を走る』は完成した。

 本作の舞台となった鉄屑工場は、今の日本映画界のようでもある。名バイプレイヤーとして親しまれた大杉漣さんを失い、寂しさを感じさせる映画界だが、熱い想いが回収され、いつか新しい映画として再生される日が訪れるかもしれない。『夜を走る』は、そんな予兆を感じさせる作品となっている。

 

『夜を走る』
監督・脚本/佐向大 企画/大杉漣、大杉弘美、佐向大
出演/足立智充、玉置玲央、菜葉菜、高橋努、玉井らん、坂巻有紗、山本ロザ、信太昌之、杉山ひこひこ、あらい汎、潟山セイキ、松永拓野、澤純子、磯村アメリ、川瀬陽太、宇野祥平、松重豊
配給/マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
5月13日(金)よりテアトル新宿、5月27日(金)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
©2021『夜を走る』製作委員会
mermaidfilms.co.jp/yoruwohashiru

最終更新:2022/05/17 15:39
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