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頼朝が京で争う「天狗」たち…後白河法皇よりも“くわせもの”だった丹後局

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

頼朝が京で争う「天狗」たち…後白河法皇よりも“くわせもの”だった丹後局の画像1
菅田将暉演じる源義経(ドラマ公式サイトより)

 第20回「帰ってきた義経」、そういう意味のタイトルだったのか……と、ラストシーンで涙する頼朝に筆者までもらい泣きしてしまいました。驚きと見どころの多い回でもありました。

 奥州藤原氏の治める平泉に戻ってきた義経(菅田将暉さん)は、意外にも畑仕事をこなし、「里」こと郷御前(三浦透子さん)との関係も安定しているように見えていました。しかし、義経が頼りにしている藤原秀衡(田中泯さん)が病で亡くなると、父のあとを継いだ国衡(平山祐介さん)と泰衡(山本浩司さん)があからさまに対立を見せ、平泉の空気は一気に不穏になっていきます。それにしても瀕死の秀衡のおぼつかない足の運び、崩れ落ちていく姿、さすが舞踊家・田中泯の本領発揮のすごい存在感でしたね。

 そんな中、鎌倉からの使者として北条義時(小栗旬さん)が平泉を訪れます。義時から伝え聞いた静御前(石橋静河さん)の悲劇に義経は心乱され、そんな彼の姿を見た里との関係もふたたび悪化してしまいました。畑仕事に精を出す義経の前でやさしい表情を珍しく見せていた後のことだったので、余計に物悲しく感じられたものです。『鎌倉殿』における義経と郷御前の夫婦は、出会った一瞬だけ燃え上がった関係として描かれてしまったようですね。義経が頼朝と仲たがいする原因のひとつになった京での襲撃事件も、実は自分が仕組んだものだったと告白してしまう里は一貫して「嫌な女」というキャラでしたが、筆者は彼女の正直さが嫌いではありません。激昂した義経に刀で刺されて絶命したのは哀れでなりませんでした。

 また、義時にそそのかされた藤原泰衡が義経を討ち取ろうと館に迫る場面では、建物内の義経を守ろうと武蔵坊弁慶(佳久創さん)が一人で敵の全軍と戦い、大量の矢を浴びて立ったまま最期を迎えた……という有名な「立往生」のシーンは直接再現されず、音声だけで表現されるという描かれ方でした。

 『吾妻鏡』にも義経の部下として「武蔵坊弁慶」の名は登場するものの、どんな人物かはもちろん、最期について触れられることはありません。「弁慶の立往生」は、室町時代に成立した軍記物語『義経記』で登場し、その後の創作物には頻出となった名場面なのですが、「壇ノ浦の戦い」での義経の「八艘飛び」などと同様に、多少でも触れておかないと視聴者にガッカリ感を残すような有名な逸話です。三谷幸喜さんも描き方に苦労したのかな、というのが伝わって面白かったですね。

 終盤の義経の姿からは、この世にはもう何の未練もないのだろうな、とも感じました。義経は、平泉を離れようとしていた義時を呼び戻し、弁慶に連れて来させながらも、「お前も道連れにしてやる!」などと言うことはありませんでした。私ならこうやって鎌倉を攻め落とすつもりだという作戦を義時に楽しそうに説明し、それをまとめた書状を彼に手渡すと、あっさり「もう行っていいぞ」と放免したのです。

 義経は「梶原景時。あの者ならきっとこの策の見事さをわかってくれるはずだ」とも語っていました。義時を生かして鎌倉に戻らせ、景時に作戦案を見せて驚かせることのほうに大きな意義を見いだしていたのです。後日、義経からの書状を手渡された景時(中村獅童さん)が、複雑な表情を見せていたのも印象的でした。『鎌倉殿』の義経は、景時が頼朝に対し、自分のことについて讒言していたとお見通しだったのでしょう。しかしその上で、自分の作戦の価値を理解してくれるのは彼だけだと信じて、書状を届けさせているのです。他人を貶め、それで権力者の寵愛をもぎとって生きざるをえない「凡人」を、はるか高みから見下ろし、笑っているかのような「天才」義経の描かれ方は、『アマデウス』のモーツァルトのようであり、それすらも超越しているようでもあり、強い印象を残しましたね。

 それゆえに「義経ロス」も大きいわけですが、第21回の次回予告を見ていると、八重が事件に巻き込まれるようなシーンもありましたし、北条家をはじめ、多くの新しいキャラクターが登場しているので、数々の新展開がありそうです。

 個人的に興味深かったのは、運慶(相島一之さん)が登場するということです。これは、次回(21回)のタイトル「仏の眼差し」に関係しているのでしょう。頼朝は、平家の武将が(故意ではなく偶然だったにせよ)燃やしてしまった東大寺の再建計画に協力することにかこつけ、大姫たちも連れて、一家で上洛(=京の都にいくこと)しているのです。

 運慶は東大寺・南大門の『金剛力士像』の制作者として有名ですし、三谷作品の常連の相島一之さんが運慶役で登場ということは、頼朝が後白河法皇の歓心を買うべく、対策に乗り出すさまが具体的に描かれるのであろうと予測します。……となると、頼朝一家の上洛の前にあったはずの奥州藤原氏の滅亡などは、けっこうあっさりとした描かれ方で終わりになるでしょうね。

 奥州藤原氏を滅ぼした後、国内に目立った敵が存在しなくなった頼朝は、その武力と財力を誇示しながら京の都に上り、朝廷の要職にある九条兼実などの公卿や、“朝廷のドン”である後白河法皇とその寵妃・丹後局)などの重鎮との政争を繰り広げます。(1/2 P2はこちら

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