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皇宮警察トップ「クソガキ」発言報道で考える皇室側のメディア戦略

「安全」なポップカルチャーに近づくだけで喜ぶ国民

――現天皇は「オタク第1世代」で、皇太子時代にはウルトラセブンと一緒に写真を撮るとか、平成期に美智子皇后が初音ミクと対面するとバズるといったことが本の中で改めて振り返られていましたが、読んでいて「チョロいな、国民」と感じましたね。

茂木 まったくその通りです。しかも、皇室は基本的に「お行儀のいいもの」しか選ばないんですね。ウルトラマンや初音ミク、くまモンといった社会的にある程度承認された「大丈夫」なものをつまんでいるだけです。にもかかわらず、高尚な文化を引き受ける主体だと思われていた天皇が特撮やアイドル、ゆるキャラなどの俗な文化に親炙しているというだけで、国民は自分たちが認められたと感じてしまう。皇室はネットユーザーの反応をよく勉強した上で振る舞っているとしか思えないですね。

――皇室が初音ミクと対面するとネットでネタにされるのに、国民が天皇誕生日に天皇をデコった写真をアップしたら炎上しましたよね。線引きがいまいちわからないな、と……。

茂木 国民が過剰に皇室に歩み寄っていくことと、向こうがこちらに寄ってくるのではベクトルが逆ですからね。国民側が暗黙のうちに存在している規範性を乗り越えると、皇室のあり方について「正義」のある人びとから攻撃対象になる。俗な振る舞いも皇室が自らやるからいいのであって、国民からやるのは違う、という線引きがどこかで成り立っているように思います。

 とはいえ、明仁天皇をデコって炎上した際にそのツイートの中で用いられていた「天皇誕生日おめでとう あんま絡みないけど」というフレーズが、翌年以降の誕生日にはネタとしてバズってトレンド入りするようになったように、その規範も一定ではありません。

――一度目は本気で叩かれていたのが、二度目以降はネタ化した。

茂木 それは現代のメディア状況の中で、そのゆるやかに消費されていくものとしての天皇を象徴している気がします。

――ポップカルチャーといえば、嵐が天皇即位の式典で歌った「Journey to Harmony」の歌詞には「君」という単語が多出していて、「君が代」などを典型として「君」は天皇を指す言葉でもあるという二重性を意識したパフォーマンスがされていた、との指摘は興味深く読みました。

茂木 そもそもこれまで天皇の即位式典では、いわゆる現代音楽の「アーティスト」の起用はありましたが、国民的な人気を博した人を召喚するという文脈で明確に「アイドル」が起用されたのは嵐が初で、そこには天皇の側との相互利用的な関係がありました。

 アイドルが「君」と歌えば普通はファンに向けられていると読むべきコードがあるけれども、それをずらすような形で嵐が歌い、雅子さまは涙を拭うように応答していました。

 一方でネットの中継では「嵐まだ?」というファンのコメントが流れ、また、天皇が即位の儀で語った言葉の中には水害、まさに“嵐”をテーマにしたものもあり、相互利用の枠組みが揺るがされる部分もありました。こうしたノイズも無視できません。

明仁上皇と同じく眞子さんは「弱さ」を提示したが……

――茂木さんは眞子さん、小室圭さんバッシングの過熱はどう見ていますか。

茂木 前提として、これまでも女性皇族はメディアから「叩いていい対象」とされてきた傾向があります。男性皇族はどなたであれ天皇になる可能性が多少なりともあるがためか、批判は不敬になりかねないと避けられてきた一方で、女性皇族は現行法上、天皇になることがありません。その不均衡が、例えば過去にも美智子さまや雅子さまへのバッシングを可能にしてきたともいえます。皇室についても、ある種の女性蔑視、ジェンダー化された語りの枠組みがある。今回の眞子さん叩きもこれに乗っかったものです。

 その上で、これもやはり社会に内在するジェンダー規範とかかわりますが、女性の力による男性の階層上昇がポジティブにとらえられていないということが加わった。小室さんに対して「逆玉」と形容されることもあるように、これまで皇室の女性と結婚する男性たちとは異質な存在、均衡が取れていない相手として、規範を破った存在だとみなされたのが小室さんでした。
 そして、さらにマスメディアとソーシャルメディアの相補関係が(限られた)人々の声を可視化し、ブーストした。

 こうした条件がそろったからこそ、これだけバッシングが激しくなった。従来は皇室批判の言説でしか使われてこなかった「私たちの税金を使うな」という言い回しが、小室さん騒動では皇室擁護の文脈で「正しい皇室を作るのは私たちだ」という意識の元で使われたことも印象的です。ラディカルな皇室批判は難しくなった一方で、皇室に対する個別具体的な気に入らないことはたやすく炎上するようになっている。

――眞子さんの振るまいとこれまでの皇室の振るまいでは、何が同じで何が違ったのでしょうか。

茂木 眞子さんは記者会見の直前にPTSDを発症したと発表されましたが、その文章はコロナ禍で苦しんでいる弱者への見舞いの言葉に始まり、心に傷を負っている人に対して優しい社会になるのを望むことを示して締めています。これは「弱者に向けた、弱者としての語り」によって人々に承認を求めてきた明仁上皇の戦略と重なっている。

 ただし、眞子さんたちの場合は現天皇や上皇と違って、感情レベルで人々に訴えかけることにやや失敗してしまい、届きづらかった面があるのかなと思います。もっと言えば、明仁上皇がしてきた弱さの提示が、国民の「我々が天皇・皇室を承認する側なのだ」という強者としての意識を増幅してしまい、結果、眞子さんや小室さん批判に転化してしまった部分もあるのではないでしょうか。

――令和の天皇・皇室像は、どうなっていくでしょうか。

茂木 大衆社会の成立以降、皇室は新しいメディアに対応し続けた運動体であり、これからもメディアの多様化に対応し続けようとするでしょうね。

 ただ、そういう常に人々に「見られている」環境の中で、雅子さまの適応障害、眞子さんのPTSD発症など、とりわけ女性皇族の心理的な負担が厳しいものになっています。生身の人間によって成り立っている制度として、もし持続していくとするなら、ここをカバーするあり方をいかに達成できるかは極めて重要です。

 世論調査では女性天皇容認が圧倒的に多い一方、政府与党の有識者会議では男系維持の論調ですが、しかし、いずれにしても本人たちの意思確認抜きに今に至っています。女性天皇でもOKとなったとしても、本人が「イヤです」と言ったらどうするのか。当事者である皇族の意思を無視し、人権制限を自明視した従来の議論の仕方は、今言った女性皇族が犠牲を強いられている構造と同根の問題です。

 それこそ時代に合わせて議論の視点、軸を変えたほうがいいのでは、と個人的には思うところです。

茂木謙之介(もてぎ・けんのすけ)

1985年、埼玉県生まれ。東北大学大学院文学研究科・文学部准教授。東北大学文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士前期2年の課程を修了。東京大学大学院総合文化研究科博士課程を修了。博士(学術)。足利大学工学部講師を経て、2019年から現職。専攻は日本近代文化史・表象文化論。著書に『表象としての皇族 メディアにみる地域社会の皇室像』(吉川弘文館)、『表象天皇制論講義 皇族・地域・メディア』(白澤社)。。

 

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最終更新:2022/06/22 18:38
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