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エビデンスの有無で証言を疑う「はい、論破」は正しいか? 信頼できる“科学的証拠”の歴史

文=飯田一史(いいだ・いちし)

エビデンスの有無で証言を疑う「はい、論破」は正しいか? 信頼できる科学的証拠の歴史の画像1
論破といえば、この人。YouTubeチャンネル「ひろゆき, hiroyuki」より。

 エビデンスという言葉が日本に普及して久しい。しかし、科学的な証拠として何が信頼にあたるものとして採用されてきたのかは、時代によって驚くほど移り変わっている。『エビデンスの社会学 証言の消滅と心理の現在』(青土社)を著した松村一志氏(成城大学文芸学部専任講師)に、法廷や心霊研究などとかかわりながら変化してきた「エビデンス」の歴史と、そこから昨今の陰謀論や「はい、論破」がどう位置づけられるのかについて訊いた。

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松村一志著『エビデンスの社会学 証言の消滅と心理の現在』(青土社)

「実験回数」より「信頼できる人の数」

――今では「法的証拠」と「科学的証拠」は別物ですが、近代科学の始まりである17世紀ヨーロッパのアカデミーでは裁判さながらに「証言」が重視されていたそうですね。

松村 16~17世紀までの科学では書物が重要性を持っていて、個人が実験や観察から得た知見が書物の記述と食い違っていた場合は「書物が正しい」とされるほどでした。そこから近代科学へと転換していくにあたって、実験や観察の結果も「証拠」なのだと認めさせるための方法論、論証の手続きが必要になりました。しかし、当時の科学は自前で「証拠」を扱う体系を発達させていなかった。そこで、先んじて発展していた法廷における証拠法の手続きを参考に「この実験報告は信頼できるか」といったことを論証しようとしました。ですから、例えば、名高い人物に実験を「目撃」させ、実験の「証人」になってもらうという裁判に似た手続きが用いられたわけです。

――17世紀までは科学においても「権威」で「社交」のルールが採り入れられていて、上下関係や社会的な地位が証言の正しさを測る上で重要だった、という議論が本で紹介されていましたよね。教育を受けていない肉体労働者と家柄のよい紳士だと後者のほうが信用される、と。

松村 「〇〇人の言うことは信じられない」というように、その人の社会的属性(国籍・性別・階級など)によって信頼に値するかどうか判断することは今も科学の外の社会ではよく見られますが、現在の科学コミュニティではそうした態度を公式な場からは排除しようとしています。「この科学者は十分な業績がないからダメ」と言うことはあっても、「この人はこういう属性だからダメ」と表立って言うことはまれでしょう。ただ、科学コミュニティでは「社会的属性」を度外視できる空間を成立させるために、学術的なトレーニングを用意し、メンバー相互が信頼できると思える状況を作るコストをかなり割いている。今の科学で「当たり前」とされているこうした空間は、簡単に成立したわけではありません。

――17世紀には実験の確からしさ、再現可能性を高めるために「数」を増やすことが大事だという今にも通じる考えがありながらも、「実験回数を増やす」ではなく「目撃者を増やす」という発想だったことにも驚きました。

松村 実験を繰り返すということ自体は17世紀にもありますが、当時は確率統計学が発展していなかった。そのため、「誤差」を評価するための手続きが未整備で、「何回実験したらいい」といった評価が困難でした。だから、「実験回数」よりも「信頼できる人の数」を増やしていたのだと考えられます。

あやしいものと共に発展した科学の研究

――19世紀に科学の証拠として「証言」が用いられなくなっていくにあたって、当時流行していた「心霊主義」に実は重要な議論があったとの指摘がありました。骨格や顔つきから性格を読み解く骨相学・観相学、病気の原因となる物質を使って病気を治そうとするホメオパシー、動物に磁気の流れがあると考える動物磁気説など、今から見れば「疑似科学」であるものも大流行していたけれども、「心霊現象」も潜在意識・電磁波・プロトプラズマといった当時の心理学・物理学・生理学における先端現象と似通っていて、著名な心理学者・物理学者・生理学者が研究に取り組んでいた、と。

松村 もちろん、骨相学や心霊研究などには同時代にも批判があり、あやしいと思われていました。とはいえ、心霊研究には、科学者だとウィリアム・クルックスやシャルル・ロベール・リシェ、哲学者ではウィリアム・ジェイムズやアンリ・ベルクソンといった著名人が関心を持っていましたから、意外な感じはありますよね。今でいえば、例えばノーベル賞受賞者たちが超能力研究をやっているようなものですから。

――風間賢二さん(幻想文学研究家・翻訳家)が著書『怪異猟奇ミステリー全史』の中で、コナン・ドイルが『シャーロック・ホームズ』で骨相学や観相学を「科学」として推論に用いていると書いていました。コナン・ドイルが後年、心霊研究にハマったのは有名な話ですが、『ホームズ』からつながっているんだな、と松村さんの本を読んで気づかされました。

松村 『バスカヴィル家の犬』の冒頭に、ホームズが頭蓋骨の形を博物館級の立派なものだと褒められるシーンがあります。そういうところには同時代的な知識が入っていますね。現在の視点では「誤った疑似科学の参照」ですが、果たして同時代の中でそう言い切っていいものだったのかは大事なポイントです。例えば、かつて科学が錬金術と深いかかわりを持っていたことはよく知られています。そういうあやしいものと接しながら、科学の研究手続きが発展してきたという歴史があります。

――確率論・統計学が導入されたこと、実験に用いて事実を測定するための指示・記録計器が導入されるようになったこと、「心霊現象に関しては証言が増えても信頼できるとは限らない」とされて裁判から来た手続きが退けられたことを重要な点として松村さんは整理されています。

松村 19世紀は心理学と統計学が発達していった時代です。筋肉の運動や脈拍が機械で測れるようになるなど、生理学・物理学・心理学では記録計器の発達がありました。それまでは、人間の「記憶」に基づく証言でしたが、機械では「記録」が残り、チェック可能になる。これが科学における「証言」の位置が変わっていくきっかけになりました。もっとも、記録装置が発達したらしたで、二重露光を使った心霊写真のようなトリックも出てくるのですが、「証言」頼みだった時代と比べると、人間が介入できる余地、欺くことができる余地は減ります。

 もともとは科学的証拠が法的証拠の手続きを借用していたのが、科学的証拠が発展していくことで「法廷に科学者を呼び出す」というふうに関係が変わっていきます。

――今では世間レベルでも「証言」より「記録」重視になっていますよね。

松村 「証言」の重要性が弱まっていることは間違いないでしょうね。「証言」しかなければそれに頼るほかないですが、スマホひとつで録音ができ、写真も動画も撮れるようになった今では、「そのときの写真ないの?」という話になっている。

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