『鎌倉殿』はどう描く? 正室の子を差し置いて嫡男になった北条泰時の謎多き改名

文=堀江宏樹(ほりえ・ひろき)

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

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北条義時(小栗旬)、泰時(坂口健太郎)、源頼家(金子大地)|ドラマ公式サイトより

 『鎌倉殿の13人』第28回は、思わず固唾をのんで見入ってしまうシーンが多かったですね。史実でも梶原景時を弾劾する連判状には、なぜか北条時政の名前がないのですが、その理由を「彼の妻(りく)が切り取ったから」とする三谷さんの推理は斬新かつ説得力がありました。

 「名刀の主」というタイトルも意味深でした。景時が哀れでしたね。前回のコラムを書いた時点では、「景時は鎌倉方に愛想を尽かしたから、京都でもう一花咲かせるつもりだったのかな」程度にしか考えていませんでしたが、ドラマで描かれた景時には深く同情してしまいました。

 ドラマの景時(中村獅童さん)は二代鎌倉殿の頼家(金子大地さん)に尽くしてきたもの、臣下の妻と密通するなど、加速度的にダメ人間になっていく頼家を持て余すようになっていたようです。名実ともに自分にふさわしい主を求め、京都の後鳥羽上皇(尾上松也さん)を頼ろうと考えてもおかしくはないでしょう。

 景時を演じる中村獅童さんは、ドラマ公式サイトのインタビューの中で「唯一、景時の人間としての優しい部分が見える瞬間は、(北条)義時と話しているときなのかなと思っています」と語っていましたが、景時にとって人間らしい感情を見せられる相手は義時だけだったとも言い換えられます。

 景時が、宣言どおりに頼家から指定された東北の流罪地(奥州外ヶ浜)に向かうのではなく、京都に行くはずだと見抜いた義時(小栗旬さん)もさすがでした。去りゆく景時は義時に善児(梶原善さん)を託しましたが、これは幕府を守るため、景時が裏でこなしてきた汚れ仕事を義時が一手に引き受けざるをえなくなるという暗示かもしれませんね。

文武両道の誠実な人物だった泰時

 次回予告によると、次の第29回は北条頼時(坂口健太郎さん)が「泰時」へと名を改めることになるようです。今回は、義時のそばで存在感を増してきている彼の史実における前半生についてお話ししようと思います。

 教科書的には、武家のための法律集である「御成敗式目」の制定者として、そして「承久の乱」において鎌倉方の総大将という大任を務め、後鳥羽上皇らによる倒幕軍を撃退した軍人として、泰時の名は記憶されることが多いと思われます。

 古い史料の中での泰時は、彼の父・義時のように清濁併せ呑むタイプの政治家だったわけではなく、文武両道の誠実な人物として知られていたようですね。

 『増鏡』によれば、承久の乱の際、泰時は父・義時の命を受け、軍を率いて鎌倉をいったん出発したものの、翌日、単独で引き返してきて、義時と対面するやいなや「かたじけなく鳳輦(ほうれん)を先立てて御旗をあげられ(略)その時の進退はいかが侍るべからん」などと質問したそうです。「鳳輦」とは、公的な外出時に天皇が乗った輿の一種です。正確にいうと上皇用の輿はまた別にあるのですが、それはともかく、泰時が義時に尋ねているのは、皇族が戦場に文字通り担ぎ出されていると思しき場合、どう対応したらよいかということでした。当時の京都の朝廷では後鳥羽上皇を筆頭に、土御門(つちみかど)、順徳という3人の上皇と、仲恭天皇が反鎌倉勢力の中心となっていました。

 この時、泰時は39歳です。四十路を前にしてもなお、彼が父親の意向に服従しようとしていると見える場面で、謙虚どころか優柔不断な印象を与える気もします。まぁ、軍の総大将一人が鎌倉に駆け戻ってくるなど、本当にあったかには疑問が残るシーンではあるのですが、史実の泰時が、ドラマで彼を演じている坂口健太郎さんのような佇まいの人物だったのならば、この逸話の信憑性も増しそうな気がします。

 息子に尋ねられた義時は、もし対戦相手の中に鳳輦、つまり皇族がいると考えられる輿が見つかった場合、「兜をぬぎ、弓の弦(つる)を切りて、ひとへにかしこまりを申して、身をまかせ奉るべし」……兜を脱いで、弓の弦を断ち切ってしまうことで、戦意がないことを相手方に伝え、完全降伏しなさいと泰時に教えました。

 もっとも、これは上皇たちが直接出向いてくるようなことはないと推定した義時の“戦略”だったようですね。「さはあらで、君は都におはしましながら、軍兵を賜はせば、命を捨てて千人が一人になるまでも戦ふべし」……もし皇族方が出陣していない状態であれば、決死の覚悟で自分が最後の一人になるまで戦い抜け!と諭していますから。これが義時の本音でしょう。

 当時の日本人にとって皇族は神のような存在です。彼らに自分たちの生存を危うくさせるような行いをされたからといって、それに真正面から歯向かうことには大きな心理的な抵抗があったはずです。特に泰時にはそういう傾向が強くありました。しかしこの『増鏡』の逸話からは、泰時にとって、皇族以上に、父の義時が神にも等しい存在だったのではないかということもうかがえる気がします。義時が喋り終えるよりも前に泰時はその場を飛び出し、軍とふたたび合流したそうですから……。(1/2 P2はこちら

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