日刊サイゾー トップ > エンタメ > ドラマ  > 阿部サダヲの冴えわたる“狂気”

阿部サダヲの冴えわたる“狂気”と、謎が謎を呼ぶ『空白を満たしなさい』

文=東海林かな(しょうじ・かな)

阿部サダヲの冴えわたる“狂気”と、謎が謎を呼ぶ『空白を満たしなさい』の画像
ドラマ公式ブログより

 阿部サダヲの怪演に注目が集まるNHK総合の土曜ドラマ『空白を満たしなさい』。その第2話が7月2日に放送された(7月9日は放送休止)。阿部演じる警備員の佐伯は、第1話でその異常な言動が強調されていたが、今回は異常な中にも冷徹に人の心を追い詰め、誘導していく恐ろしさが描かれた。

 このドラマは、2011年から2012年に『モーニング』(講談社)で連載されていた平野啓一郎による同名の長編小説を原作とした作品で、死んだはずの人間が生き返る「復生者」のニュースが世間を騒がせる中、3年前に亡くなった主人公・土屋徹生(柄本佑)が復活し、死の直前の記憶を失っている土屋は自分が自殺したとされていることに違和感を覚え、身に覚えのない自らの死の真相を探っていくというストーリーとなっている。

 「復生者」として生き返った徹生は、生前、佐伯に執拗に“嫌がらせ”を受けていたことを思い出し、佐伯に殺されたと疑い始める。一方で、徹生の妻・千佳(鈴木杏)は、徹生が自分は殺されたと考え、佐伯を探そうとしていることに対し、「このままでもいいんじゃない?」「このままじゃダメなの?」と問いかけ、佐伯を探さないよう約束させる。

 ある日、徹生の誕生日パーティが自宅で開かれることに。友人の秋吉(萩原聖人)らが集まり、少しずつ日常を取り戻しつつあるように思われたが、幼少期に父親を亡くした徹生は、息子のためにも父親よりも長生きすると心に決めていたことを明かし、「自分で死ぬなんて、絶対にありえないんです!」と、周囲から自殺と決めつけられている状況への本音をこぼす。すると、徹生が自分が殺されたと考え、佐伯を探そうとしていることに秋吉が異議を唱え、パーティの空気は一変。徹生が千佳に内緒で佐伯の居場所を探っていたことがバレてしまった上に、「佐伯が千佳ちゃんに何したか知ってんだろ!」という発言が飛び出し、空気が凍りつく。

 お開きになった後、千佳は重い口を開き、実は徹生の死後、佐伯が接触してきたことを明かした。なぜ徹生が死んだのか、その理由をわずかでも知りたいと思った千佳は、徹生の葬式に出席した佐伯に電話をしてしまったのだ。近所のファミレスで会った佐伯から、徹生が同僚に悪質な噂を流されて会社で孤立していたことや、左遷されていたことなど、“妻の知らなかった会社での徹生”を知らされる千佳。さらに佐伯は、徹生から「何かと相談されてた」などと吹聴したうえで、「家庭を持って、そのために頑張ることが幸せだと思い込んで、固執していたんです。それがとんでもない重荷だったんですよ」と吹き込む。そして「本当に何も知らないんですねぇ」「あなた平気だったんですか? そばにいて何とも思わなかった?」などと千佳を責め立て、精神的に追い込んでいく。

 事実の中に嘘を織り交ぜ、言葉巧みに千佳の心理を誘導していく佐伯の姿には、筆者も身震いしてしまった。真偽を判断しかねる千佳からすれば、“夫が信頼していた(かもしれない)男”というイメージを佐伯に持ってしまっても不思議ではないだろう。会社で孤立していたこと、異動が実は左遷だったこと。千佳の知らなかった事実を突きつけたうえで、徹生は何もかもが嫌になって死んだのだと結論づけ、さらにはそれを見過ごした千佳に責任があるというふうに誘導していく、佐伯の冷徹さ、狡猾さには身の毛がよだつ。

 千佳は佐伯を遠ざけようとするが、佐伯は徹生の墓の前で待ち伏せる。「私は今でも何でも夫に相談します」「私には夫の声が聞こえるんです」と言って佐伯の余計な提案をつっぱねる千佳。しかし佐伯は、「あなた、旦那さんが死ぬ前に、どれくらい話し合っていたんですか? どうなんです? あなたには何も言わなかったでしょう? 何も話し合えずに勝手に死なれたんですね? あなたに黙って。あなたと、こんな小さい赤ちゃんを置いて」と、千佳が反論できない言葉を次々とぶつけている。さらに、徹生の死についても「念願の自殺ができたんだから幸せです」「彼は全ての重荷から解放されたんですよ!」と訴えかけ、千佳を責めているわけではないと口では言いながら、暗に千佳たちが徹生の悩みの原因だったとほのめかすのだった。

 千佳は当時のことを「分からなくなってた……。その代わりにだんだん、佐伯の声ばっかりが何度も何度も頭の中に聞こえてきて……」と遠い目で振り返る。佐伯の言葉はしっかりと千佳の心を捉えていた。人が言われたくないことを的確に射抜いて精神的に追い詰めていく佐伯の姿に、「佐伯の言っていることこそが正しいのではないかと思わせてくる引力が怖い」「佐伯がいつも嫌なとこ突いてえぐってくる。喋りかけてくるだけなのにすごい嫌悪感!」「観てるこっちもメンタル削られた」など、多くの視聴者も恐れおののいていたようだ。

 しかしこのドラマは、佐伯に限らず、多くの登場人物に違和感があるのも特徴と言える。徹生が死の真相に近づくことを恐れているかのような千佳をはじめ、徹生の周囲にいる秋吉や権田(うじきつよし)、さらには徹生の母・土屋恵子(風吹ジュン)なども、どこか私たち現実世界の感覚とはズレているように感じられた。それは、復生者という存在が世間を騒がしている混迷の時代だからなのだろうか。徹生が再就職のため受けた面接でも、徹生が復生者であることを知った面接官があからさまに態度を変えたり、テレビで「復生者の特権を許すな」とする排斥運動が報道されていたりと、復生者に対する世間の風当たりの強さも明らかとなってきた。視聴者からすると「復生者とは一体何者なのか?」と疑問が膨らむ描写が多々見られるのは、「復生者」という要素に、ドラマではまだ描かれていない重要な事実があるからだろうか……。

 7月16日放送の第3話の予告動画では、生前の記憶を持つ復生者・木下(藤森慎吾)が登場する。復生者は死ぬ少し前からの記憶を失っているケースが多いというだけに、木下は稀な存在のようだ。はたして木下は何を語るのか。徹生はなぜ死に、なぜ生き返ったのか、佐伯は何者なのか、そして復生者とはそもそも何なのか……謎が謎を呼ぶ『空白を満たしなさい』だが、第3話では復生者の詳細が明らかになるのかもしれない。

■番組情報
土曜ドラマ『空白を満たしなさい
NHK総合 毎週土曜22時~ / 再放送:翌週火曜25:15~ / 配信:NHKプラス
出演:柄本佑、鈴木杏、萩原聖人、渡辺いっけい、うじきつよし、藤森慎吾、ブレーク・クロフォード、田村たがめ、斉藤拓弥/風吹ジュン、阿部サダヲ、井之脇海、本田博太郎、野間口徹、木野花、国広富之、滝藤賢一 ほか
原作:平野啓一郎『空白を満たしなさい』(講談社)
脚本:高田亮
音楽:清水靖晃
制作統括:勝田夏子(NHKエンタープライズ)、落合将(NHK)
演出:柴田岳志(NHKエンタープライズ)、黛りんたろう
公式サイト:https://www.nhk.jp/p/ts/P89L596WL7/

東海林かな(しょうじ・かな)

東海林かな(しょうじ・かな)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

最終更新:2022/07/16 12:00

阿部サダヲの冴えわたる“狂気”と、謎が謎を呼ぶ『空白を満たしなさい』のページです。日刊サイゾー芸能最新情報のほか、ジャニーズ/AKB48/アイドル/タレント/お笑い芸人のゴシップや芸能界の裏話・噂をお届けします。その他スポーツニュース、サブカルチャーネタ、連載コラムドラマレビューインタビュー中韓など社会系の話題も充実。芸能人のニュースまとめなら日刊サイゾーへ!

ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ

アイドル・お笑い・ドラマ…ディープなエンタメニュースなら日刊サイゾー

  • facebook
  • twitter
  • feed
イチオシ企画

女優・宮下かな子が送るサブスクエッセイ

宮下かな子さんがサブスクで観た作品を元に、俳優の日常を綴るエッセイ連載
写真
特集

夏枯れ? 豊作? 夏ドラマをチェック!

『石子と羽男』『競争の番人』『オールドルーキー』etc…夏ドラマをチェック
写真
人気連載

“事務化したテロ”の時代

今週の注目記事・第1位「『統一教会』と『政治...…
写真
インタビュー

あらびき団に出ているだけでは売れない……

『HITOSHI MATSUMOTO Pre...…
写真