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川口春奈×目黒蓮『silent』 “初恋”のサクラソウから“幸福”のカスミソウへ

川口春奈×目黒蓮『silent』、第5話で“『最愛』超え”確実か TVerでの「圧倒的な強さ」の理由とはの画像
フジテレビ総合エンタメメディア「フジテレビュー!!」より

 川口春奈主演、目黒蓮(Snow Man)共演のフジテレビ系木曜劇場『silent』が23日に最終回を迎えた。

 全11話をもって描かれたのは、「本気で愛した人と、音のない世界で“出会い直す”、切なくも温かいラブストーリー」という作品紹介でも強調されていた「音のない世界で出会い直す」ということだろう。あるいは、第1話に登場した「言葉は何のためにあるのか」という問い掛けとも言えるかもしれない。ドラマ放送当初に、象徴的に登場するさまざまな固有名詞の中で、スピッツの「魔法のコトバ」を取り上げ、〈紬と想はふたたび「二人だけにはわかる」「魔法のコトバ」を手にすることができるのか……『silent』はそういうラブストーリーなのかもしれない〉と書いたが、まさにそういう作品だった。

 高校時代に恋人同士だった青羽紬(川口春奈)と佐倉想(目黒蓮)。徐々に耳が聞こえにくくなる「若年発症型両側性感音難聴」を患って聴覚を失い始めた想は、高校卒業後に理由も告げず、紬に突然別れを切り出す。そして8年後、紬は想と世田谷代田駅のホームで運命の再会を果たす。関係を構築しなおしていった紬と想だったが、両想いではあるものの、交際に踏み出すには2人の間にまだためらいがあった。想が時折、暗い表情を見せること。想は、距離が近づいたことによって紬の声が聞こえないという現実が余計に辛くなり、また紬の声を忘れてしまったことにショックを受けていた。「一緒にいるほど、好きになるほど辛くなっていく」。はたして紬と想はまた結ばれるのか――というのが最終話の主題だった。

 思えば、『silent』は想の成長譚という色合いが強かったかもしれない。失聴した想は、それまでの人間関係を家族以外はすべて断ち切り、人とのコミュニケーションを避けるようになる。そのとき出会った、ろう者である桃野奈々(夏帆)に手話を学んだ想は、校正の仕事をしながら、限られた人とだけと付き合う静かな暮らしをしていた。そして紬や、かつての親友・戸川湊斗(鈴鹿央士)との再会によって少しずつ心を開くようになり、以前のような笑顔を取り戻していく。紬への想いを確かめる中で、見ないようにしていた奈々の想いにも向き合う。

 ドラマ終盤の想の葛藤や心境の変化がよくわからなかったという声もあったようだが、「想の見てる青羽って、“高校生の紬ちゃん”で止まってんだよね。青羽の変わってないとこばっか見てる。逆に、青羽はすぐ今の想のこと受け入れて、今の想のことずっと、ちゃんと見てて。ちゃんとお互いのこと見てるのに、見てる時間だけ違ってる。8年分ずれてる」という湊斗の指摘がすべてだろう。紬は、自分の声が届かないことも含めて今の想を理解しようとしているが、想はまだ過去に囚われている。だからこそ紬の声が聞こえないことが辛い。

 だが、かつて他愛もない会話ばかりをしていた高校の教室でようやく心の内の葛藤をすべて打ち明けることができ、声を発さなくてもコミュニケーションが取れたことで、想の認識は少しずつ、“高校生の紬ちゃん”から目の前の今の紬に向かっていったのだ。「昔の似ている誰かじゃなくて、今のその子をちゃんと見たほうがいいよ」「見ようとしないとダメだよ」という奈々のアドバイスも背中を押しただろう。そして、相手のすべてを理解することは不可能だとしても、「それでも一緒にいたいと思う人と、一緒にいるために言葉がある」という気づきにいたるのだ。

 終盤には、駅のホームで電車が走る騒音のなか、2人は気にすることなく手話で会話をしていた。最終話では紬が手話をする際に声に出すことが徐々に減っていく様子が見てとれ、ビデオ通話でも手話をとおして意思疎通ができるようになった紬と想。「音のない世界で出会い直す」とはこのことを指していたのではないだろうか。そして2人は「二人だけにはわかる」「魔法のコトバ」を獲得した。この“2人だけの言葉”こそ、セリフが明かされなかった耳打ちの部分だろう。その言葉が何であるのか、現在の想が本当に声を発したのかは関係ない。紬にさえ通じればいいのだから。そしてそれが伝わっているのは、紬の表情を見れば明らかだろう。1話をかけて紬と湊斗の別れを描いた『silent』らしい、これ以上なく丁寧に描かれた最終回だったと思う。

 最後に出てきた花屋のエピソードで気づいたことだが、そもそも佐倉想(さくら・そう)という名前が象徴的だった。サクラソウ(桜草)という草花の花言葉は「初恋」「青春の恋」など。『silent』の高校時代は群馬県が舞台となっているが、群馬県桐生市には「サクラソウふれあい公園」もある。「お花は音がなくて、言葉があって、気持ちが乗せられる」と説明されるとおり、「佐倉想」は高校時代の紬と想を象徴するような名前であると同時に、紬に当時から想いを寄せていた湊斗、そして学生時代の奈々と春尾正輝(風間俊介)にもそのイメージが敷衍されるような、この物語のカギともいえるネーミングだった。ちなみにサクラソウの品種に「青葉の笛」があるのは偶然だろうか。

 奈々は春尾にお祝いの花束を渡し、湊斗と想にそれぞれカスミソウを“おすそ分け”する。その「雪の結晶みたい」なカスミソウを湊斗は紬に渡す。そして紬と想はお互いにカスミソウを渡し合うのだった。カスミソウ(かすみ草)の花言葉は「幸福」や「感謝」。幸せのおすそ分けをし合うという展開もまた、善人しかいないといわれる『silent』らしい締め括り方だった。

 カスミソウをお互いにプレゼントし合うというのは、高校時代にクリスマスプレゼントで同じイヤホンを渡し合ったエピソードと重ねられている。第2話の冒頭、高校時代に教室で話していた「紙を42回折ると月に届く」という他愛もない話を、「見える言葉」でまた話し、じゃれ合う紬と想は、音楽を聴くための機器から、8年後は「幸福」を贈り合ったのだった。

新城優征(ライター)

ドラマ・映画好きの男性ライター。俳優インタビュー、Netflix配信の海外ドラマの取材経験などもあり。

しんじょうゆうせい

最終更新:2022/12/25 15:32
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