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『チャンスの時間』は、文字通りにチャンスの時間だった

アンジャッシュ渡部建の復帰番組をじっくり味わう お笑いファンとの距離を縮めた新境地

今年のバラエティ界の名シーンの1つに挙がる「6Pチーズ」

 今回、渡部は右椎骨動脈解離の療養から復帰したノブへのプレゼントとして、“自然派ワイン”を持ってきてくれた。

ノブ 「ワインのときって、食べるやつは何が合うんですか?」

渡部 「まあ、チーズとか。コンビニとかで売ってる6Pチーズとかでもおいしいですし」

ノブ 「6P?」

渡部 「(笑)」

ノブ 「お前……。お前が絶対、言ったらあかんチーズや」

渡部 「絶対、言っちゃダメです。本当、ごめんなさい。二度と食べません、すいません!」

 せっかくの記念すべき復帰回なのに家族に見せられない流れとなり、地雷を踏んでいる渡部。しかも、その地雷は自分で設置したというドツボだ。庶民派の感じを出そうとして「6Pチーズ」と口にし、千鳥の罠にはまった渡部に笑う。「6P」というワードに反応する、千鳥の中学生レベルの言葉狩りも見事だ。

 しかもこのくだり、どこかアンジャッシュのすれ違いコントっぽくもあった。6Pチーズのことを考えている渡部と、悶々と変なことを妄想している児島……的なすれ違いというか。

 ちなみに、6Pチーズの正しい呼称は「ろくぴーちーず」ではなく「ろっぴーちーず」である。渡部はツッコまれるためにわざと「ろくぴーちーず」と言ったのか? ともよぎったが、吹き出した彼のリアクションを見るにつけ、そういうわけではなかったようだ。

 渡部が吹いたこの瞬間を、筆者は繰り返して何度も見た。「自分はまだ、テレビで調子に乗ってはいけない」と笑わないでいたのに、最も笑っちゃいけない「6P」で覚悟が崩壊してしまった破綻。ずっとショボン顔だった彼の本気の笑顔を、このとき久しぶりに見た気がしたのだ。

 さらに笑った直後、「このくだりで自分が笑ってしまうのはマズイだろう」と葛藤が見え隠れするのもよかった。「お前が絶対言ったらあかんチーズや!」というノブからの詰めも謎だが、渡部の「二度と食べません!」という反省も冷静に考えると謎すぎる。「言ったらあかんチーズ」というカテゴライズが新概念だし、誰が6Pチーズを食べたって自由だろう。グルメで売れたタレントが、市販のチーズを「二度と食べない」と大声で約束するのも不穏である。

 6Pチーズで爆笑するという経験は、少なくとも筆者にとっては初めてだった。2022年のバラエティ界における名シーンの1つに数えられると思う。すごい破壊力だ。ただ、ここまで渡部をイジれる番組は『チャンスの時間』以外、他にあるだろうか?

渡部にとって、まさしく「チャンスの時間」だった

 今回の特番がなぜ面白かったかというと、千鳥が渡部に気を遣わなかったからである。以前、同じ相談企画でTKO・木下隆行もこの番組に出演しているが、開き直りきれない態度がガソリンとして作用し、結果的に今回の渡部回のほうが跳ねていたと思う。それでいて、悲壮感より面白さが上回ったのだから文句のつけようがない。

 そもそも、なぜ渡部が千鳥に詰められなきゃいけないのかもわからないし、最初から破綻しているその構造も含め、バカバカしくて面白かった。付け加えると、ノブと大悟が悪く映ることで、渡部がちょっと許されそうな雰囲気になったのも興味深かった。

 まさに、これが「チャンスの時間」だ。文字通り、渡部にチャンスを与えている。ABEMAのようなネット局が普及していなかったら、『白黒アンジャッシュ』(千葉テレビ)出演のみにとどまり、そのまま彼は埋もれていた可能性だってある。やらかしてしまったタレントを救済する場として、地上波では果たせない役割をABEMAは担っている。

『有田哲平の引退TV』では渡部に引退を働きかけ、『チャンスの時間』では渡部の復帰戦の舞台を用意した、支離滅裂な同局。同じABEMA内で方向性が対立しているのに、どちらも渡部のプラスに作用したあたりが面白い。

『チャンスの時間』を経た後、おそらく渡部は『相席食堂』出演という道を辿る気がする。その先にキー局出演の芽があるとすれば、『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)か、『行列のできる相談所』に出演する公算が高い。2年以上休んでいたのにしゃべりのブランクを感じさせず、さらに“反省顔”という武器を携えて戻ってきた渡部は、思いのほか強い。

 今回の渡部の出演は、少なくともお笑いファンの間では好評だった。いけ好かないマルチタレントのようなポジションだったのに、謹慎→復帰を経て、逆にお笑いファンと距離が縮まったという事実が皮肉である。2年越しの新境地だ。

 

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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てらにしじゃじゅーか

最終更新:2022/12/06 07:00
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