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連載「クリティカル・クリティーク VOL.5」

新世代フィメールラッパー・7、苦しい環境へ怒りをぶちまけながらも楽園へ誘う

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7『7-11』(101)

 新たな才能だ。

 和歌山出身のラッパー・7(ナナ)のデビューEP『7-11』が、SNSの片隅で局地的に支持を得ている。そのリリックとラップに宿る突然変異のオリジナリティは、私たちが世の中に対しうっすらと感じながらも具現化しきれていなかった感情を形にしている。

 以前から〈BOyLE〉というMC名で活動していた7は、昨年末に「SEX」や「マリファナ」といった身も蓋もないタイトルのナンバーでプリクラ調のアートワークとともに〈今ここ〉の瞬間性を捉えた音楽をリリースしてきた。

 ついに届けられた今回のEPは、彼女の視線を通した風景の殺伐さと牧歌性が強烈なリアリティをまといながら強度あるヒップホップとして描かれている。おそらく、保守的なリスナーはここで描写されるリアルからは目を背けたがるだろう。

 あまりに剥き出しの身体性ゆえに、一笑に付されることもわかっている。しかし、本作が放つエグみのあるリアリティは、Homunculu$のトラップ~ドリル調の凶暴かつ享楽的なビート/プロデュースによって、平凡な日常を描きつつこの世の楽園まで私たちを強引に連れ去ってしまうような、ヒップホップ最前線の怪盤として成立している。

 冒頭「マリファナ」の1ヴァース目で披露される「Marijuana feel so good/When don’t you have weed 退屈」のラインから、すでに才能がほとばしっている。「good」に対し「退屈」の「ku」で韻を受けつつ、「tsu」で解放するセンス。ここに入るワードは「退屈」しかないに違いない。続いて踏まれるライムも素晴らしく、「g砕いて」「煙で」「勝ち取って」「money」「忘れて」「種」という脚韻は、それだけでストーリーが伝わる端的な並び。さらに「開花」「どきな」「扉」「Marijuana」「気にしな」と踏んだ韻を「7」で受けつつ字余りで「Land」を強調するテクニックに惚れ惚れする。そう、本作は「7Land」について歌っているのだ。7が耕すLand=土地に実っている植物は、当然ながらマリファナである。

 本EPにおいて特筆すべき点は、投げやりな態度に限りなく接近するような動物的なフロウ、それらを包括したラップスタイルの多彩さであろう。歌とラップの境界線が溶け、両者の融解をもはや前提としつつハイパーポップやボカロ的手法で歪曲・編集していくか、あるいは極端にスポーティな剥き出しの運動神経で動物化を遂げていくかという〈ポスト-ラップ時代〉に突入している今、7は後者の手法に賭けている。「マリファナ」で聴かせる爽やかさすら感じるオーソドックスなラップスタイルを起点にしながら展開される、とめどないフロウの挑戦。「tapple」や「Bunny Girl Senpai」「7色の小さな世界」「罰ゲーム」といった曲ではより粘っこいスタイルに傾き、さらには「畜生」や「SEVEN ELEVEN-freestyle」では活舌を忘れてしまったかのようなエクストリームなラップを聴かせる。

 もちろん、そのフロウはただのひけらかしに堕しない。例えば、「畜生」では「人生の失敗者のお説教はもういい/喫煙の場所もっと増やして欲しい/税金だけアホみたいに吸われてばっか/政治家さん一体何活動してるの」と繰り出し、「今は可愛いより可哀想が流行ってる」と生々しいリリックでつなげる。7は終始、それらを幼児化した不満気な調子でラップしていくのだ。

「SEVEN ELEVEN-freestyle」はさらにリアリティが爆発する。自宅や和歌山市ぶらくり丁商店街でのマリファナを巡る日常とともに描写されるのは、「飯がうまいJapan」と言いつつも「田舎のコンビニ弁当飽きたわ」「囲う食卓に足りてない愛情」「セブンイレブン食った次の日悲し気分」という悲壮感漂う風景である。「そこら辺の餓鬼より7しかDirty」と言う彼女は、視界に見えるセブンイレブンに自らの名前「7」を重ねたうえで動物化したフロウで噛みつきまくるのである。

 そこには、とにかく「お金がない」とまくしたてる若者が荒廃した資本主義の中で最後に悪あがく、やけくそのヒップホップがある。

 パンデミック以降、いよいよ破綻したこの国の社会システムの中で、ユース層のヒップホップは飢餓感を露わにし虚無感を匂わせるラップを聴かせてきた。「全部くだらねえ/マジで全部がストレスでしかねぇ/集団感染させるパンデミック」と絶叫したGranzotto Krisの「Rage」(アルバム『BAD MIND』収録)や、「頼りにならない政治屋/緊急事態宣言無視や/愛の歌詞は英語でしか歌わないんや/グッバイジャパン/グッバイトーキョー」と歌ったSaiの「スミノフ」(アルバム『瑞典春氷』収録)といった作品から漂う死の香りは、間違いなく7の『7-11』とも通底している。

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